【記憶《たからもの》】
「うぅ──痛いっ──」
ミリスが単独でたどり着いた先。
カオスが居る部屋。
瘴気で暴走するカオスの魔力を鞭のように収束したものでミリスの体は強く打ち付けられ、地面を転がるように後方へと弾き飛ばされる。
世界を作るためたくさんの魔力を体内に秘めていた。
──でも、ミリスの魔力はカオスとの戦闘でそのほとんどをこの街のどこかに落としてきてしまっている。
そして、それは人の感情へとリンクし、負の瘴気となり──こうしてカオスの魔力へと変換されている。
ミリスは自分の魔力の糧となる記憶をトウカの父親、ユイシロの記憶を食べて以来一度も口にしていない。
タツキの記憶の一部を口に吸いこんだがそれはすぐに魔力へと変換しその場を凌ぐために使用しきっている。
それに、トウカが自分の守り人になっていらい、ミリスはまともな戦闘もしていない。
これまでやってきたことは、白竜として、魔力を吐き出す事とカオスの頭に噛みつくくらいのことだ。
瘴気を取り込んだ──カオスと真面にやりあうなど、勝負はすでに決まっている。
そこに運も確率も存在していない。
「うぅ──」
「ムダだよ、ミリス──わかるだろ、ミリスだけじゃボクは止められない、父様はもう居ない──セカイが混沌に傾き壊れるんだ」
「痛いよ──僕たちにも感覚があるんだね」
「ムダだよ──セカイはコワれる、それは人間たちが望んだのさ」
「駄目だよ、カオス──この世界にはね、僕の宝物あるのさ」
ミリスは、よろよろとその場に立ち上がる。
「カオス、僕にはね──僕のお部屋があるんだ、そこにはおかあさんが選んでくれた可愛らしいカーテンと僕一人で眠るには寂しいおっきなベッドがあるのさ──」
「ミリス──急に何言ってんのさ」
「僕はね、トウカとナギサちゃんと、肉まんやコロッケ、ハンバーグ、いっぱい、いっぱい美味しいものを食べたんだ」
「何言ってんのさっ!!」
「でも、僕の一番の大好物はやっぱりトウカが作ってくれるオムライスだよ」
「黙ってよ、ねぇ──ミリス」
「僕はね、お母さんと一緒に、アニメを見るよ──お母さんね、僕に隠れて色々調べて知ったかするんだ──それがすごく、嬉しいんだよ──僕の部屋のベッドは大きいからお母さんをお招きして一緒に昼寝をするよ──」
「ねぇ──煩い、ウルサイ、ねぇ、ミリスってばっ」
カオスがミリスとは正反対の真っ黒な長い髪を両手でくしゃくしゃにするように掴む。
「ナギサちゃんとバカ言うよ、シュウは乱暴者、でもね──結構情には弱いんだよ、ユイちゃんは優しい、リヴィアちゃんは面白い、カリンちゃんはねしっかりものだよ──みんな、僕のお友達だよ」
「ウルサイッ──ウルサィッ」
魔力の鞭がミリスの体を強く弾き飛ばす。
「──痛い──うぅ」
ミリスはそれでも起き上がる。
「全部──全部、僕の記憶だよ」
ミリスは痛そうにしていた顔でにししと笑い、そんな宝物をカオスに見せびらかすように語る。
──────
「困りました──」
トウカたちと別れ、さらにシュウやリヴィアたちと逸れたユイが一人通路で立ち止まる。
ユイには、シュウやリヴィアのような運動神経や筋力も無ければ、その能力も戦闘向きのものではない。
こんな敵の拠点の真ん中で──
自分ひとりになるということが──どれだけ危険かは理解している。
「引き返す──にしても、まったく別な場所──ですね」
黙っているわけにも行かない。
ユイは意を消して前へ進む。
引き返すよりかは前に進むほうが仲間との合流の確率は極めて高いと判断する。
ひとつの部屋の前に立つ。
扉の横にあったボタンを押すと、その扉は普通に開かれる。
「ユイ──」
部屋に入るとピンクのクマのぬいぐるみを持った女の子がユイを発見するとその名を大きな声で呼ぶ。
「えっ──ユニアちゃん?」
タタタッとユイの方にピンク色のテディベアを大事そうに抱えたままユニアが駆け寄ってくる。
「どうしてこんな場所に?」
ユイはその場にしゃがみ、そのユニアの小さな体を両手で抱きかかえながら訪ねる。
「わかんない──“お母さん”がね、呼んでいたの、だからね──その声の聞こえる方に来たの──」
「お母さん?マリアさん?どうして──ユニアちゃん、その能力は?」
「違う、私じゃないもん──私が呼び出したんじゃないもん」
自分が能力で記憶の中の死者の魂を呼び出していたのかとユイが疑っていると思い機嫌を損ねたように顔を背けてしまう。
「あらら、ごめんなさい──ユニアちゃん、違うの」
「──ユイ、ほんとに私のこと疑ってない?」
「うん、疑ってないよ」
死をそれを受け入れてしまったら、その愛は実体化できない。
それがユニアの能力。
だから──ユニアの能力でマリアさんがこの場に現れることは二度とない。
「じゃぁ、ユイ──手を繋ぐ、そしたら許してあげる」
「うん、仲直りしよう」
ユイはそのユニアの手を握る。
「うん」
ユニアは満足そうに微笑む。
「ユニア──おいで──」
ユイが向かう、部屋の先にある通路。
その近くに赤黒い不気味なゲートが発生している。
そこから、白く細い腕が手招きするように。
「お母さん?」
「駄目よ、ユニアちゃん」
その声に反応するユニアの手をぎゅっとユイが掴む。
「でも、お母さんの声──おいでって?」
ユイは周囲を見渡す──
「誰か──この現象を起こしている人が──」
「居ません──ユイ、ユニアを返して」
「そんな──どうして」
目の前の不気味なゲート。
その腕の先、麦わら帽子、茶色の長い髪、白のワンピース。
「お母さん──」
「マリアさん、どうして──」
その不気味なゲートから現れた、女性に──
ユイはたった一人、立ち向かおうとユニアの手を強く握りしめる。




