【僕の無価値《いろ》】
──夢を見る。
──それは、夢の続き。僕の妄想だ。
──現実の僕とトウカくん、ナギサちゃんは年の離れた、それでも友達だ。
──だから、僕はそんな君たちをただその感情だけで見ていられる。
──でも、夢の僕。
──学生である僕は違う。
──男女の友情など存在しないなんて言葉があるだろ?
──白状しよう、学生である僕はきっとナギサちゃんに惚れている。
──もちろん、トウカくんとの友情も大切だ。
──だから、そんな二つの感情にきっと僕は葛藤と後悔を繰り返すのだろう。
──あぁ、なんて──無価値な妄想だろうか。
──なんで、こんな妄想を見るのだろう。
──いいだろ、それくらい──妄想なんて誰にも無価値だよ。
──最後かもしれないだろ?
──この役目を終えたら僕は遠くの街で君たちとは別々の生活を送る。
──だから、この感情を整理しておきたかったんだ。
─────
「ムダダ、ムダ──キサマガドレダケ、オレタチヲ、ムカチカシヨウガ──オレタチハタオセナイ──ココハトッパデキナインダヨッ」
「そうだね──僕は英雄じゃない、僕ができるのは“無能”の証明だ──」
「ダカラ──ソレガ、ナニニナル──オマエガオマエヲムノウト、ショウメイスルダケダ」
「僕を無能と証明するのは僕じゃない──君だよグラシカ──」
「オレガオマエヲ?ダッタラオマエハ、ダレヲ?」
「君だよ──グラシカ」
ひとつ前の言葉をノウムさんは繰り返す。
「今の君が完璧なんかじゃない──僕はそう皆に証明する──“後は”任せるよ、トウカくん──リエンちゃん」
「ナンダ──?」
それぞれ、仲間たちが囚われている触手に値札が貼られていく。
「演じよう──それは“名声”、その声に答えろッ」
リエンはノウムさんのその言葉の意味をすぐに理解するように、捨てた剣を拾う。
「サセルカッ」
上空に漆黒の武器が作られる。
「──俺が守るッ」
その武器に俺の魔力を送りその矛先を自分に集中させる。
リエンの剣が、仲間たちを捕えていた触手を次々と破壊していく。
「グ──ノウム、キサマノシワザカ──」
値札の貼られた触手、その箇所には硬化、反転させる能力が無力化されている。
仲間たちが──次々と解放されていく。
その──負の感情を流され汚染されかけていた体の色がもとに戻っていく。
「ムダ──ムダダ──オレトコノカエシバノノウリョクガアレバ──」
「僕が──無価値を証明するさ」
「サセルカ──」
触手がノウムさんの体を貫く。
「ドウシテ──ドウシテタオレナイ──キサマゴトキガナゼ──ゲンカイガ──コワレナインダ」
「とっくに壊れてるよ──言っただろ、限界なんてものは無価値したと──」
「クソ──コンナトコロデ──ムダダ──オレタチガコワレナイカギリハ──オマエタチハ、ココヲトッパデキナイ」
触手から浮かび上がっていた顔が引っ込むと──その二人の魂が空、上空の方へと逃げるように消える。
「おっちゃん──ッ!!」
「よかった──ナギサちゃん、無事みたいだね」
「おう、おっちゃんのおかげだ、有難う」
「僕は一度は君たちを見捨てて逃げ出そうとした男だよ──そんな言葉は無価値だよ」
ノウムさんは寂しそうに笑い。
グラシカと返刃の魂は上空へと逃げた。
それでも、その能力は触手に宿っている。
そして──化け物が再び産み出されてくる。
ノウムさんにより解放された、俺とリエンの仲間たちが交戦しているが──
やはり消耗戦だ。
「ノウムさん──俺たちはあなたに助けられた、有難うございます──だからこの言葉は正当な言葉です」
「僕は“友達”として──そうしたいと思っただけさ」
優しく笑うノウムさんの瞳はどこか余裕が無さそうに、額には汗をかいている。
「ただ──それでも、僕はね──」
ノウムさんは何かの映像を思い返すように──
「無理ゲーだったけどね──二人だけの無価値になりたかったんだ」
「なれるよっ」
「ノウムさんは、俺たちの大事な仲間です」
「──まったく、無価値なことをしたなと後悔していたのに──君たちは本当に僕の気持ちを乱してくれる──気持ちいいほどにね」
「おっちゃんっ」
ふらついたノウムさんを俺とナギサが慌てて支える。
「リエンちゃん──」
俺たちに支えられながらノウムさんが、リエンへと話しかける。
「僕の能力で一時的に能力を無力化するといっても──この触手の向こうに突破するのは無理だろう、そうするには──核となるあの二人の魂を僕が直接無力化する必要がある」
「できるのかい?」
「僕の無価値の証明など──他にどこでするんだい?」
「でも──どんだけ上までいったんだ?」
ナギサが空を見上げるように──それは不可能と言いたげに。
「実家に──取りに行ったんだ」
