【救えなかった】
「壊してやるよ──お前も所詮は同じ無力なんだよ──理不尽なんて暴力で解決できないんだよっ──できたらダメなんだよッ」
「ごちゃごちゃと御託を並べたところで何もなんねーだろっ──拳で語れよ、てめぇも漢だろ?」
「だから──それがぼくは嫌いだと──壊してやるって言っている」
「それが、御託だって言ってるんだ──俺はお前みたいに一度も拳で自分の存在を守ることを暴力だと思ったことねーからさ──」
「だから──それは暴力で抗える側の人間だった──それだけだっ」
「それで誰かが守ってくれるていうのなら俺だって──拳なんて振るう気なんてねぇよ──俺は馬鹿だからそれ以外の方法を知らないだけなのかもしれねーけどな」
「倒れたら──負けだ、立ち上がるのをやめたら──敗北だ──敗北したら一生舐められる──じゃあ、馬鹿が身体が小さいってだけで敗者扱いされる人間はどうすればいいと思う?まぁ──ほかにも方法はあるんだろうけどよ──俺はただ、立ち上がり続けろ──それを自分に言い聞かせただけだ」
「だったら──だったらなんで、おまえはあの日、ぼくを助けたッ!」
「だから──お前のことなんて覚えてねーって言ってるだろ」
「ぼくは──ぼくはお前に救われてはいけなかったんだ──妹を救えなかったぼくは誰かに救われてはいけなかったんだ──ぼくが救われたら暴力が裁かれないんだッ!」
「悪は犠牲者を出して初めてその罪を背負う──」
「──トウカ、こっからは俺の因縁だ──手を出すなよ」
「だから、その拳はお前に返るとは限らない──その暴力の対象を自分の傷ではない形で代償を負う──だから、壊島シュウ、お前の暴力をぼくが否定するっ」
「悪いことは言わねぇ──これ以上、俺以外にその能力で転換するのはやめておけ──ほら、望み通り全力でいくぜ──」
「馬鹿な事を──お前は永遠に仲間に恨まれることになるぞ」
「俺が誰に嫌われようとてめぇの知ったところじゃねーだろ──歯喰いしばれ──返刃シンペイ、いいぜ、今この一瞬だけお前のこと覚えてやるっ」
シュウの手甲に赤黒い瘴気集まる。
「ぐっふぅ──ぐっ──あは、あはははぁ──後悔しろッ──この攻撃は友達に──はっえ?」
一度吹っ飛んだ返刃の身体が再び吹っ飛ぶ。
「返刃シンペイ──俺、今──お前のこと以外考えてねーから」
「馬鹿か──そんな事で──お前の関係値の優先がぼくに向くなど──そんな真似──」
「よくわかんねーけどよ、俺──馬鹿だからな──お前の常識なんて通用しねーぜ」
「ぐっぶ──ぶはぁっ」
大量の血を返刃が吐き出す。
─────
近くにあるこの街で一番大きな病院。
催稀先生と──俺とナギサ、シュウの四人。
病室の個室──病室のベッドのシーツに下半身を入れ、起こした上半身の頭を窓に向け──光の無い瞳でぶつぶつと何かを喋っている男子生徒。
その生徒の両親が催稀先生に頭を下げ、俺たちは病室を後にする。
「どうなってるんだ──俺のせいなのか?」
廊下に出てシュウが複雑そうな顔をする。
「それはない──それどころかシュウはよくやってくれたよ」
「そっか──トウカ、お前にそう言ってもらえると少し救われる」
「なぁ──お前ら、ちょっといいか?」
灰色のツンツン頭。
白いロングコートのポケットに両手を突っ込み、不愛想な表情でこちらを見ている20代前半、催稀先生より少し若いくらいの男性。
「ここらへんで──返刃シンペイとかいうガキの病室、しらねーか?」
「あんた、誰ですか──」
「そういうてめぇこそ、誰だガキ?」
「催稀クウト──彼らの担任をしてる、それであなたは?」
催稀先生が俺を庇うように間に入る。
「真解ユズル《しんかいゆずる》──探偵だ、なんでもここ最近──とある学園で不思議な事が起こっているらしくてな……そんで、今度は精神崩壊した生徒が出たッなんて言うじゃないか──」
「んで──お前は?」
「田中タロウ──です」
「はぁん──面白いなクソガキ」
「なぁ──トウカ、てめぇ」
反応できなかった──裏拳が俺の頬を捕らえる。
「大丈夫か結代ッ……お前、何をッ」
「俺に──嘘が通用すると思うな──俺の前ではどんな嘘も訂正される」
「解っただろ──結代トウカ?」
俺の頬を一発殴っただけで、真解と名乗った男は俺の名前を暴き出す。
「てめぇらは黙って身の回りで起きたことを俺に話せばいい──」
「まぁ、その他──依頼があれば聞いてやる──お前は特別倍の料金で請け負ってやる──結代トウカ」
そう男は俺に名刺を渡す。
「んで──催稀クウト──だったか、こいつらの担任ならきちんと年上への口の聞き方を教えておけっ」
「それは、ぜひ──君の担任をしていた教師に同じことを聞かせたいところだな」
「ふん──まぁ、今日は出直すとしよう──」
「まぁ──結代トウカ──俺はお前ら程、学園の事情には詳しくねぇ──だから、案外、探し物なんてもんは残酷で案外──単純なんだ──探し物なんてもんはすぐ近くにあるのかもしれないぜ」
「それは──真解ユズルさん……あなたも含まれているって考えていいですか?」
「そうそう、その調子だクソガキ──それじゃまたな結代トウカ」
「結代──その名刺……見せてくれるかい?」
その背中を見送り──催稀先生が俺から真解の名刺を受け取る。
「──結代、これ……少し預かっていいかい?」
「いいですけど──そんなのどうするんです?」
「──用心するに越したことはないさ」
催稀先生が丁度見えなくなった真解さんの背中を見つめながら言う。
「あーーー、お腹空いたぁ、トウカ──いつものとこで肉まん買って帰ろッ」
「ミリスちゃんもお腹空かせてるよ、絶対──」
ずっと興味無さそうにスマホをいじっていたナギサ。
「ミリスちゃん──?」
聞きなれないワードと俺たちが見つめた俺のカバンから顔を出しているぬいぐるみを催稀先生が見る。
「ん──あぁ、そうか──先生はまだ知らなかったか」
俺は少しだけ戸惑いながらも──
「先生なら話してもいいんじゃないか?」
「せんせー、きちんと秘密にできるーー?」
「ん?あぁ──よくわからないが君たちの信頼は裏切らない様に善処するよ」




