【その評価に、相応しい罰を】
「悪いが──私にとってあんたは何の価値もない、あんたに支払うものなんてない」
カリンが冷たくロッカクを見る。
「──悪いが、そうはいかないぞ、小娘」
「──っ!?」
「落ちろッ」
不意に目の前に現れ飛んできた椅子にカリンが刀の透明な刃を突き刺し、その言葉で椅子を叩き落す。
「──見返りを拒絶しても、それ相応の報復をするということか」
「──“仕返し”じゃない、“見返り”だ──それも、俺はあえて“見返り”を提示しないお前に“同様の痛み”で妥協をしている──」
「──っ!!落ちろッ」
再び目の前に飛んできた椅子を同様に突き落とす。
「──カウンター、反射ではないんだ、俺がその対価を支払った以上は、“成立”するまでそれは続く──今のうちにおとなしく喰らっておくんだな、俺はしつこく取り立てるぞ?」
「くっ──消滅しろっ」
そもそものその椅子を消滅させる。
──が、再び椅子は目の前に現れ、カリンの元に飛ぶ。
ガンッ──
「キョウゴさん──」
その椅子の衝撃で頭を少し傾けながら──カリンの前にキョウゴが立っている。
「──ふん、勇ましいな言正、小娘の肩代わりか?」
「──てめぇなんかの対価をカリンちゃんに支払わせないさ」
「──なるほど、だが、言正、俺がいつ“肩代わり”なんて許可をした?」
「──っ!?」
ガンッ──
カリンが咄嗟にガードのために伸ばした右腕に椅子がぶつかる。
「やめておけ──小娘、俺はあえて、お前の攻撃をノーガードで頭で受けた、そしてお前にその見返りの交渉のチャンスをやった、それをお前が提示しなかったから俺が“平等の痛み”でその“見返り”を請求したんだ」
再び椅子がカリンの前に現れる。
ガンッ──
キョウゴの剣がそれを叩き切る。
「──その同じ痛みを私に返すまで、永久に攻撃が続くという訳か」
再び現れる椅子を再びキョウゴが叩き切る。
「──その痛みの倍を俺が“受け持つ”」
キョウゴがロッカクにそう新たに交渉する。
先ほど、カリンを拘束する魔力の帯を断ち切った時、同様に──
その見返りの上書きは成立するはずだと──
「いいだろう──」
ガンッ──
ガンッ──
二つの椅子を──キョウゴは黙ったままそれを受ける。
「どうだ──その痛みに耐えてまでこの俺を殴りたいか?そこまでの評価があるのか?」
「──在るのか無いのかで聞かれれば──」
「ぐはぁっ──」
それが、答えだと言うように、キョウゴがその剣でロッカクを叩き切る。
持っていた剣が鉄の棒に戻り──さらに灰になるように地面に落ちる。
「馬鹿か──お前は──その対価、見返りに何をお前は提示するっ」
「いいよ、同等の痛みを受け入れよう──」
地面から灰になった鉄の棒が姿を消すと──
まるで透明人間が剣を振るっているように、キョウゴの体を捉える。
「ぐっ──がっ──」
「馬鹿が──倍付だ、男相手に俺との交渉が成立するわけないだろ」
「キョウゴさん──」
「大丈夫──この程度、たいしたことないさ──この戦いの後、カリンちゃんと付き合えると思えばね」
「そんな約束はした覚えはないが──」
「あれ──?」
「──さっきの会話でどうやったらそこまで前向きに受け取れる、そして──私は高校生、色々とアウトだ」
「俺は──生涯で出会った中で、言えるうちに最高だと思った女にそう評価を送っただけだよ──」
「言える──うちに?」
「カリンちゃん──前に、妹の話を少しだけしただろ──」
「あぁ──そして、今までの話の流れ上、その男が目の前の男だとも気づいているつもりだ」
「俺はあの日──妹をこんな奴の評価のためにその身を見返りにされるのを止めてやれなかった──どうすれば止めてやれたのか──ずっとそんなことだけを悔やみ続けているよ」
「──仕方がなかった、そんな言葉で片付けられないと思うが、そんな出来事、知ったうえで過去にでも戻らない限り止めようなどなかったと思う」
「──そうだね、俺の評価は──このクソ野郎の評価には届いていなかった」
「くだらない嫉妬だな──言正、お前の評価には女を得る価値が無かった、俺にはそれがあった──それだけのことだ」
「よくわかったよ──なんとなく──」
カリンが透明な刃を構える。
