【不正な評価】
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それは──40年以上も前の話だ。
パチパチパチッ──薄暗い体育館のような会場で。
黒い長い髪を束ねる、青色のリボンがよく似合っている。
そんな俺が尊敬し続けていた──その先輩は、
書いた小説を評価され、賞を受賞していた。
──俺はそんな憧れの先輩に幾度も自分の小説を見せては評価してもらった。
──優しくて、そして時々、厳しい先輩で。
──今回、俺も先輩とこのコンテストに応募をするつもりだったが、
今回、俺の書いた作品では難しいと──そう先輩は“評価”した。
──その日の結果発表にも──先輩は俺を招待してくれなかった。
──黙って、ここに来た。──だから先輩は俺がここに居ることを知らない。
──表彰された、先輩の作品は──
タイトルこそ違ったが、俺が先輩に評価してもらった作品と内容がほぼ──いやすべてが類似していた。
「──あぁ、やっぱバレちゃったか──」
悲しかった──?悔しかった──?
不思議と──それはなかった。
だって──悔しがることはない。
評価されたのは先輩だ。
でも、その評価されているものは、紛れもなく“俺のモノ”だ。
あんたは──ただ、“俺のおかげ”で評価をされた。
そのおかげで、いい──“思い”ができただけ。
「ねぇ──お願い、秘密にしてくれる?」
誰もいない、教室──
先輩はたぶん、俺の気持ちを知っていて──
少しだけ衣服を着崩すように俺を誘惑する。
興奮はした──
でも、同時に──なぜかため息がでた。
「──小説の続き、今書いてある分とこの先の分も──先輩にあげてもいいですよ」
──不正して、この先輩は評価を受け取る。
──俺には──そんな評価に値する実力がある。
──そこに、俺は何を求める?
憧れた先輩が──俺の目の前に──
あっさりと──手に入った。
俺は俺の評価など──興味がない。
だが──周りは俺の評価を欲する。
だから──俺はその“見返り”を求めただけだ──
そんな俺の“評価”に“見返り”を求めたのは女だ──
─────
「くだらない──そんなに欲しいならくれてやる──“ただ”とは言わないけどな」
「──不玄──てめぇだけは」
「俺には才能がある──そう評価という報酬がある──勘違いするな、言正、俺がくれてやる評価は不正でも、俺の評価は本物だ──」
「自惚れるな──クソ野郎」
「──それでも、そんなお前の言う、クソ野郎の評価にすがった馬鹿な妹が居たんだ、言正──」
「──すまない、言正キョウゴ、先に私をどうにかはできないか?」
拘束されるカリンが──キョウゴに頼ることすら少し不快に思いながらも、キョウゴに縋るように見つめる。
「おや、いい恰好だね、カリンちゃん」
ロッカクと話していた時とまるっきり態度も声のトーンも変え、キョウゴが返す。
「見返りに何を求めようか──デート、1回なんてどう?」
「生涯──あなたのことも軽蔑し続けてよいのなら──」
「それは──逆にここで見返りを求めない俺には“ワンチャン”あると思っていいのかな?」
キョウゴはカリンの前でわきわきと指を動かしていた両手で──カリンを拘束する魔力の帯に手をかける。
「──腐りかけのゴム──その失った張力、俺は──その評価に見返りを求める」
そう、キョウゴはカリンを拘束する帯を両手で左右に力を入れると──
その魔力の帯を断ち切る。
「助かった──お礼を言う」
「──必要ない、俺とカリンちゃんの仲だろ」
「言日岐だ──」
「はいはい──言日岐 カリンちゃん」
ゆっくりと──カリンを助けたキョウゴが立ち上がり、ロッカクを見る。
「お前たちの言う、くだらぬ評価に群がる──キョウゴ、お前の妹もなかなかに愚かで、なかなかに──ぐひゃっ」
ロッカクの顔が変形するぐらいの勢いで──キョウゴの拳がロッカクの顔面にめり込む。
「──挑発に乗るな、キョウゴさん」
「──まったく、一度ならず二度までもこの俺に拳を──俺は自ら俺に色目を使って、俺の評価を求めた女に望んだとおりのことをしただけだ」
「そんな──どうしょうもない、てめぇが持ってるもんが、どうしても手に入らずに欲しかった妹が居た、それをお前が不正に利用した──」
「違うな──言正、お前の妹はその不正を“望んだ”んだ──都合のいいように被害者ぶるな──」
「クソ野郎がッ」
「おっと──そろそろ、お前にも──さきほどの“対価”に“見返り”を貰おうか」
「さっきの対価──見返り?殴り飛ばしたことか?」
「だが──殴り飛ばすこと自体には、あの不玄ロッカクという男の魔力には干渉していないのではないか、キョウゴさん」
「言正、お前は──その言日岐カリン、その小娘を助けるために俺の魔力を引き裂いただろ?その対価に──“何を支払う?”」
「なるほど──このクソ野郎と似たような能力だと思っていたが──俺なんかよりもずっと腐った能力で安心したよ」
そう言いながら、キョウゴは左腕を天井に向ける。
「持っていけ──」
「キョウゴさんっ」
メキメキッ──とキョウゴの左腕に先ほどカリンを拘束していた魔力の帯が皮膚にめり込むように絡まっていく。
「キョウゴさん、左腕を──私が断ち切る」
「──問題ない、右手があればアイツを殴れるよ」
キョウゴはそうカリンから左腕を遠ざける。
「──これを断ち切ればまた、その対価を奴は求める──いたちごっこだよ、そんな胸糞悪い事にカリンちゃんは巻き込めないね」
キョウゴは左腕をだらんと重力に逆らわ得ぬように垂れ下げながら──
「不成立にさせる前に──不玄──てめぇを殴ればいいってだけだろ?」
「──まったく、くだらない評価だな──」
不玄ロッカクは──そう欲にまみれた言葉をどこかすべてに飽きたような口調で返す。




