【人を呪わば穴二つ】
「ひひ、いひひ──キライ──キライ──だって、どうせ皆もノゾミの事がキライなんだ──ひひ──」
「──よくは知りませんが、その感情をぶつける相手は私たちじゃないんじゃないでしょうか」
「だって──どうせコワれるんだよ──だったらノゾミがコワス──」
「凍り付きなさいッ」
ブンッ──とサイカが右手を大きく払うように動かす。
冷気の塊──周囲を凍り付かせるように──ノゾミの持つ推しのヌイグルミを凍り付かせる。
「おぉ──かっけぇ、魔法みたいだ──ブ〇くらいの威力あるんじゃねーのか」
「馬鹿言わないでください──ブ〇ーラくらいはあります──」
「お──サイカってもしかして、同種──だったのか」
「──急に距離を縮めないでくれます?まぁ──リエン様と無事に帰った世界でなら少しくらいは続きのお話しても宜しいですけど──」
「ねーー、どうしてこういうことするのーーー、ノゾミのアインシュルク様──」
「──たまたまです」
サイカの攻撃がノゾミ本人ではなく、持っていたヌイグルミを凍り付かせている。
「“呪い”──あれ」
ノゾミが無表情に──その目線だけをサイカへと向ける。
「──!?」
サイカの周囲の冷気──その冷気に赤紫色の靄のようなものがまとわりつくように──赤紫色のような冷気に変わるとサイカの右腕にへばりつく様に右腕が凍り付く。
「氷──サイカと同属性か?──違うよな」
ナギサが──周囲を漂う赤紫色の霧を眺める──
「──案外、“本体”はそっちか?」
ナギサは何かを疑うように──ポケットからペッドボトルの水を取り出す。
「水蛇ッ──」
キャップを外し、水をぶちまけると、水蛇を作り──
「あぁ、ノゾミのアインシュルク様ッ」
いつの間にか氷結から解けているヌイグルミに絡ませ、奪い取るように引き寄せる。
「何する、カエセ──ノゾミの──コロすぞ」
「ナギサ──読みとしては面白いですが、たぶん──それは悪手のような気がします」
能力の発動が──“ヌイグルミ”によるものかとナギサは読み行動したが──
「“呪い”潰せ──カースハンマー」
右手に赤紫の霧が集まり──巨大なハンマーが作られる。
「げっ──力技は想定外だっての──っ」
ナギサはそのハンマーを避け──
「パスッ──サイカ、パースッ」
それなりのバスケの経験者のように両手を使って──正確に力強くヌイグルミをサイカへと投げ渡す。
「──ば、馬鹿ですか、ナギサ──さっさと返せばいいじゃないですか」
「いや──私の手から返すと私、呪われそうじゃん」
「──だからって私に押し付ける人が居ますかッ」
「ごめん──居たみたいだ」
「カエセ──返せよ、ノゾミのアインシュルク様ッ」
「──ナギサ、パスッ」
ノゾミの猫のような目がナギサからサイカに向かうが──
ポンと再びナギサの両手にアインシュルクのヌイグルミが収まる。
「ぎゃーーーーーッ」
「ねー、勝手にノゾミから奪った挙句にバスケボールみたいに受け渡ししながら、呪いの人形みたいに気が付いたら手元に戻ってきましたみたいな感じの悲鳴やめてくれるー?」
「私も生涯で──アインシュルク様にこんな恐怖する日が来るとは思わなかった──パスッ」
ポンとナギサはせっかく奪ったヌイグルミをノゾミへと投げ渡す。
「ユルサナイ──ナギサ──」
「なんでだよ、返したよ、返したじゃんっ」
「“呪えッ”──叩き潰せッ」
ハンマーが一回り大きくなるように──
ナギサが回避し──たたきつけられたハンマーが床を破壊する。
「──怒り、恨みのような憎悪、その感情が“魔力”として──能力に直結しているというところですか──」
「人のピンチに、冷静に分析してるんじゃねーよ」
「冷静が私の能力みたいなところですからね──それに、その恨みに巻き込まれた私のナギサへの怒りも彼女に分けてあげたいところです」
「──ごめんてば」
それはやめてと素直に謝るナギサ。
「──でも、あんなヌイグルミ持ったまま戦われたら嫌でも攻撃当たるだろ──奪っても恨みの対象になるんじゃ──避けようもねーけど」
「ナギサ──あなた、最初からそこまで計算して──」
そこまで言いかけ──
先ほどのナギサの本気の悲鳴を思い出す。
「──買いかぶり過ぎか」
そう──サイカの言葉が思いとどまる。
「水の──爪」
ペッドボトルの水を腕に流す──腕から床に零れ落ちるはずの水が──三つの水の刃となりかぎ爪のようになる。
「──アイスメイク、アイススレッジハンマー」
サイカが周囲の空気に潜む水蒸気と自分の魔力でノゾミに負けない氷のハンマーを作り上げる。
「ナニ──ドウシテ?なんで、ノゾミを虐めるの?キライ──皆、キライだッ」
「リエン様のため──」
「どっちかというと、突っかかって来たのそっちじゃん」
同時にナギサとサイカが地面を蹴り、一気にノゾミとの距離を詰める。
ザンッ──
ガンッ──
水の爪と氷のハンマーが浅くではあるがノゾミの身体にヒットする。
「──キライ──皆、キライだ──」
「人を呪わば──穴二つ──」
「なんだ──」
ノゾミの持つハンマーが手のひらサイズに縮まる。
代わりに赤紫色の瘴気の霧に戻った魔力が──クイのような方になる。
「はっ──?」
「えっ──?」
さすがのナギサとサイカも目を疑うようにノゾミを見る。
大事に抱えていたアインシュルクのヌイグルミ。
その右腕に──
ダンッ──
そのクイを打ち突ける。
「──おま、そんなの大炎上もんだぞ」
そんなファンあるまじき行為に──
「なっ──」
「えっ──」
クイを打たれたアインシュルクのヌイグルミの右腕に紫色の靄がかかると──
「いっ──」
「つぅ──」
ナギサとサイカも同時に右腕が痛むように逆の手で抑える。
水の爪と氷のハンマーが消滅し──
ナギサが左手で右腕の袖を捲り上げると──
「なんだよ──これ」
赤紫色の茨が呪いのように右腕に巻き付き──
自由を奪うだけではなく──激痛が右腕を襲っている。
「全く──呪いを巻き散らすとか厄介過ぎだろ──」
「人を呪わば穴二つ──自業自得──本来はあのノゾミという女性自身に返るべき能力だと思いますが──」
「──こんな時まで冷静に分析してるなっての、その作りだした呪いを自分以外の対象にするってことだろ」
「キライ──皆──キライ──」
「な──ちょっと待て──」
自由に動かしているように見えるノゾミの右腕をナギサが見る。
自分たちと同じように──赤紫色の茨が絡みついている。
「不幸?──ノゾミはそんなレベルじゃないの──呪われてるんだ──あは、あはは、あはははっ──ねぇ──あのね、セカイがもうすぐコワレるんだよっ」
呪われ続け──痛みすら感覚を失った女はただ──そんな自分を悲しむように大笑いする。




