【暴力《せいぎ》】
「バサバサッ──」
白竜はそう自分の背中から生える翼の動きを言葉にしながら羽ばたかせ──見知らぬ施設を飛んでいる。
「こっちだね──バサバサ」
何かの匂いを辿るように──その小型の体と浮遊能力を駆使して、本来人間が入り込めないような、建物の設備を繋ぐためなどに開けられた細い通路などを通り、どこかを目指すように突き進んでいく。
「ねぇ──トウカ、僕はお腹が空いたよ──」
「あ──そっか、トウカ──居ない」
白竜はいつもそこにあった身体を見つめるようにその小さな頭を振り返らせ、寂しそうな瞳を向ける。
「バサバサ──疲れた──休みたい、おかあさんとお昼寝したい──」
「おかあさん、お仕事──大変、終わったかな?」
「この──部屋だ」
一つの部屋にたどり着く。
そして、ミリスはパタパタと小さな翼を羽ばたかせながら、その場所を維持するように浮遊しながら、再び──今は居ない誰かを見つめるように──
「ばいばい──」
そう呟くように言葉にし、白く長い髪──少女の姿に変わる。
扉の奥へと進む。
「がおーーー、久びりだね、カオス──」
「うぅ、ウゥ──ミリ─ス、だめ──コナイデ──アタマが痛い、イタイよ──ボクは──」
長い黒髪の少年の姿をした黒竜。
両手で頭を抱えるように訴えている。
「だったら、僕がその痛いカオスの頭をガブリと齧ってあげるよ」
「ウゥ──だめ、来ちゃダメ──逃げるんだよ、ニゲテよ──ボクは──」
「何を言っているんだい──僕はね、“守り”にきたんだ」
「ウゥ──守る?セカイ──を?」
「──違うよ、カオス──僕が守るのは世界でも君でもない──」
「セカイ──ボク──ズルい、ズルいよミリス──ボクが、ボクがこんなにもアタマが痛いのに──頑張って抗ってるのに──ミリスは、ミリスだけ──」
「にしし、僕はねカオス──“このあと”おかあさんと僕のお気に入りのアニメを見ながら、トウカに作らせた特大オムライスを食べるんだよ、どうだい羨ましいかい?」
どこか寂しそうな表情を隠せないまま、いじわるそうな笑みを作りミリスがカオスを挑発するように言う。
─────
「──どうなってんだよ、くそ」
トウカたちと別れ、別のルートを進んでいた、シュウ、ユイ、リヴィア、エルジナ、スバル。
シュウがそんな輪を逸れたかのように一人、歩いている。
逸れるような入り込んだ作りなどしていない。
ただ、一本通路を歩いていたはずだ。
「──何者かの能力かよ──関係ねぇ突き進むだけだけどな」
シュウは振り返ることもせずにただ、一人で前に進んでいく。
何もない──広い正方形型の部屋に出る。
シュウは何か発言することもなく、ただ──数歩部屋の中に数歩だけ踏み入れると立ち止まる。
「愛っ──正義──セカイの定義は全てここにあるっ」
独り言か、シュウヘ話しかけているのか──
実に腹の底から声をだしているような、部屋中に響き渡る声で──
高身長、シュウ以上に筋肉質の男が立っている。
「中々、良い筋肉をしているな少年、名を聞こう」
「俺か?俺は──児愛 ゲンだ」
「──聞いてねぇよ」
「面倒だから名乗っておく──壊島 シュウ──」
「そうか、シュウ──このセカイに置いて悪とは何か──人を世界を恐怖させる象徴となる悪とは何か──答えろ、シュウ」
「うるせぇ、リヴィアみたいなノリの奴だな」
通常で必要な会話のトーンより1オクターブ高いような声でいちいち言葉を発する男へと言う。
「そう──暴力、人はそんな力に屈し──愛を奪われる」
一人勝手に会話を進めるゲンという男。
「だったのなら、正義を成すのはなんだ、愛を証明するものはなんだ、シュウ」
「──関係ない、そんな暴力をぶっ潰す」
シュウはゲンの言う、正義とか愛の定義など関係ないと返すが──
「正解だっ!!さすがは俺が認めた筋肉の持ち主だシュウ──筋肉こそ正義、力こそ愛──暴力に屈しない、己の証明だ」
シュウが適当に返した言葉が、ゲンが定義する正義と一致したようにベラベラとしゃべり始める。
「うるせぇーよ、俺はてめぇみたいな言葉だけ威勢のいい奴は大嫌いなんだよ」
「てめぇが俺の敵かそうじゃないか、それだけで十分だ」
「シュウ──君はすでに理解している、いや──シュウ、おまえの筋肉は理解している、シュウ、君と俺がどちらが“正しい”のかは、この先──立っていた方だと」
「──敵ってことでOKだよな」
シュウの右手に赤い瘴気の魔力がまとわりつくように──手甲が作り出される。
「証明してみろ、シュウ──君にこの俺を──」
そんな会話を続けるゲンの左の頬に──問答無用に繰り出すシュウの拳がめり込んでいる。
「正義──あーーーいっ!!」
ゲンはそう叫ぶように──両足を踏ん張り、その一撃に耐えている。
「いちいち、うるせー声のやつだな」
「シュウ、そんなものか──君の正義は、愛は──もっと、もっとだっ」
そうゲンは言いながら、今度は自分の番だともいうように、力をためるように右腕を背中よりも後ろに引く。
「あーーーーーーいっ──ぱーーーーんちっ!!」
「ぐっ──がぁっ」
そんなゲンのただの力任せの暴力的なパンチを手甲の右腕で受け止めながらも──そのパワーにシュウの体が吹っ飛ばされるように──地面を転がる。
「──ふざけやがって、国民的なあんこの入ったパンを擬人化させたヒーローの必殺技みたいなネーミングセンスな上にただのパンチじゃねーか」
「悲しい、悲しいな──シュウ、人はその力の中でしか正義を証明できない──勝てば正義、負ければ悪──セカイはそう定義される──自分が正しくありたいのなら──負けることは許されない」
「──関係ねぇよ、俺は俺の邪魔をするやつをただぶん殴るだけだ」
「変わらない、変わらないなシュウ──君はその暴力でその正義を正当化しようとしているだけだ」
「うるせぇーって言ってんだろ」
「シュウ──それを証明したいのなら、勝てばいい、最後まで立っていたものこそ──それを証明できる──うっぐ──」
「だってさ──先輩、俺の卑怯も正義でいいんだよな」
いつの間にかゲンの後ろに立っていたスバルがゲンの背にバタフライナイフを突き刺しそう告げる。




