【関係ねぇ──全部ぶっ飛ばす】
─────
──力なき者にはその正しいことすらも証明ができない。
「やめないかっ!!」
10年くらい前だろうか──
クラスメイトのその男子はいつも、カツアゲ、虐めの対象となっていた。
正義──愛──世界はそれで溢れるべきだ。
だから、そんな暴力は俺は見過ごせない。
だから、俺は──いつだってそれを仲裁しようと思った。
今ほど、身長も大きくなかった。
体格も、今のような鍛えた体もなかった。
でも──それでも俺は正しくあろうと思った。
しかし、その時の力の無かった俺は、仲裁に入っても──
ただ、一緒にその暴力の対象となるだけだった。
俺は担任や親にも相談した。
それでも、担任はまともに話を聞いてはくれず、
親も──その不良グループはもちろん、その苛めを受けているクラスメイトにもかかわるなと忠告するだけだった。
そこには、全く愛も正義も感じられなかった。
いつしか、その対象は、そのクラスメイトの男子から俺へと変わった。
正義は俺だ──
正しいのは俺だ──
俺はただ、その理不尽な暴力に耐え続ける。
「やめろ──」
一つ上の上級生の女子生徒。
空手と柔道──色々な格闘技をやっている。
そんな男子生徒グループに少しも臆することなく──
仲裁に入り──その男子生徒たちを打ちのめした。
特別、美人とかそういう訳じゃなかったが、誰よりも美しく正しく見えた。
俺はそんな彼女に弟子入りし、その武と正義を学んだ。
その後、いろいろな正義に触れた映画などを見た。
そのどれもが正義を唱えた者は最後にその力でその言葉を証明した。
正義とは常に悪よりも強くなければ証明されない。
そんな──俺の師匠である先輩が──
より強く大きい悪に屈した。
ここ最近、転校してきたという国会権力者の息子。
その後ろ盾と──そしてその男自身、いろいろと格闘技もやっていて実力もあった。
そんなやりたい放題の男に先輩は立ち向かったが──
そんな先輩の正義はその男に敗れたうえに──親も先輩もこの街に学園に通い続けることができないくらいの濡れ衣を着せられた。
先輩を取り戻したい訳ではない。
でも──俺はその男に挑まなければならない。
なぜ?
それはその男が正しくないからだ。
先輩は──その悪よりも弱かった。
だから、正義を証明できなかった。
強くなれ──
最後まで立っていたものこそ正義の証明だ。
正義こそが愛。
その暴力を止めろ。
止めるのは愛、その愛は正義。
俺は“先輩”を愛していたのではない。
俺はその“強さ”の正義を見ていた。
だから──正義の証明は──暴力だ。
─────
「筋肉を愛せ──さすれば正義は負けない」
溜めの構えでゲンがシュウとスバルへと向けて言っている。
「ん──スバル、本当に殴っていいのか?」
「先輩、なんでちょっと乗り気なんだよ──」
えっ?殴っていいの?とちょっと浮きだつようにスバルを見るシュウ。
「あの──凶悪的な暴力、その対抗手段に俺と先輩が協力するっていえば──わかるだろ?」
「殴っていいんだな?」
多分、シュウは理解していない。
「あぁ──あとは俺が何とかする、それなりに本気で来い先輩」
「歯、食いしばっとけっ」
「おい、能力を解くなっ──素手じゃなくてその魔力を纏った手甲で殴るんだよ」
律儀に手甲を解除し、能力なしの素手で殴ろうとしたシュウを慌てて静止させるスバル。
「あん?てめぇをのすのに能力は必要ねーんだよ」
「なに、普通に殴ろうとしてんだよ──」
「はぁ、殴れって言ったのはてめぇだろうが──」
「ちげぇよ──先輩、おまえは本当に俺の能力を一つも理解しないで──俺はこんな奴に負けたのかよ」
「──よくわかんねーけど」
再びシュウの右手に魔力が纏うと手甲が作られる。
「うらぁーーーーっ」
「加減はしろよ──」
「注文が多い、知るかよっ」
「──俺も後から利息つけて返すからな」
そのシュウの一撃をバタフライナイフの刃で受け止める。
「あーーーーーーいっぱーーーーーんちっ」
そんなやり取りをしている二人にゲンの凶悪なパンチが飛んでくる。
スバルはシュウの一撃を受け止めたナイフを滑らせるようにゲンへと向け、刃の先をゲンの拳に向ける。
その刃の先と拳がぶつかり合うと──