ゆっくりと透明な刃の先をロッカクへ向けたまま歩く。
「──その結果《痛み》にそれ以上の見返りを払いたいというのなら好きにしろ」
「何度も言っているが──あんたの評価に私は微塵の興味もないと」
「馬鹿か──今は能力の話だ、俺への攻撃はそれ以上の代償が必要だ」
「カリンちゃん──ッ」
カリンが構わずその透明な刃をロッカクへと突き刺す。
その行為を心配するようにキョウゴが声をあげる。
「そうだな──支払いが必要だ、これまで──不玄ロッカクという男が積み上げてきた、“評価”への"清算”がね──」
「清算──?」
「──“あんたのこれまでの罪をここに具現化しろ”──さて、その罪をどう清算するのか、その見返り“提示”しろっ」
「ぐぁっ──がぁ──なんだ──これは、なんだ、それは──」
「私はあんたがこれまで──未清算にしてきた“評価”に“制裁”を求めただけだよ」
「俺の能力を利用した?小娘──貴様のその能力はなんだ──俺の能力を“無断”で“無償”で使うなど──許される訳が──」
「今のあんたが──誰かを許すなんて立場にあると思っているのか?」
「フザケルナ──俺は、俺は──あいつらが求めただけだ、あいつらが──“勝手にいい思い”をしただけだ──」
「だったら──私がそれ相応の──“評価”を与えよう──」
カリンが透明な刃を引き抜くと──ロッカクの腹部から大量の黒い魔力のエネルギーが噴き出す。
「刺さないのかい──止め」
倒れるロッカクに──キョウゴはそう呟く。
「キョウゴさん、私を人殺しにでもしたいのか?」
「冗談だよ──こいつは生きてる価値なんてないとは思うけどね」
「急ぐんだろ──この先」
キョウゴはカリンをその先へと向かうように言う。
「キョウゴさんは?」
「──俺は残るよ、青空の下、また出会えたのならデートのこと考えといてよ」
「──しつこい、犯罪だと言ってるだろ」
「──次は無いかもしれないだろ?」
「──喫茶店で無言で本を読んでいていいのなら──少しくらいなら、後──私は言日岐だ──」
「──まったく、最後まで君らしいね、それじゃ──さようなら、カリンちゃん」
そう、キョウゴはカリンの背中を見送る。
「──ほら、やっぱり伝わらない」
そして──ゆっくりと、ロッカクの方へと戻る。
「クソが──小娘が──ただで、“無償”で“無断”で──終わる訳がないだろ」
ロッカクが──黒い血のような魔力をその辺にまき散らし──
目の網膜を黒く、瞳を白く染めながら──起き上がる。
「──俺は、クウド様と契約したんだ──この程度で終わるか、カリン、貴様はすぐには殺さない、屈辱の中でその上で──貴様の命乞いの“見返り”に俺は──」
「──それ以上、てめぇがカリンちゃんの名を呼ぶな──」
近くの鉄の棒きれを手に取る。
「──それは、まるでガラスのように綺麗な刃のようだ、俺はその評価に見返りを求める」
鉄の棒が刃を持つ剣に代わる。
「その──“見返り”は俺が受け取ろう」
刃が──ロッカクの心臓を貫くように突き刺さる。
「ぐ──くそ──クソガキが──貴様が俺の人生を狂わせた」
「──お互い様だな──だがもう終わりだ」
「クソが──俺の命が、人生がこんなところで──」
「──くれてやる、俺の命──てめぇのその腐った命よりかは価値あるだろ?」
「フザケルナ──フザケルナ──そんなものは“不成立”──」
「無駄だ──あんたの“命”など価値がない、そうおまえ自身の能力も認めているようだ」
「ぐ──がぁ──クソ──クソォ──」
「──だから言っただろ──“次はない”って──結構、本気だったんだけどね──デート……」
「ヤメロ──ヤメロォーーー」
機械室にある──大きな機械、その機械と床に大きな隙間が空いていて──
ロッカクの能力、魔力の帯がキョウゴの体内、心臓を強く拘束する。
キョウゴはロッカクの心臓を刃で突き刺したまま──その体を宙に浮かせ持ち上げるように──意識を失いそうな体でその機械の隙間のある場所へ歩く。
そして──
「──さよなら、カリンちゃん」
そのまま──ロッカクを連れて行くように──
意識を失ったキョウゴとロッカクはどこに続いているかわからない穴の底へと落ちていく。




