【愛し続ける】
「おぉー、カボチャン、強い、カワイイ」
自分の悪夢、幻影だけだった──ジャックオーランタンの幻影は、手を繋ぎリンクするユイの能力にユニアの能力が共鳴するように──その幻影を実体化する。
そして、そのジャックオーランタンは、ユイの悪夢を連想するように、黒い炎を作り出すと周囲の死者を焼き払う。
「アァーーー、アァーーーー、オイデ、オイデェ」
死者たちはそんなジャックオーランタン、ユイの精神獣へと手を伸ばすが──ジャックオーランタンは機敏な動きで空中を飛行し、その腕から逃れる。
「いけぇー、カボチャン」
「あら、カボチャンですか、ほんとに可愛らしく思えちゃいますね」
ユニアがそのユイの悪夢のジャックオーランタンにそう名前をつける。
そんなユニアの言葉に返答しながらも、慣れない能力、精神獣を自在に操るというのは相当な意識の集中が必要だ。
ユイは意識を途切れさせないようジャックオーランタンを目で追いながら──イメージを続ける。
「ユイ、カボチャン、こっち──」
新たに現れる死者。
戦闘慣れしていないユイの死角から迫っていた死者たちの場所をユニアが示す。
「行きなさい、カボチャンッ!!焼き払えっ」
ユイ自身も自分の精神獣をユニアが名付けたその名で呼ぶ。
機敏にジャックオーランタンはその向きを変え、空中を飛行しその死者たちの場所へ向かう。
ジャックオーランタンが持っていたカボチャのランタンに黒い炎が灯ると──
一気に周囲を黒い炎で包む。
焼き払われる死者たちは──死者自身の足元に再び現れた不気味な赤黒いゲートから伸びた無数の腕に引き込まれるように居るべき場所へと還っていく。
「なぜ、伝わらないのです──なぜ愛してくれないのです」
残った死者。
マリア、本人。
ユイはジャックオーランタンを目の前に移動させるが、マリア自身への攻撃を躊躇する。
「ユニア──ねぇ、どちらを、どちらを選ぶの──セカイはコワれるの、誰もあなたの手を握ってはくれない──ユニア──オイデ」
ただ──ユイはそんなマリアを見つめるように沈黙している。
そして、ユニアも──そんなユイの手をぎゅっと掴む。
「ユイが居る、ユイが私の手を握ってくれる」
ユニアはそうマリアへと告げる。
「どうして、どうしてなの──ユニア」
マリアはそんな返答を予想してなかったように、娘の返答に崩れるように──
「私は、私は──あの日、あの時、あなたの我侭を──そのせいでっ」
「それ以上は──言ってはいけません」
震えるユニアの手をユイが握り返すようにマリアへ答える。
「あなたが娘に“愛”された母のままで在りたいのなら──その“記憶”に生き続けたいのなら──」
ユイがマリアを強い眼差しで見る。
「──いえ、そうあるべきです、私とユニアちゃんがこの先、強く生きるためにも」
「私、私はそこにいない、なのにどうして──」
一度は娘の幸せのため受け入れたはずなのに──
ある男がその愛を簡単に狂わせた。
「お母さん──大好きだよ」
「ユニア、ユニア、だったらどうしてっ!」
自分を選ばない──
「マリアさん、そこを通してください」
ユイがもう一度マリアにそう告げる。
「どうして──」
「私とユニアがこの先を生きるためです」
「セカイは、ワタシは──どうして──」
「お母さん、私は愛し“続けるよ”──ユイと一緒に生きてお母さんを愛し“続けるね”」
「セカイはコワれるのですよ?」
「そうさせないために──この先を生きるのです」
「ワタシは居ないのですよ?」
「──お母さん、私──ユイともっと生きたい」
「──ユニア、あなたは“幸せ”ですか?」
「──うん」
「あははははは、あはは──」
マリアは狂ったように笑い始め──
それは悪い意味でマリアが開き直ったのではないかとユイが警戒するが──
狂ったような笑みの瞳を──ユイとユニアに寂しそうに向ける。
「マリア──さん?」
「何をしているのです──ユイ、私はあの時、あなたに“ユニア”をお願いと託したのです」
「お母さん?」
「ユニア、こんな酷い、醜い私が“本物”のお母さんな訳ないじゃない──」
「さぁ、一思いにその炎で私を焼き払ってしまいなさい──ユイ、ユイ、お願いします、私は偽物──記憶の私を愛して、ユニア」
「お母さん──大好きだよ」
ユニアは大粒の涙を流しながら──そんなマリアを見る。
「ミナイデ──私は偽物、私は──あなたとは居られない──」
「お願い、ユイ、私は偽物、偽物なのです、そう、そうですよね」
「ごめんなさい──」
ユイはそう一言、謝罪の言葉を口にすると──
ジャックオーランタンのランタンに黒い炎が灯る。
「やっ──お母さん」
思わず──ユニアはユイと繋ぐ右手とは逆の手に大事そうに抱えていたピンク色のクマのぬいぐるみを床に落とし、左手をマリアへと伸ばす。
「ユニア──」
黒い炎で燃える身体──思わず呼ばれた、手を差し向けられた手にマリアは手を伸ばそうとするが、それを思いとどまるように──悔しそうにただ顔を伏せる。
「さようなら──ユニア、今度こそ──本当に──」
「お母さん──」
「幸せになりなさい──ユニア、“本当”のお母さんはきっとあなたにそう言うわ──愛してる」
「おかーーさんっ」
ただ、その場の感情でマリアのもとへと走りだそうとするユニアの手をユイは掴み離さない。
「私たちは──生きます、マリアさんのためにも──」
「──私は偽物──ムコウで本物に出会えたのなら──そう伝えておきます」
マリアは優しく微笑むと──
「いや、お母さんっ」
空間に切れ目が入るように──現れた赤黒い不気味なゲートから伸びる無数の手にマリアは引きずり込まれるように姿を消す。
* * *
「ひくっひく──」
左腕にピンク色のクマを大事そうに握りしめながら、ユニアはユイの胸の中でひとしきり泣き続けた。
「大丈夫──ユニアちゃん」
「うん──もう平気」
「歩ける?」
「うん──でも、手繋ぐ」
このまま、ここにじっとしているわけにも行かない。
ユニアをこの場に置いていくわけにもいかない。
それに──
マリアさんとの約束を思い出す。
ユイはユニアと手を繋ぎ歩きながら──
「ユニアちゃん──私は高校を卒業したら一人暮らししながら大学に通おうと思ってるの──一緒に暮らそうか?」
「──ほんと?」
ユニアが期待に手を握る力が強くなる。
「うん、学校に通いながらアルバイトもするから余り一緒の時間は無いかもしれないけど」
「ユイ、私のお母さんになるの?」
「あらら、お姉ちゃんあたりが嬉しいけど──そうね、だったらお父さんが必要ですね」
「お父さん──だれ?」
「──トウカくんにでもお願いしてみようか?」
そう楽しそうに笑うユイの顔を見上げながら、
ユニアはトウカって誰だろうと首を傾げながらも──
ただ、ユイの提案に嬉しそうに握った手を揺らした。