ドンッという互いの火力がぶつかり合うような衝撃音と共に、互いの身体が後方に吹っ飛ぶ。
「あぁーーーーーいっ」
転がるように吹っ飛ぶスバルだが、ゲンはその言葉を発することで力でも発揮しているかのように──軽く体を地面に引きづりながらも直立した姿勢を保つ。
「うらぁーーーーーっ」
さらに──シュウがその拳をゲンの左頬に叩き込む。
「言葉は愛で──愛は正義で──正義は力で証明される」
シュウの拳で押し込まれた頭を右に傾けたままゲンはそう叫ぶ。
「シュウ、貴様に送りたい言葉は沢山あるっ」
「いらねーよっ」
「あーーーーいっ」
正拳をシュウが手甲で防ぐ。
「そして、愛、愛、愛、愛、あーーーーいっ」
「ぐっ──がっ、くそ、てめぇはサルか──」
その右と左の正拳のラッシュを受けながらシュウが小言を漏らす。
「故に教育的制裁は愛ッ──正義だっ」
「うるせーって言ってんだよっ」
シュウもその拳を受けながらも、右腕を振り上げる。
「シュウ、お前の暴力にはきちんと意味があるっ」
「──だから、俺は負けねーために、ただ邪魔な奴をぶん殴るだけだよっ」
「脳筋バカは本当に真正面から殴り合いたがる──」
呆れたような口調でスバルはいつの間にかとったゲンの背後から呟く。
そして、あえてそのシュウの拳をそのバタフライナイフで受け止める。
「な──スバルてめぇ」
結果、背後から延ばしたスバルの右腕に握られているナイフにシュウの拳は遮られ、ゲンの拳をシュウが受けている。
そして、スバルは何事もなかったかのように手を戻すと──
「ぐっ──」
背後からそのバタフライナイフをゲンへと突き刺し──
ドンッ──とシュウから奪った魔力を開放する。
「俺のお膳立てはこれくらいでいいだろ、先輩──あとはあんたの得意の根性だろ」
軽くゲンの一撃で意識を持っていかれていたシュウがその言葉で正気を取り戻す。
「あぁーーーーーいっ」
背後からの攻撃──前のめりに倒れそうになる身体をゲンはその得意の愛の言葉で正気を保つ。
「うらぁーーーーーっ」
「あぁーーーーいっ」
後はただ、シュウとゲンの拳の打ち込み合いが続く。
──負けたくないのは、“父”の汚名の返上か。
シュウは──明らかな体格さ、その失いかける意識をただ保ち、倒れないために拳を振り上げる。
──その正義の証明は、憧れていた先輩への弔いか──
ゲンはただ、愛を言葉にしながら拳を振り上げる。
──それは、どれも“無駄”な努力だ。
スバルは一人、蔑むような瞳を二人に向ける。
ゆっくりと二人の元へと歩いていく。
「例えば──誰かの復讐のために、誰かに危害を加えたいとする、そのためにその努力は必要か?」
スバルは冷めた目でシュウを見上げながらその一撃を受け止める。
そしてその体を突き飛ばすようにゲンの前へと代わりに立つ。
「その復讐といえど、誰かに暴力を振るうなど正当化されることのない──それをお前らのように努力して、拳を振るえばその暴力は正当化されるのか?俺がこうして卑怯を突き立てることに、何の違いがある?」
シュウから奪った魔力のバタフライナイフをゲンへと突きつける。
ドンッとゲンに突き刺したナイフから魔力を放出する強い衝撃が起こる。
「──愛、その強さは“愛”だ、復讐──努力、その先に強さを求めたのは“愛”、その正義は愛の象徴だ──あぁーーーい」
その手柄をすべてナイフ一つで奪おうとしたスバルの一撃を──
ゲンは未だにその言葉一つで耐え続ける。
「関係ねぇ──そう言ってるだろ、俺は“倒れねぇ”──だから俺はお前が倒れるまで“殴る”──」
シュウはスバルを突き飛ばし返すと──自らその場に戻り振り下ろしたゲンの拳をその額で受け止める。
「ごちゃごちゃうるせーんだよ──正義だ卑怯だ、そんなもんを女々しく正当化したいなら──夢の中でやっていろっ」
そのゲンの一撃を受けても──まっすぐゲンを見つめるシュウの瞳に──
「愛だ──」
そのシュウの瞳に、拳にゲンは何かを見せられるように──
目を見開き──
負けを拳を受け入れるように──
その一撃を顔面で受け止める。
そして、その一撃に耐えることなく──後ろへ無抵抗に大きな音を立て倒れる。
「関係ねぇーよ──全部、全部──ぶっ飛ばす」
シュウはそんな倒れたゲンを見ながら、頭の中の雑音をかき消すようにそう呟く。




