【私は神を信じない】
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──信じる者は救われるのだとそう信じていた。
──でも、神も愛もなにも私を救いなどしなかった。
──私が神に救いを求めるだけで何もしなかったから?
──その信仰は救うに値しませんでしたか?
──そこに費やした時間は救済するには値しませんでしたか?
──その愛は私を裏切り、その欲望を選んだ。
──私への愛は、その価値を満たせませんでしたか?
──私の愛は、あなたの心に届きませんでしたか?
──神など幻想だと。
──愛など妄想だと。
──信じなければ、愛さなければ──そこに何が“見えるのですか”?
──あなたは神を信じますか?──私は神を信じません。
─────
「信じなければ裏切れない──見なければ失わない──」
「っ!?」
両腕ガードした身体をノアとタツキの身体を通過していく。
「全く──醜いものですね、“それが”私なのですね」
「なにっ──私やタツキの視界を乗っ取ったってこと」
「その視界に映る自分の姿から私たちの場所を正確に見抜いたって言うのか」
「タツキさん、“そこに居る”醜い人間は偽物ですか?」
「ノアさん、そんな神も愛も信じない人間は錯覚ですか?」
「その“本物”が知りたいのなら、その否定の言葉を逆さどればいい──」
「逆さ──どる?」
「ルミネさん、あなたは誰よりも“見えてる”んだよ──あなたは見えているのにそれを“本物”とも“偽物”とも見ないだけだ──」
「あの震災で私は──両親とこの両目を失ったのです──そんな、こんな醜い目が何を見ているというのですかっ」
「“ほら”──あなたは“偽物”だ──」
「なにを──」
「見たものなど信じないんだろ?」
「だから──この目は何も映さない」
「“ほら”──何を必死に“見よう”としている?」
「タツキさん、あなたにはなにも伝わらない──嘘で、仮面で自分を騙し続ける偽物なんかに──そんなあなたの仮面を全部剥がされた時に、今と同じことを言えるのですか」
「さて──“素顔”が本物かも私自身にもわからない──」
「ねぇ──もういい?二人の会話、難しすぎーー、例えそれが偽物でも、それが本物だと錯覚すればいいじゃん──さすれば不幸も、幸福に逆さどる、なんちゃってぇ」
タツキの思想を真似るようにノアが間に入る。
「その両目を失ったから──見たくない訳じゃないのです」
「神が私を救わなかったから──神を信じない訳じゃないのです」
「愛されなかったから──裏切られた訳じゃないのです」
「それぞれ、失ったものが線で繋がっていた訳じゃないのです」
「それでーーー」
まるで、理解できないように理解する気がなどないように、ノアが挑発的に聞き返す。
「私はねー、誰かのお母さんが優しそうに見えたから──そんな誰かになろうとした」
「誰かの不幸が、不幸を実感できるということが幸せそうに見えた──だからそんな不幸になりたいと思った」
「そんな──行き過ぎた思考に──私の──」
「でも──これが“本物”なんだけどなー」
「これ以上の話し合いなど──無意味です」
「えーーー、まぁ、私もそう思ってたけど──“錯覚しなよ”」
「ノアさん、私にその“錯覚”は通じないと──」
「試してみるーーー?」
「私は見ない──見えるものを信じない──」
「一瞬でも目を背ければ私は“錯覚だ”」
「──!?」
ルミネが何かに驚くようにその白い瞳を見開く。
逆にタツキの視界からノアの姿は消えている。
「──なるほど、馬鹿そうに見えて私よりもずっと賢い」
そう、タツキがノアを評価する。
「ねー、ルミネさん、ルミネさんの視界で──私が見えないからその“錯覚”ができなかったんだよね──本来、見る事の出来ないはずの私を今、その瞳は映しているんでしょー?」
「見えているからと──あからさまなノアさん、あなたの能力に錯覚など──」
「タツキ──私の見出した“とっておきの手品”──見せてあげるぅ」
「いいよ──“手を貸そう”、ノア」
「──“なに”をするつもりですか?」
手品師のように器用なタツキ、彼女が協力しての──“とっておき”
脳裏で──ルミネは思考を巡らせる。
だけど──今の自分なら──
「──見えるッ」
その瞳を──ノアとタツキの方を交互に見る。
「──“見よう”としたあんたの負けだ、ルミネさん」
タツキは右と左の手のひらにトランプのカードを53枚華麗に移動させている。
「どうして──」
その白い瞳がタツキの姿を映している。
ノアを見る。
いつの間にかボックスに閉じ込められているノア。
「なっ──」
咄嗟にさっきまで立っていたタツキの場所を見るが──
そこにタツキの姿は無く、そんなノアの閉じ込められたボックスに自分の持っていたはずのクナイを突き刺していく。
暗闇にクナイが光る。
いつの間にか、疎らに天井からつるされていたカラスの影が一斉にその光に目を向ける。
「──“逆さどれ”」
「──“錯覚しろ”」
その視覚が次々と自分の瞳にクナイの刃の先を見せる。
いつの間にか──ノアと入れ替わる様にボックスの中に閉じ込められている──そう“錯覚”してしまうように──ルミネの持つクナイが自らの身体を幾度も貫いていく。
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悪魔に魂を売ってまで──手に入れたその目を──瞼を再び閉じる。
ノアさん、タツキさん──その二人に──私は負けた。
──信仰した神は私を救わなかった。
──愛した男は──私を裏切った。
──両目を失った私は──そんな汚れたモノを映さなくなった。
──嘘じゃない。
──錯覚じゃ──ない。
全部──事実だ。
私はそれに“目を背けた”だけだ。
──だから。
──あなたは神を信じますか?
──わたしは神を信じない。
──私は本物です。




