【勇者にはなれない】
「リエン──」
俺の結界に向かっていた瘴気の魔力で作り出された剣や槍が後方から同じように呼び出された剣や槍が空中でぶつかり合うように相殺していく。
「思っていたよりも早い再開だな──トウカくん」
助けてくれたと思った──煩理リエンは不敵な笑みを浮かべたまま、手にした剣の先を俺に向ける。
「──汚名返上、再演とでもいきたいところだが、ぼくには君のほかに、返すべき仮のある人間がこの先にいる、敵の敵はまた、ぼくの敵──不本意ではあるが共演とでもいこうか、トウカくん」
俺に向けた剣の先、腕を下げると──俺の横を通り抜け、その漆黒の触手がそびえる大きな壁の前に立つ。
「リエン──ムダダ─ムダダヨ」
グラシカの顔が浮かび上がり、リエンを挑発するように。
「随分と落ちぶれたものだね──残念だよ、グラシカ──ぼくは君は不正をする自分に後悔しながらも、それでも、“現実と真剣に向き合おうとした”、君を評価してあげたかったんだけどね」
「ダマレ──ダマレヨ、キサマハ、ソウイッテオレタチヲ、リヨウシテイタ」
「グラシカ──そんな姿でよくも、リエン様を否定できたものですね、あなたはそれ以上に、あの男に利用されている、そんな姿になっても気づけないのでしょうか?」
確か、サイカ──というリエン側近の女性。
年齢は俺たちと同じくらいなのだろう。
「演じよう──それは“名声”、この剣を持ち道を開く」
手にした剣を持ったまま──その戦闘スタイルだけをチェンジするように、リエンがその刃でグラシカの触手を断とうとする。
「──だめだっ」
俺は結界をリエンとその断とうとした触手の間に作るとその一撃を防ぐ。
「──なんのつもりだ?」
「ちっ──リエン様、その男、トウカに感謝をしておいたほうがいい」
すでに触手に一足先にサバイバルナイフで斬りつけていたエルジナさんが、自分の左腕を押さえるようにリエンへと告げている。
「グラシカの防御能力に加え、ダメージの返還、スバル──のような能力まで持ち合わせているのか」
「演じよう──それは“権力”、その王の声を聞け、その道を開けっ」
リエンの前の触手がぐにゃりと動き──その道を開くが──
その王の能力はその無数の触手すべてを従えられる訳ではない。
退けた触手の奥にはまだ無数の触手が伸びている。
さらに、産まれる瘴気の化け物たちがその開いた触手の隙間を埋めるように立ちふさがる。
「ギ、ギギギッ」
化け物の一匹がリエンへと襲い掛かる。
権力としてのリエンは言葉による支配、武力に特化していないため、その反応に少し遅れる。
「──エルジナ」
飛び掛かった化け物がリエンにたどり着く前に、エルジナさんが化け物の側面から空中でタックルをかますようにそのまま、地面へと叩き落す。
リヴィとは違った、戦闘においては圧倒的なセンスを持っている。
容赦なく手にしたナイフを首、喉に食い込ませ──一気に刃を横に引き裂く。
その間にも空中で漆黒の武器が精製されている。
「くそ──っ」
俺はそう悪態つくことしかできず、ただ目の前に結界をつくり──
その精製された武器の周囲に俺の魔力で火花を散らせると、その矛先を全て請け負う。
「水蛇ッ」
その空中の武器を請け負うために無防備となっていた俺の背後から迫っていた化け物をナギサが水蛇で拘束し自分のほうへと引き寄せる。
「うっおらぁーーーっ」
そのナギサの引き寄せた化け物をシュウが殴り飛ばす。
「助かった、ナギサ、シュウ」
「おう──しかし、どうする、このまま──こいつらの相手をし続けても、魔力を消耗するだけだぞ」
シュウが周囲の化け物を眺めた後、その立ちふさがる触手の壁を見る。
「リエン様──どうします?」
タツキが化け物を一体退治するが、すでに新しくもう二体化け物が産み出されている。
さらに──
周囲から新しい触手が伸びてくる。
「いやっ──」
「サイカッ」
黒い触手がサイカの体を拘束し体を高く持ち上げる。
「いや、なに?こんな──何か何かが私の中に──」
「サイカ──」
触手に拘束されるサイカの体がゆっくりと黒く染められていくように。
「あいつ──サイカをも吸収する気なのか?」
スバルが触手に持ち上げられ拘束されるサイカを眺める。
「──演じよう、“名声”──その触手を断ち切り、サイカを救えッ」
ギンッとその刃が硬化した触手に弾かれ、さらに──
「くっ──」
リエンがその自分の一撃の重みを自分に身に感じるように横腹を押さえる。
「リエン──さま、いいのです、私を見捨ててください──」
「──エルジナ、スバル、タツキ、ぼくは命じる、サイカを救えッ」
サイカの言葉を無視し、リエンが少しだけ焦るような口調で三人へと告げる。
そして、次々と触手が地面より現れ──
「ぐっ──」
「きゃっ──」
「タツキッ──スバルッ──」
「ユイッ──ナギサッ」
俺とリエンを残し、次々とその触手にその体を拘束され空中へと持ち上げられる。
触手には攻撃は効かない──
仲間を助けられないまま、引き返すこともできなくなった。
「サァ──ドウスル、リエン──マケ、マケヲミトメロ」
「ユイシロ、カイシマァ──ボウリョクハナニモカイケツシナイ」
浮かび上がった、グラシカ、返刃の顔が俺たちへと告げる。
悔しいが──全く打開策は見つからない。
「ブキヲ、ステロ──リエン」
「くっ──」
「い、いけません──リエンさま」
サイカがリエンへとそう告げるが、リエンはその剣を地面に投げ捨てる。
「イイカ、ユイシロォ、ノウリョクハ──ツカウナヨ」
返刃は俺の能力を脅迫で封じると──
「ぐっ」
「つぅ──」
黒い触手を鞭のようにしならせ、俺とリエンの体を強く叩く。
「ぐっ──」
「くそっ」
「リエン様ッ」
「トウカッ」
無抵抗となった俺とリエンの体を幾度もその触手に叩かれる。
「──オワリダ、セカイハ──クウドサマガ」
「──ユイシロ、カイシマァ、オマエノマモルモ、オマエノボウリョクモ、アノヒトノマエニハムイミ──」
ゆっくりと後ろから──誰かの近づいてくる弱々しい足音。
「──1円、どれも僕にとっては“無価値”だよ」
「えっ──?」
ナギサが──拘束された体、徐々に蝕ばまれていく体、頭をその声の向ける。
紫色に染まる世界が──白と黒の世界へと変わる。
少し着慣れないようなよれよれのスーツのズボンに両手を突っ込み──
その触手の間を堂々とゆっくりと突き進んでくる。
「無価値だ、せっかくの新しい仕事を放り出してまでする事じゃないんだけどね──」
「僕は勇者にはなれない──でも、そんな無価値なぼくに──“またね”と言ってくれた、そんな二人の帰る場所くらい──残してあげたいさ」
違う土地、違う人生を見つけた男は、疲れた瞳を俺から、その大きな触手の壁へと向ける。