「──それは?」
子供が工作で作ったような、少し粗のある船。
「ノウム──それをどうするつもりだ?」
さすがのリエンも少し不思議そうに──
「トウカくん、ナギサちゃん──僕に力をくれないか?」
手のひらに納まる木の船を右手に持ち、左手でモデルガンの拳銃をこめかみにあてる。
「ノウムさん──あなたはずっと僕たちの仲間──友達です」
「ずっ友だ──逃れられると思うな、おっちゃん」
「おっちゃんは遊び人として仲間に入れてやる」
「はは、有難う──いい具合に無価値だ」
「おっちゃんを馬鹿にするな──覚醒したら賢者だぞ」
「──500円──いや、もう価値なんて必要ないね、誰にも譲れないよ──非売品だ」
バンッとその左の指で引き金を引く。
ノウムさんの体が大きく揺さぶられ──額から大量の魔力が流れ出る。
その血のように流れ出る魔力がノウムさんの右手を伝い、その木製の工作の船へと流れ込む。
その木製の船はそのノウムさんの魔力を取り込むように──
売却された魔力が船を巨大化させていく。
ノウムさんはその船の操縦、自ら舵をとるように。
その舵に腕を伝う魔力を送り続ける。
「リエンちゃん──僕が最後の力でなんとか能力を無力化する、その隙にこの壁を突破してほしい」
「わかったよ、ノウム──その役、ぼくが全力で演じさせてもらう」
「おっちゃん、なんだよ、最後って──」
「言っただろ、僕は限界が突破してるって──さすがにこれ以上能力を使い続けるなんて無理だよ」
「トウカくん、ナギサちゃん──君たちと過ごした日々は本当に楽しかった」
「これからも──ずっとです──例え離れた場所にいようと俺とナギサとノウムさんはずっと──」
「当たり前だ、ずっ友だぞ」
「そうだね──ずっと、ずっと──」
「本当にいい子だよ、ナギサちゃん──トウカくん、ナギサちゃんを守ってあげてね」
船の上から俺たちを見下ろし──
「トウカくん、ナギサちゃん───またね」
寂しそうな、どこか申し訳なさそうな表情で──
その船はノウムさんを乗せ高く飛び立っていく。
「──永遠に見つかることはないと思っていた」
「やっと──見えた気がしたよ」
ノウムさんは俺たちを船から見下ろした顔を正面に向ける。
「──おじいちゃん、僕の無価値、見つけたよ」
「とつげーーーーきッ」
硬化されていた漆黒の触手がその能力を失う。
それを即座にリエンは見極めると──
その場にいる俺たちを含めた全員へ触手の壁へと突撃を命じる。
「全力で演じよう──それは“権力”──跪けッ」
化け物たちが王の前に膝をつく。
「それは──“富”──」
たくさんの剣や槍が空中から現れ、赤と青の刃の刀だけをリエンは両手に掴み取る。
それ以外の武器が──化け物や触手を切断していく。
「仲間のため──演じよう、それは“名声”、必ず突破するッ」
赤い刃と青い刃が──
それぞれの色の線を描くように次々に触手を切断していく。
「──狂人化、友情、気合、どこんじょーーーっ」
リヴィが髪を赤色に燃え上がらせ触手の壁を吹き飛ばす。
「ヤメ──ヤメロ──」
能力を失っている──二人の顔が触手から浮かび上がる。
「お前は選択を誤った──」
エルジナが右手を上空に向ける。
ダンッ──
どこからの銃弾か、そのエルジナの合図と共にその浮かび上がった顔の部分を銃弾が貫く。
触手が枯れるように──崩壊していく。
紫色の空を覆っていた壁が崩れ落ちる。
「ノウムさんっ」
「やったぜ、おっちゃん」
俺とナギサがノウムさんが向かった上空を見上げる。
「──ノウムさん?」
ノウムさんを乗せた船がふらふらと消えた壁の向こうへと飛んでいく。
「おっちゃん」
意識を失っている──
操縦席の舵にその体を乗せるように目を閉じている。
そのまま──煩理リエン邸のある崖を通り越し海の方へと──
「おっちゃんっ──」
「ナギサッ──」
ノウムさんを追い、そのまま崖から海に飛び込む勢いのナギサを両手で止める。
「トウカ、トウカ──おっちゃんがっ」
どうして助けないんだと言いたそうにナギサが俺の腕を振りほどこうとする。
「大丈夫──大丈夫だ、ナギサ」
俺は根拠もなくそう叫ぶ。
次の瞬間──海で大きな爆発が起こる。
「トウカ──トウカぁーーーッ」
ナギサが俺の髪をひっぱり──俺の顔を押しのけ、必死に俺の腕から逃れようとしている。
俺はただ──その痛みに耐えることしかできなくて。
誰もがただ──その爆発のあった海を眺めることしかできない。
エルジナさんが、そんな海に向かい──その敬意を表すように、敬礼のポーズをとっている。
「──ナギサは、俺が守ってやる」
そんな、ノウムさんの言葉を思い返し、ナギサの体をぎゅっと抱きしめた。




