【君はどちらを演じる?】
ナギサとサイカと別れ、続く通路をリエンの背中を追うように歩く。
「──彼女が心配か?」
「それは──当然、心配だ」
背に居る俺に振り向くことなくリエンが俺に尋ねるように言う。
「トウカくん、君は──君たちはここが危険だと知ったうえで、君はここに出向き、彼女たちはそんな君についてきたのではなのか?」
「──そんなことは、でも──犠牲を出したいわけじゃない」
「──皆を“守る”──だったかな」
不意に足を止めるリエン。
その少し後ろで俺も足を止める。
「──だったなら、初めからこんな場所には来なければよかった、こんな場所に彼女たちを連れてこなければよかった、そんな答えは無かったのか?」
「──世界があんなだ、俺達には能力もある──もちろん、世界がここまで危険な状態でクウドという男があれほど危険な奴だとは考えてなかった、それでも、ミリスを家族を一人でこんな場所に来させることなどできないッ」
「──だから、みんなを守る──それを演じた結果、“俺は世界”を“守りました”、それが君の演じる物語か、トウカくん」
「──俺にはできない、そう言いたいのか──」
「いいや──そうじゃないさ、トウカくん、そんな物語を演じきった君は世界中の人間は君をどう呼ぶだろうか」
「───」
「──そうだな、君は世界を救った“正義のヒーロー”かな、トウカくん」
「──正義は演じて、成立するものじゃない──」
「おや──謙虚だな、いかにも、正義の味方が言いそうな言葉だ、トウカくん」
「だけど、それには賛同する──演じた正義など偽善に過ぎない──それは悪よりも非道だよ」
「──だから、あなたは正義を演じようとせず、“悪役”を演じ続けると言うのか」
「正義とは悪がいて初めて成立するのさ、正義に取って悪は必要なんだよ」
「正義も悪も関係ない──俺は守りたいものだけを守る──」
「なるほど──それでは、そんなトウカくん、君にこの質問を送ろう」
そこで、リエンが振り返りようやく俺と目が合う。
整った顔、女性が描く理想の王子様のような容姿。
そんな瞳が俺の顔を映す。
「──それに答える意味は?」
「あるさ──君も守るという意思が本物であるならね」
試すように見透かすように瞳が俺を見る。
「君は彼女たち仲間を守り続ける、彼女たちを守るためには世界をも守らないとならない──そうなれば当然、トウカくん、君は世界を守るのだろ?」
「──そう、だな」
言い回しが少し気に入らなかったが同意する。
「そんな世界を守るために、何かを犠牲に──切り離さなければならない、それが世界を救う結果になると言えば、君はその犠牲を切り離せるか?」
「──何が言いたい」
「──守りたいものを天秤にかけ、君はどちらかを不要と、この世界からそれを投げ捨てられるのかと聞いている」
「だから──そんなことに答える意味がッ」
「あるさ──」
そう、一歩だけリエンが俺に歩み寄る。
「トウカくん、君はぼくは──これからその決断をしなければならない──行こうか」
そう、再び俺に背を向けるようにリエンが歩き始める。
やがて、一つの扉が現れる。
壁のパネルにリエンがてのひらを当てると、
パスワードを打ち込むキーボードが現れる。
数字を打ち込み──開かれる扉。
その先には──
──特に大層な場所ではない部屋。
──ただ、一つだけ大掛かりなカプセルベッドのようなモノがある。
そんな上部にある頑丈そうな丸いガラス越しから中を覗くと、緑色のような液体がカプセルいっぱいに溢れていて──その中には──
「──ぼくの、英雄、正義の味方だよ」
そう、中に居る男を紹介するリエン。
「英雄──正義の味方?」
「皆は彼を大罪人と呼ぶ──それでも、ぼくには、いや──世界中は今日までという日を彼一人に守られてきた──」
「──な、え?」
「──そんな彼が大罪人と呼ぶのなら、この世界は悪役が居なければ守れない──だから演じよう、ぼくが──その大罪を──」
「──待って、この人は?」
「──妻は結代 カイナ、その二人の子が結代 トウカ──そう、君のお父さんだよ」
「待って──どうしてこんな場所に──それに切り離すってどういうことだよっ」
「だから、質問をしたのはぼくだっ!!結代トウカッ!!」
取り乱す俺に苛立つように、珍しく感情的に叫ぶリエン。
「ぼくはどちらを“演じれ”ばいい?世界のために──ここまでついてきてくれた仲間のため、ぼくはこれまで世界を救った英雄に君の父を世界から切り離すのか──それとも、ぼくは再び世界の君たちの敵として、一人の女として──世界へ刃を向けるべきだろうか、教えてくれトウカくん」
リエンがそう言葉にしながら、取り出した剣の刃を俺に向ける。
「“どちら”も守るなんて偽善な正義を吐くなよトウカくん」
「待ってくれ──どういうことだ、まったくわかんねーよ」
「──頼む、トウカくん、これ以上、ぼくに感情を乱せさせないでくれ──ぼくは今日まで積み上げてきたどちらかを捨て──どちらかにとっての“悪役”を演じなければならない──」
「なんだよ、それ──とう──さんだって──?」
「──君はどちらを演じる、トウカくん?」
俺はそんな全てを憎むようなリエンの瞳から逃れるように、ガラス越しの大罪人の顔を見る。
そこには──長い年月を眠り続け──
母さんや俺の知らない記憶で──
世界を守り続ける大罪人が居た。




