【無価値の証明】
──トウカくん、ナギサちゃん──
──夢、夢を見たんだ。
──そう、人間が眠ったら見るあれ。
──昔から僕の見る夢の内容は支離滅裂で。
──人が語るような綺麗な物語のような夢みたいなもの見たこと無かったんだけどね。
──トウカくんとナギサちゃんの通う学校の夢だった。
──そこには、学生姿の僕も居て。
──恋人みたいに仲良くしているトウカくんとナギサちゃんが、僕に声をかけてくれるんだ。
──僕は昔のようにぶっきら棒にそれを拒絶するんだけど、二人は強引に僕の手を引っ張ってくれた。
──ナギサちゃんとの趣味は僕の方が合っていて、ナギサちゃんはトウカくんを嫉妬させるために僕を利用するように楽しそうに話しかけてくる。
──でも、その夢はその夢の中の色は、今見る僕の現実よりも、はっきりと色が見えたんだ。
──はぁ、それはね──もの凄く無価値な夢だった。
「ノウム──ヒサシブリダナ──」
「──グラシカか、元気そうだね」
そんなすでに人間すらも捨てたような男。
「オマエニモ、ケンジュウデウタレタ、カリガアッタナ──」
「そうだった──かな──1円」
伸びてきた黒い触手にクシャリと値札が貼られる。
ノウムさんを叩こうとした触手がノウムさんの体に逆に弾かれるように、体から離れる。
「フザケルナ──アイカワラズ、キミョウナノウリョクダガ──ショセンオマエモ、オレタチノマエデハ、ナニモデキネーンダヨ」
「そう、僕は英雄でも勇者でもない──だから君を倒すのは僕の仕事じゃないさ」
「ダッタラ──ナニシニッ──ナカマヲ、コイツラヲタスケニキタンダロッ」
「無価値だ──10円」
新たに地面から伸びた触手にノウムさんの値札が貼られるが──
先ほどのように無効化されず、触手に叩かれるノウムさんの体が少しだけその衝撃に体を揺さぶる。
「ノウムさん──どうして?」
無価値、その能力はどこか俺の中で無敵のイメージだったが。
「価値が揺らいでいるのだろうね──トウカくん、君たちに出会い、彼の価値は変わりつつある、“無価値”という彼の絶対的な能力が“価値”を持ち君に影響され始めているんだよ」
「俺たちのせい──」
そんなリエンの推測。
「誰かを“守る”ためなら、それはもう無価値じゃないだろ」
「誰かを──守る」
「ダレカヲマモル?ノウム──オマエガ?ワラワセルナ」
「そうだね──無価値だ、否定──しなよ」
ノウムさんは初めてその権利を他人へと押し付ける。
触手がノウムさんへと伸びる。
────
──無駄、全てが無駄。
──わかりきっていた、僕がここに来て何ができる?
──僕がトウカくん、ナギサちゃんに何をしてあげられる?
──夢を見た。
──夢でもいいさ。
──今日も僕はつまらない日常の終わりに床に就き、君たちの夢を見る。
──僕の今を動かす糧なんてその程度。
──なんて無価値なんだろうね、でも人生なんてそれでいい。
僕の貼った値札は無数の触手の処理に追い付かず、数本がその無価値な体を貫いている。
「ムダ、ムダダヨ、ノウム──ノゾミドオリ、ムカチニ──シネ」
「ノウムッ!!」
「ノウムさんっ」
「くそ、おっちゃん、放しやがれ、この変態触手がよっ」
トウカくん、ナギサちゃんがそんな無価値な僕を心配してくれるように、それにリエンちゃんまでもがそんな無様に、無価値に触手で貫かれる僕を見ている。
「──足りないよ、グラシカ、“その程度の否定”じゃ、“無価値”な僕すら殺せないな」
「コロス、コロス──マズ、オマエカラ──」
ナギサちゃんを見る。
彼女だけを特別視するわけじゃない。
それでも──僕だって贔屓くらいする。
時間をかける訳にはいかない。
「コウカイシロ──キサマゴトキガ──」
「おっちゃんっ」
「ノウムさん」
トウカくんの結界が僕を狙った触手の数本を防いでくれるが。
四方八方から狙ったその触手の数本は僕の体を貫いている。
「オイ、ユイシロ──オマエ、ノウリョクヲツカウナトイッタハズダ」
「ぐっ」
触手がトウカくんを叩き、さらに──
「ナギサッ」
その脅迫を無視した罰だとでも、ナギサちゃんにその触手の一本が向かう。
「──0円、それは余りにも無価値だよ」
ナギサちゃんを狙った触手に値札を貼る。
瞬間にナギサちゃんの体に届く前に消滅する。
「まずは──僕を無価値だと、そう肯定してみなよ──」
「コウカイサセテヤル──」
「しているさ──痛いのは嫌いだよ」
「叩かれ続けた人間が痛みに耐性ができるなんて事はない」
「逆だよ──人間なんてものは臆病なのさ」
「おっちゃん」
「ノウムさん」
触手が僕の体を貫く。
頭が真っ白になる。
こんな状況で意識を保つなんて──本当に"無意味”だよ。
─────
目の前でノウムさんの体が無数の触手に何度も何度もその体を貫かれる。
魔力がその傷を肩代わりしているといえ──
すでにノウムさんの魔力は限界に達しているのだろう。
後ろに倒れるように──上半身を後ろに反った体をそれすら許さないように背中から腹部を貫くように黒い触手がそんなノウムさんの体を支えている。
「コウカイシロ──イヤ、モウ──ソンナ──コウカイスラデキナイ」
「ムカチ──ムイミダッタナ──ノウム、オマエノギセイハ、ダレモスクエナカッタ」
漆黒の触手があちこち地面から伸びると──その場にいる全員に向かう。
「───そう、無価値だ──だけどね、そんな無価値な僕がカッコつけてわざわざこんな場所に来たんだ、“無意味”に終わるつもりはないさ」
それぞれを狙った触手にいつの間にか値札が貼られている。
それらはそれぞれの体に届く前に消滅していく。
「ドウシテ──オマエニ、ソレダケノコウゲキノタイショナド──」
「とっくに僕の無価値など限界を超えているよ──」
「ドウイウ──コトダ」
「無価値という個性を失いかけていた僕にグラシカ、君が僕にその無価値を与えてくれたのさ──その代償の量は予想以上に必要だったけどね」
「ソンナ、オマエガ──ナゼ、コイツラヲ──」
「僕を仲間だと言ってくれた──僕を友達と呼んでくれた──そこに僕が倒れていい理由が無いだろ」
体から血の代わりに魔力を流しながら──ノウムさんが倒れかけていた体を起こす。




