【悪夢《きおく》を愛する】
「おいで──ユニア」
「お母さん──」
「だめっ──ユニアちゃん」
まるで、冥界の入り口、そんな場所に実の娘を連れて行こうとでも言っているように──マリアはユニアに手招きする。
「ユニア──私の可愛い娘、“連れていきます”──私が永遠にユニアを愛します」
「“連れていく”──マリアさん、それは何を意味するのかがわかって言ってるのですかっ」
そんなマリアの言葉に怒りと恐怖の入り混じった感情の言葉をユイが吐き捨てる。
「ユイ──お母さん」
ユニアはユイに手を握られたまま、そんな子供の目線からは喧嘩を仲裁したいけどどうしていいかわからないというような表情で二人の顔を交互に眺める。
「あなたは何者ですか──あなたのユニアちゃんに対する愛は本物でした、そんなマリアさんが娘を連れて行こうなどそんな事を言うはずが──」
「愛している──愛しているわ、ユニア──あぁ、ユイ──あなたもユニアを愛してくれるのですか?だったら、あなたも一緒に──おいで、オイデ──」
「ひっ──」
そんなユニアの悲鳴、ユイも背筋に寒気が走るように──
マリアが出てきた不気味なゲートから、数多の腕だけが伸びてきて──
その中へと手招きしている。
「私だって──トウカくんたちの仲間です」
ユイは自分に言い聞かせるように。
もう一度、握りしめているユニアの手をぎゅっと掴む。
「──ユイ?」
不安そうにユニアがユイを見上げる。
「私もユニアちゃんも──大切な人を家族を失いました──それでも強く生きようと二人で誓ったのです、それにマリアさんも理解してくれたはずです」
「──このセカイはもう少しでコワれてしまう、そんな場所に愛するユニアを、ユイ、あなたを居させられない──きっと愛し合えば、ムコウでも私たちは幸せになれるはずです」
「本当に──本気で言っているのでしょうか?」
「愛しているわ──ユニア、そして、ユニアをそんなにも大切に想ってくれるあなたも──」
「だったら、そこを通してください、私、“私たち”は、まだ生きることを諦めていないのです」
「──愛しているわ、ユイ、セカイがコワれる、見たのでしょ、あの空の色を──世界の理は崩壊した、そんなセカイに救いはないのです」
「だから、ユニアちゃんを私をそこに連れていくことが救いだと言うのですか?」
「あのヒトが言ったのです──冥土へと向かう私に、コワれるセカイ、ユニアを救うための方法を」
「あのヒト?」
「催稀クウド──そう名乗っていました、冥土へ向かう私たちにあの人は干渉する力を持っていて──このセカイの行先を知っていた」
「また──その男ですか」
「コワれた世界、そこで失った肉体は転生することすら許されない──ユニアをそんな場所に居させるわけにはいかないのです」
「マリアさん、あなたの愛はそれを信じ、ユニアちゃんをそんな場所に連れていくと本気で言っているのですかっ」
「愛しているわ──」
「強い愛は──生死の世界で強い憎しみへと入れ替わる──私にはあなたの愛を受け入れることはできません」
ユイはきっぱりとそうマリアへと伝える。
「ユイ──?」
「ユニアちゃん、絶対に私の手を離さないでね」
「──うん」
ユニアは少しだけマリアの顔を申し訳なさそうに見た後、ユイに従うように返事をする。
マリアが背にする不気味なゲートから、マリア同様に死者と思われるからだが次々と姿を見せる。
中には──皮膚が青白く変色し、皮膚が溶けるように男女の区別がつかないような体もある。
「ユイー?」
次々と現れる死者。
ユイとユニアを取り囲むように──
「大丈夫──大丈夫ですから」
ユイはユニアに、自分自身に言い聞かせるように──
先ほどから──能力である悪夢をマリア、現れた死者へと送っているが、死人──そのユイの悪夢の能力は届かない。
「アァーーー、オイデェー、オイデェーーー」
その死者たちは、その腕を次々と伸ばし、ユイとユニアの身体をムコウの世界へと引き込もうとする。
「ユイ──怖いよ、どうするの?」
「──私にはシュウくんやナギサちゃんのような運動神経や強い能力はありません、あるのは──」
相手に悪夢を見せるくらい。
いえば、すでに自分のユニアの目の前が悪夢のような状況。
それをどう逆転させる。
悪夢の反対、幸福を見せる?
そんな都合よく、私の悪夢という能力はそれを実現できるのか──
しかも、この数──全員に──
自分の手を引っ張る死者の腕を振り払うようにユイは手を引く。
ユニアの身体を自分の方へと引き込み、抱き寄せる。
「ユニアちゃん──私に力を貸してくれる」
「私の力?ユイ──どうするの?」
不思議そうに尋ねるユニア。
手鏡を取り出す。
自分の顔を映す。
「私にできるのは、せいぜい悪夢を見せるだけ──」
ユイは自分の能力、そしてユニアの能力を頭の中で、冷静に分析する。
「私は──私の“悪夢”を“愛”します」
そう、答えに辿り着くように──
「ユイ──あなたの“悪夢”はなんですか?」
手鏡に映る自分の顔にユイはそう問いかける。
「カボチャのオバケ──カワイイ」
自分の悪夢の幻影を呼び出す。
「昔ね──ハロウィンの日にお兄ちゃんが私を驚かそうとあの姿に変装したの、お兄ちゃんったら張り切りすぎてさ、私がまだ幼いっていうのに──おかげで強いトラウマなんだよね」
ユイはユニアにそう自分の秘密を打ち明けるように──
「でも──強く生きる、これも私の大事な“記憶”──愛するために力を貸して、ユニアちゃん」
「うん──」
カボチャのオバケ──ジャックオーランタンはその幻影から実体化するように姿を変える。
「焼き払えッ──ジャックオーランタンッ」
ユイの意思で動く精神獣のように、ジャックオーランタンはユイのイメージに合わせその場を暴れまわる。




