【家族《ぜんぶ》を守る】
真っ暗な世界──
月面のような地面。
よくわからないけど、そこは世界を創っている場所。
その疑似世界らしい。
そんな場所に、父さんの体をリエンが逃がし、
その疑似世界に、一時的に俺とリエンの魔力もここに転送されたらしい。
目の前には──記憶になど一切ない男が──
俺の父さんだと言い──
出会ったときには、母さんに代わり一発くらい殴ってやろうと思ったのに──
ぼろぼろで──
向こうだって俺らの記憶など無いはずなのに──
ただ──世界ではなく、家族のために──
今日まで戦っていた──ただの英雄が居た──
そんなぼろぼろな状態の英雄に、今更──目の前に突き出され──
「世界を守るか──どっちかを選べじゃないだろ」
どう見たって──どちらを救うのが正解で、どちらが救えるのかも決まっている。
もう──手遅れだ。
父さんを救えば世界が救えない。
そもそもが、今更救えるような──状態じゃ──ない。
それでも──“選べ”というのか。
「ハカイが始まる──負の感情が僕を支配している──聞こえないんだ、感情を声を発するのがやっとなんだ──ねぇ、リエンちゃん──僕を救ってくれないかな?ねぇ──トウカ、僕は僕は頑張れたのかな?僕は──もう休んでもいいのかい?」
「ふざけるな──あんたを引きずってでも連れて帰る、あんたの帰りを俺よりもずっとずっと待ち続けてる人が居るんだよッあんたの口で謝らせるんだよっ」
「ははは、それは──困ったな──ねぇ、ミリスとカオスは知っているかい?ふたりとも──元気に喧嘩してるのかな?」
「ミリス──は、俺の家族だ──もう家にはミリスの部屋もあるんだ──みんなで“4人”で暮らすんだよッ」
「ミリス──家族?そっか──ミリスとトウカ、出会えていたのか──今日までミリスのこと、守ってくれていたんだね──トウカ」
「カオスは──そうか、あの男の手の中にあるんだったね──」
父さんは何かを思い出すように──カオスという名を呟く。
「リエンちゃん──」
「なに──?」
「時間がない──お願い──できるかな?」
「トウカくん──」
リエンが右手を鞘に収まった剣のグリップを握り──鞘から剣を抜く支持を俺に委ねるように俺を見る。
「俺は──まだ、泣かねーからなっ」
「──結代 トウカッ!」
「泣くのは全部試して──ダメだった時だ──」
「──時間がないっ、そう言ったはずだ、トウカくんっ」
「──答えが決められないんだろ、演じられないんだろ、だったら俺の支持を待てよっ」
「グッ──あぁ、トウカ、リエンチャ──」
ぼろぼろだった父さんの体が嘘のように──
何かに操られているかのように──
体に黒い刺青のようなものが現れ──
真っ黒な網膜と真っ白な瞳を見開く。
「救うんだ──守るんだ──“家族”──俺は」
「トウカくん──ぼくの言ったことを覚えているのか」
「だったら、なんで──俺をここに連れてきた、リエンっ」
「父さんを止めるなら、あんたの仲間の中の方が適任が居る──あんた自身が望んでいた言葉じゃないのかよっ」
俺を見ていたリエンの目が少し驚くように見開く。
「偽善だって言うのなら──なってやる──俺は“家族を守る”──俺は演じるんじゃない、リエン、あんたが言う──正義に──今、俺がっ」
「“守る”しかできない、君が──どうやって?」
すぐに平然とした表情となったリエンは俺にそう告げる。
「──リエン、手を貸してほしい──」
「勇ましい言葉を吐いた割には、意外と呆気なくぼくを頼ってくれたものだな、トウカくん」
「──“悪役”を演じるというのなら演じろよ“偽善”でもなんでも」
「──面白い──ならば“演じよう”──」
リエンはそう言葉にすると剣を抜くはずの右手をグリップから手を放し、俺の前までゆっくりと歩き近づくと、その場に片膝をつくようにしゃがみ──
「“我が姫君”を救うため、演じよう──この一時だけ──ぼくは君の剣となろう──」
リエンは一国の王へ誓いを立てるように、そのまま俺に頭を下げる。
そして──何事もなかったように体を起こすと──
瘴気の魔力に取り込まれた父さんを見る。
「さて──トウカくん、ぼくはまず何を演じればいい?」
「まずは──父さんをあの瘴気の魔力を抑え込む──」
「──単純に力押しでいいのか?」
「あぁ──」
「それで──どうにかできると?」
「俺には──守る以外にも、瘴気を払う力が魔力にあるようなんだ」
ナギサやシュウが、あのクウドという男に感情に干渉され、敵対した時に瘴気に戻したことを思い返す。
「──知っているよ、だが──感情が壊れた相手には通用しない、そうだったはずだ」
何でも知っている──というように、俺のその意図を読み取ったうえでその言葉を返す。
「試すんだ──全部」
俺は右手に魔力を纏わせる。
現れては次々と父さんの体の中に取り込まれていた瘴気の塊が──
今度は次々と地面に落ちると──
黒い水たまりのようなものが実体化するように──
黒き化け物に姿を変えていく。
「演じよう──それは“富”──その道はぼくが切り開く」
リエンに呼び出された武器が次々に化け物の元へと落ちる。
姿を現したばかりの化け物がそのリエンの武装に蹴散らされていくが──
すぐに新しい化け物が呼び出される。
「グ──アァ」
父さんの体を乗っ取った化け物は──そんな化け物同様に呼び出されるリエンの武器を見渡すように──
「──!?」
リエンの呼び出した宙に浮かぶ剣や槍が──
薄い黒の透明なシャボン玉のような結界の中に包まれていく。
そして、それはリエンが狙った方向とは別──
結界に包まれたまま──地面や岩場のような場所へと叩きつけられるように落下していく。
そして──リエンの呼び出す武器よりも多く創り出された薄い透明な黒の中が空の結界を攻撃手段にするように──リエンの元へと飛ばす。
ガンッ──
俺は右手を伸ばすと──透明な結界をリエンの前に創る。
「その体はぼくの大切な人のものだ──できれば傷つけたくない、化け物──さっさとそれを返せ」
俺の透明な結界にその黒い結界の球はかき消される。
その透明な板の奥からリエンが父さんを睨みつけるように言う。
リエンの左右に突き刺さっていた赤と青色の刃の刀──
それを引き抜く。
「演じよう──それは“名声”──トウカくん、君が全部試すというのなら──ぼくはそのすべてを演じよう──」
「俺は演じるんじゃない──それでも──」
「知っているさ──演じよう──」
「「 みんな──守るッ!! 」」
俺とリエンは同時に地面を蹴り上げそう叫ぶ──




