【運ごときで覆せるか】
──────
“命”に価値を求めるな──
富豪も貧民も──美人も醜女も関係ない──
奪ったものの価値に囚われるな──
囚われればその命を奪うことに躊躇いが産まれる。
誰も愛さない──
誰にも愛されない──
誰も助けない──
誰も救わない──
俺はコワスだけ──
それが暗殺者だ──
それは──誰のために?
──考えるな、そこに価値を求めるな。
俺はただ奪うだけ、コワスだけ。
──────
「平和な脳みそだ──正解、不正解の話かよ」
ガイはリヴィアを蔑むように冷笑の目を向ける。
「死ぬ事に終わることに実感がないだけだ──」
死への恐怖が足りていない。
以前にリヴィアとエルジナが衝突した時にも、リヴィアがエルジナに言われた言葉だ。
「馬鹿者がッ──貴様には“根性”が足りていないだけだっ」
「エルジナ──と呼ばれていたか?お前は元、戦場に立っていた人間だろ──こんな頭のネジが足りねぇような奴と一緒に居たら、戦場での生存率を落とすだけだ──俺は誰ともつるまない、その命を背負うことも、その命の犠牲の巻き添えに合うのもごめんだからな」
「知っているさ──もちろんな──そして、リヴィア、こいつにも俺は自分と同じ匂いを感じている、それでいて俺は、リヴィアには俺と違う生き方を望む──いや、こいつにはそれを成し遂げる馬鹿だと思っている」
「──価値を求めるな、奪われるモノにコワレるモノに、その価値は不要だ」
エルジナ同様、刃渡りの大きいサバイバルナイフを右手にガイが握る。
そして──床に消えるように、床に溶け込んでいくようにその姿が消える。
「っ!?」
「エルジナッ!!」
リヴィアが思わず叫ぶと同時に、エルジナが左の手のひらで右の首筋をおさえる。
後ろから不意に現れたガイにその首筋を切り付けられ、血の代わりに吹き出す魔力をおさえつける。
「昔の戦場なら──死んでいたな、エルジナ」
現に今は魔力がその致命傷の代償を果たしている。
「勝負など一瞬だ──命など一瞬だ、そこに選択の余地など無い──命のやり取りなどギャンブルだ、そこを支配するのは“運”だよ」
「くだらんっ──そう言ったはずだっ」
「リヴィアといったか?おまえは“たまたま”今まで、命を奪うような相手の前に身を置かなかった──だが、俺と会ってその“運”は尽きたんだ」
エルジナの背後からガイの姿が消えている。
「──リヴィア、後ろだっ」
エルジナが斬られた首をおさえながらリヴィアへと告げる。
「ぐっ──あぁっ」
だが、反応ができない──そんな一瞬。
言葉通り、殺すという行為に何のためらいもない。
エルジナ同様に斬られた首をおさえるリヴィア。
「──根性ッ!!」
「っ!?」
斬られた首筋をおさえながら、右うでを自分の背の方へとまわすと、ガイの姿を確認せずその頭を鷲掴む。
「根性、努力、気合──あたしの好きな言葉だ、それは断じて“運”などではないっ」
頭を掴まれているガイも、首元をおさえつかながらそんなリヴィアを見るエルジナもその言葉は当然理解できない。
「運など、命の心配など──後ろを向く暇があれば前を見ろ──ッ」
「──っ」
リヴィアは左手で首元をおさえ、右手でガイの頭を掴んだままノシノシと前に歩いて行き──
「ドこんじょーーーッ、あたしは前だけを見て生きてきた──ッ」
「──リヴィア、ただ、考えも無く口走っていた言葉だと思っていたが──」
「この肉体、精神、戦術は根性と努力の積み重ね、その積み上げたものが運ごときで覆せるわけがなーーーいっ」
その鉄のような壁がへこむくらいの勢いでリヴィアがガイの身体を叩きつける。
「ぐっがぁ──」
「──なんて、パワーだ、本当に学生の女の力か?」
「立て、エルジナーーー、お前の根性は努力はそんなものかっ」
「威勢がいいな──だが、お前の命は尽きた」
壁に叩きつけたはずのガイの姿が無くなり──真後ろにその気配を感じる。
「全く──リヴィア、あんたが俺にその生き方を説教されるとはな──残念だが運が尽きたのは貴様だ、ガイ」
さらにその真後ろにエルジナの姿がある。
「でる目に価値があるのなら、運の目など、努力次第でいくらでも変えられる──それを不正と呼べるのなら──」
ガイより先に、エルジナがその右手のナイフを引く。
「ぐぁ──がぁ」
ガイは首元をおさえながら──床に溶けるように姿を消す。
「ぐ──なるほど──」
離れた、何やら資料の詰まった棚の影から姿を現し、その息を整えるガイ。
「その努力も、友情も──戦略も──すべて潰す、そこに残るのは“運”だけだ」
「最後に残るのは“運”だけだ──結果は全てそこに収束される」
「馬鹿者っ──気合と根性がまだ残っているッ」
「まて、リヴィア──迂闊に近寄るなっ」
相手の能力がまだ把握できていない──
液体のようにその姿が床に溶け──不意に背後から現れる。
もちろん、能力がそれだけとも限らない。
「馬鹿者ッ──根性だっ、エルジナッ」
リヴィアは決して振り返ろうとしない。
前だけを見る。
「リヴィア──それは確かに勇ましく綺麗だ──俺には無い──だが──」
そんなお前のような人間を戦場で幾度も散るのを見てきた──
と言うように寂しそうな瞳をその背に向ける。
「馬鹿者ッ──かくれんぼのつもりかっ!!」
再び消えるガイの姿。
室内をきょろきょろと見渡すリヴィア。
エルジナはリヴィア、自分の背後を意識するが──
チチチチチッ
その姿は無く、不意に奇妙な物音が室内に響いている。
一つの何か荷物を積めるような正方形の木箱。
エルジナがリヴィアより先にその中に気配を感じる。
「そこかっ──」
リヴィアも遅れてそれに気づくように近づく。
「駄目だっリヴィアッ!!」
距離はエルジナの方が近い、エルジナはリヴィアよりも前にその箱の前に立つと、リヴィアより先にその箱の中を確認するように破壊する。
ドーーーーンッと凄まじく大きな爆発。
「迂闊だな──」
別の木箱の影に、ガイはいつの間にか立っている。
「言っただろ──そんな奴と一緒に居るのは生存率を落とすだけだと」
「──くっ」
その爆弾のような爆発──それを身を持って受けたエルジナは少しだけ悔しそうな表情をガイへと向ける。
そして──ガイの姿が再び消える。
チチチチチチッ──
そんなモノ音と気配が──周囲、いくつかの場所から感じる。
そのどこかが“あたり”でガイが隠れているというように──
それが“運”だというように──
「ドこんじょーーーーっ」
リヴィアは構わず身近な箱を破壊し、その身体が爆発に巻き込まれる。
「──リヴィア、迂闊に動くなっ」
エルジナはそう叫ぶが──
「こんじょーーーーっ」
リヴィアはそんな後方の方には振り返らない。
前しか見ない。
目についた──気配のする箱を破壊しては爆発に巻き込まれる。
そのガイの言う運そのものを根性だけで破壊していく。
「馬鹿者──っ、あたしの好きな言葉は三つあるーーーっ、気合、根性──ど根性っ!!そこに“運”など存在しないっ」
自分の勝敗には“確率”など無い、その実力だけだと──
「くそ──っ」
エルジナは──ただ、そんな前だけを見てその身を消耗させるリヴィアの後ろで──リヴィアとは違う視点でガイを探す様に目線を泳がせる。




