【開演《しゅつじん》】
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世界が壊れる少し前──。
寂れたマンションの一室。
少し散らかったその部屋に。
退屈そうにレトロなゲーム機で遊ぶ30前後の疲れた顔の男。
小さくため息をつきながら──
隣のテーブルに置いてあったコーヒーカップの中を少し口に含む。
「この街には未練はなかったはずなのにね──」
王道的なRPG、勇者には自分の名前を──
そして、仲間のぶとうかと僧侶にはナギサとトウカの名前。
そして、再び置いたコーヒーカップの先には。
仕事の不採用通知のいくつかと。
その中に、ここではない場所の採用通知の用紙が置かれている。
せめて──ゲームの中くらい仲間としてクリアしたかったのにね──
明らかに──戦力不足のメンバー。
全滅画面のまま──後ろに倒れるように寝転がるノウム。
なんとなく眺めた目を細める。
急に雨雲が太陽が覆ったかのように──
部屋に入る光が暗くなる。
「駄目だよ──トウカくん、ナギサちゃん──僕らは勇者じゃないんだ──」
テレビ画面から流れるTVゲームのゲームオーバーのBGM。
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結代家。
テレビを眺めるカイナ。
番組を切り替えても、ニュースキャスターが、その異常を訴えている。
でも、そのどれもが支離滅裂で。
誰もが混乱し、正しい言葉を吐けずにいる。
「おかあさん、今日は晴れかい?それともくもりなのかい?それともそれとはまた別のなにかなのかい?」
ミリスがそんな空を窓から眺めている。
「全く──なんなんだろうね──ほんとどうなってるんだい──あんたは負けないんだろ?」
そんな記憶にない誰かに呼び掛けるように──
「やれやれ──随分と不味そうな色をしてるね──そんなものを僕に腹いっぱい食べろと言いたいのかい──カオス、いつだって君の食べるご飯は美味しくないね」
「僕は、トウカとおかあさんのおかげですっかりグルメになったと言うのにさ」
ミリスはただ──その空を眺め、カイナに言う訳ではなくそう言葉にする。
「はい──結代です」
カイナが不意に鳴った社用の携帯に出る。
「あぁ──わかった、すぐ向かう」
「おかあさん、お仕事かい?」
「あぁ──こういう混乱に紛れて悪事を働く馬鹿ってのは必ず一定数いるのさ」
「すぐ、戻る──もし、トウカが家に戻ってきたら二人で家で大人しくまってるんだよ──もし、退屈だったら、後でミリスと一緒に見る予定だったけど、借りてきたDVD、先に見ててもいいから」
そう言って、カイナが仕事用のコートを洋服がけから掴み取り羽織ると玄関へと向かう。
居なくなった一人残されたリビング。
ミリスはカイナが言っていた、テーブルの上を覗き込む。
青い未来のロボットが活躍するアニメの映画のDVD。
その隣には一冊のノートが有り、
カイナが綺麗にまとめたこのアニメの大まかな構図のようなものがぎっしりと書かれている。
その意味をミリスは理解できないけど。
それは、カイナが自分と会話をするために、
本来興味の無い知識を一生懸、記憶しているんだとは理解している。
「だから──おかあさんと見ると、ひとりで見るより“楽し”かったんだね」
ミリスが寂しそうに微笑む。
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「──リエン様ッ」
サイカが何とか借りたばかりのマンションの部屋。
リエンはただ──その部屋に差し込む紫色の薄暗い日差しを浴びながら最低限の準備をしている。
どうにか──そんなリエンを止める理由を言葉を探す様に──
「サイカ──君は残れ」
「嫌です──」
「ぼくは演じる──クウド、あいつにとっての“悪役”を──その目的には君を救う理由がない」
「──足手まといにはなりません、せめて──あなたの隣でリエン様の演技を私の演技を──」
「君は、まだ──ぼくに騙されたいと言うのか?」
ガチャリ──と、部屋の外へと二人で出る。
そんな少しぼろいマンションを覆っている塀。
その出入口から外へと出る。
「──お前たち」
現れた人影にリエンが演技ではなく驚いたように表情を崩す。
「まさか──トウカたちに負けた私たちがクビって訳じゃないですよね?」
タツキがつけていた仮面を外し、リエンを見る。
「汚ねぇ、汚れ役ならあなたよりもうまくやってみますよ──俺の場合、演技じゃないって言われますけどね」
スバルが右手でバタフライナイフを遊ばせながら言う。
「リエン様──相変わらず馬鹿だとは思う、だが──あなたは放っておけない──そして、そのあんたの“悪役”だけは俺が唯一信じられる言葉だ」
左側の髪だけを刈り上げ、黒に黄色の混じった髪。
エルジナがマンションの塀を寄りかけていた身体を起こし、二人の横に並ぶ。
「まったく──サイカといい、君たちはこの異常がどういうことか理解しているのか」
リエンはその異常な空を見る事無くそれを指す様に言う。
「周りが言うように──俺は心底腐った卑怯者だけどさ──俺以上に腐った匂いがぷんぷんするんですよね、あのゴーグル野郎」
「嘘は真実以上に美しい──だからあの青空は美しかった」
タツキは仮面で顔を覆いながら言い──
「あの男にはリエン様のような気品は感じられない」
たった、それだけを理由に──そんな世界の崩壊に抗うとでも言うように。
「俺は常に命を捨てれれる場所を探している──そんな選択を預けられる馬鹿が必要でね、さて、次はどんな悪役を演じるんだ、リエン様」
「エルジナ──先ほどからリエン様に──」
「──サイカ、かまわないんだ、エルジナとぼくは最初からそういう間柄なのさ」
「リエン様ッ」
少し面白くなさそうな表情をするサイカ。
「そして──サイカ、君もぼくにとって特別だ」
リエンがサイカを落ち着かせるように頭を抱き寄せ、軽くおでこにキスをする。
「リ、リエン様──」
サイカが顔を真赤にその場に固まってしまう。
「サイカ──エルジナ、タツキ、スバル──君たちに最大なる敬意と感謝を送る──本当にいいのだね」
そのリエンの問いに全員が黙って頷く。
「煩理華撃団をここに再結成する──演じよう、ぼく等の悪役を──開演だッ!!!」
リエンが先陣を切る様に、紫色の空のした──五名の人間が何処かへと向かい歩き出す。




