【世界が壊れる音】
──正直、魔力とか正とか負とか──俺には理解できていなくて。
──世界がどう創られて、誰が守っているとか。
──父親が何処に居て、何をしているのかとか。
──俺にはわからなくて。
──だから、世界が壊れるなんて言われても──
──俺のできることはいつだって変わらない。
──だから、俺は──今を守るんだ。
学校──学生、俺たちの本業。
煩理リエン──あの日、あれ以降どうなったのかは知らない。
ただ、養子となったノアの席は今日も空席になっている。
「ねぇ──トウカーー」
後ろの席のナギサは机に上半身を突っ伏し、机の座面に顎を立てるように前を向き顔より前に伸ばした両手でスマホをいじりながら──俺の方なんて見ず俺の背中に話しかける。
「結局──あのリエンって人は何が欲しかったんだ?トウカのお父さん?……って結局何者なんだ?」
「知るかよ──」
「知りたくないのかよ──」
「別に──今さら、どうでもいいよ──あいつが誰でも」
「知っていた方がいいと思うぜ、私は──例え、鬱陶しい上に剥げ散らかしてたとしてもさ──居るんならさ──」
「───」
俺は自分の気持ちが整理がつかない様に──無言が続く。
ナギサもそれ以上は何も言ってこない。
──それは、いつもの日常。
──そんな、日常の終わりを俺たちはまだ知らなくて。
──そんな、ナギサのもっともな助言にすら俺は──
授業が始まる。
何となく窓際の席。
俺は──左側の窓を眺める。
風が強いのか少し流れる雲が早く。
でも、授業の内容を口にする教師の言葉はどこかゆっくりで──
こっそりと談話する生徒の声も──
何故か俺はそんな空が凄く気になって──
そこには、俺たちには見えない結界に覆われている気がした。
そんな空の結界にピシリッとヒビが入り──
そんなちょっとした綻びが空を崩壊させていく。
そんな──“世界が壊れる音”がした。
「えっ──?」
「おい──」
「何?雨でも降るの?」
まるで──急に夜になったかのような──
青色の空は紫一色に染まっていく。
まるで──世界をずっとずっと守り続けていた誰かが──
壊れたみたいで──
それが、何が関係しているかは知らない。
俺はただ──ただ、
そんな世界の異常よりも、
ただ、ナギサが俺に言った言葉だけが頭を支配する。
生徒も教師も──大人も子供も関係なく、その異常な空に釘付けで──
「おい、トウカ──どこ行く?」
急に席を立ち、窓際に集まる生徒とは逆を向く俺にナギサが声をかける。
俺はただ、黙って廊下の方へと走る。
「お、おい──結城、どこへ行くッ」
歴史の教師がそんな俺の背中に呼び掛ける。
「先生、私も頭痛いから早退する──」
ナギサが俺の後を追ってくる。
「先生、俺も腹痛いからトイレ行ってくる」
「おい、待て──トウカ、ナギサッ」
シュウはそう嘘がバレバレになる発言をしながら、俺たちを追う。
「おいっ──こんな状況で外になんて出るなッ」
教師がそう俺たちの背中に叫ぶ。
「先生──私が3人を連れ戻します」
ユイがゆっくりと立ち上がると、廊下へ向かう。
「──どうにも私も頭が痛い、保健室にでも行ってくる」
カリンが席を立つと──
「根性ーーッ、教師よッ、あたしも頭が悪いッ!!」
無駄に椅子を勢いよく引きずる様に立ち上がるリヴィ。
「いや──狂羅、それは何となく──知っているが──だったら」
なおさら、残って授業を聞けという言葉を飲み込む教師。
廊下に出て、階段を下がり昇降口の前に出る。
「──先輩方」
「やっぱ──トウカたちも」
タツキとスバルが昇降口前に立っている。
そして──
「ノア──」
もう一人の人物の名前をナギサが呼ぶ。
「何が起きているのか──説明できる人はいるのでしょうか?」
ユイが率直に三人に尋ねる。
「知らないね──」
多分、嘘ではない。
スバルがユイの問いへと即答する。
「あの異常な空──本当にてめぇらが関係ねぇのかよ」
シュウが若干、犯人扱いするような強い口調で言う。
「シュウ──少し考え方を変えて見なよ」
タツキがそんな口調に臆することなく平然とした口調で返す。
「その異常が“本当”に異常なのか?」
「頭いいのかしらねーけどよ、くそ──俺、こいつと喋るの苦手なんだよ」
シュウが一歩後ろに引く。
「本来あるべきこの“異常”の姿を“日常”という姿で偽っていた──」
右手に持った仮面を顔の前で持ち、隠した顔を──仮面を少しだけ左に傾けその右目で俺たちを見る。
「──それで、あんたらは何処に行くんだ?」
俺がそう尋ねる。
「居場所がわかったからな──“あの人”の場所にいく、俺らにはあの人の隣で演じることくらいしかできねーからな」
「はぁ?てめぇの卑怯は演技なんてもんじゃねーだろ」
「それは──否定できないな」
タツキは仮面を逆、右に傾けると、逆の瞳でスバルを見る。
「うっぜっ」
別にその言葉ほど気にしてなさそうに、その瞳から逃れるようにスバルが顔を反らす。
「取りあえず、そういうこと──私たちはリエン様の元へと戻る、で──ノアあんたは?」
「──えっ?」
ノアは自分もそっち側と思っていたのに、タツキにそう言われ困惑した顔を向ける。
「よそ者扱いして、悪いけどさ──ノア、あんたは“こっち側”とは思えないんだよね──トウカ、ナギサ、この子を任せていい?」
「──あ、あぁ」
思わずそう答える。
そして、タツキとスバルは俺たちに背を向けると、ノアを置き外へと出て行く。
そして、俺たちも──
全校生徒が窓際でその異常な紫色の空を眺める中、
その下の紫色の太陽の光に照らされる地面を歩き校舎の外へと出る。
「で、トウカくん、何処へ向かうつもりなんだ?」
カリンが俺を横目で見る。
「多分──会わなきゃならない人が居る」
「──どうやって会うのですか?」
ユイが誰とは聞かずに方法を尋ねる。
「──ミリスなら、何かを知っているかもしれない」
俺はそうミリスが居るだろう自宅を目指す。




