【美味しい記憶《おもいで》】
「トウカ──あれは──」
何事にも、表情を変えず冷静な母さん。
日曜日に、普段は休みなど取らない母が有休を出し、
俺とミリス──そして、ナギサとリヴィを含め遊園地へと向かうことになった。
ナギサを回収し、リヴィとの待ち合わせ場所へと向かった。
綺麗な金髪の外国の血を引くハーフ。
そして、体育女子としてのスタイルの良さと重ね、
あの時、エルジナさんからプレゼントされていただろう、
ドレスにも見える、白のワンピース姿。
そんな、一見、モデル顔負けの彼女が俺たちの乗る車を見つけると、
その場に正座をし、上半身を前に倒しコンクリートに額をこすりつけるように頭を下げる。
「リヴィアちゃんだ、おかあさん──あの豪邸の時もいた子だよ」
助手席に座る、ミリスが母さんを見上げるように言う。
「いや──それはわかってはいるが──」
「おい、リヴィア──さっさと頭を上げて、車に乗ってくれないか?」
運転席の窓を開け、頭を覗かせながら母さんが土下座中の女性に呼びかける。
「大変申し訳なかった──誠心誠意で謝りたいっ──そのまま、あたしを轢いてくれっ」
「トウカ──彼女は何の謝罪を私にしている──」
「し、知るかよ──」
「トウカのかあさん、あたしはあなたのような綺麗な方に、挑発だったといえ──お前の母ちゃんはでべそなんていう、不快極まりない発言をした──今から切腹での謝罪を許可してほしい」
「できるかっ──さっさと止めてこい、トウカっ」
普段は何にも動じないような母さんが珍しく、そんな大ボケを真剣にやりかねないリヴィに慌てるような口調で俺に命令する。
「な、なんで──俺が──」
「馬鹿者──トウカ、止めるなッ──あたしは、あたしはッ」
止めに入った俺が──暴走するリヴィに殺されかけながらも落ち着かせることに成功する。
「にひひっ──楽しいな、トウカ」
リヴィを連れ何とか後部座席に一緒に乗り込み──
顔に軽い痣を作っている俺に、助手席のミリスが俺のほうに振り返りピンク色の瞳で俺を見つめ、口角をあげながら言う。
「──あぁ」
俺は少し不服そうにしながらも、空気を壊さないようにそう頷く。
「ん、どうした──ナギサ?」
どこかおとなしいナギサを見る。
「別に私は最初から人見知りだし──」
「別に誘われたのは私だけだったなんて思って浮かれてねーし──別にそうじゃなかったからって、不幸だなんて思ってねーし」
俺とは目線を合わさず、外の景色を眺めながらナギサが小さく呟く。
「わーーー、ここが遊園地かい、トウカ、おかあさん」
入園するとミリスが無邪気に周囲を見渡している。
「トウカ、おいしいものがたくさんあるのかい?」
「どちらかというと──あるにはあるが、遊ぶところだな」
「美味しく、遊ぶのかい?」
「どちらかというと──楽しく、遊ぶとこだな」
ナギサが俺の代わりにツッコミを含んだ返しをする。
* * *
「トウカ──貴様も根性を見せろッ、うらぁーーーっ」
「やめろ、壊れる──リヴィア、壊れるっ」
「よし、トウカ──僕たちも負けないよっ」
「いや──あれに対抗するのはやめておけ」
楽しく回るコーヒーカップの中、一つだけ遊具の限界を突破したような高速回転するカップ。
リヴィとナギサが乗っている。
コーヒーカップを降り、ナギサがぐったりと近くのベンチへと倒れこむように座る。
「どうだ──トウカ、最初の勝負はあたしの勝ちだ」
「あぁ──それでいいが、リヴィ、お前が今話しかけてるのはミリスだぞ」
目を回しているリヴィが──ミリスの前に立ち勝利宣言している。
「にしっ──」
不思議そうに頭を傾げ聞いていたミリスがそんなリヴィの顔を見ながら楽しそうに笑う。
「ハンデをやろう──トウカ、ナギサ、ミリス──20秒間まってやる」
リールの上に乗った、サイクリングの自転車。
「よし、先、いっちゃおうぜ、ミリスちゃん」
一台目と二台目にナギサとミリスが乗り込みペダルを漕ぎはじめる。
「お──おい、待ってくれ」
俺も慌てて──三台目に乗るが───
「………19、20、ゆくぞっ──トウカッ」
何事にも勝負──にしたがるリヴィ。
ここにシュウが居なくてよかったと思う。
「気合、根性──ド根性ッ──トウカ、貴様をこのコーナーリングで抜かすッ」
「バカ、待て──遊具の作り上、そういう遊びじゃねーよ、追い抜きとかできる使用じゃねーって──」
「問答無用だ──トウカッ」
「ぐっあーっ」
ドンッと後ろに凄い衝撃が走る。
「バカ──死ぬわッ」
「馬鹿者、この程度で──死ぬほど、トウカ、貴様は弱くない、あたしはお前の強さを知っているッ」
「わかったから──今回もお前の勝ちでいいから──もう全力で漕ぐのやめろ」
「馬鹿者──そういって、結果、あたしに勝つつもりだな──」
「や、やめろ──」
「──こっちは平和でよかったな、ミリスちゃん」
「──にひ、トウカとリヴィアちゃん、楽しそうだな、ナギサちゃん」
「──それは、それでなんかむかつくけど──」
ゴールにたどり着くと──
店員の方に──なぜか俺まで叱られる。
レストラン──
テーブルの上のハンバーグやオムライスに囲まれ、ミリスがよだれを垂らしながら幸せいっぱいの顔をしている。
「なぁ──トウカ、うまいなっ」
「ほら、口元──」
俺は自分の手元に配られた布巾でミリスの口元をぬぐってやる。
「トウカ──おかあさん──美味しいな」
改めて──ミリスが嬉しそうに、楽しそうに、俺たちに笑顔を振りまく。
それは──ずっと、これからもずっと──続いていく。
もう、俺たちは家族だ。
俺たちは仲間だ。
だから──俺は守るんだ。
─────
「ほら、ミリス──お前の好きな猫耳のヘアバンドだぞ」
「なんだい、トウカ──僕の知る未来の青いロボットは耳が無いんだよ?家に帰ったら、おかあさんの買ってくれたぬいぐるみとやらを見せてあげるよ」
「──そういや、ネコ型と言えば、ナギサかもな」
トウカがその猫耳のヘアバンドを──ナギサの頭に乗せる。
「なんだよ──私は別に便利道具なんてだせねー、ただの不幸の黒猫だぞ」
「──んで?」
「ん?」
「──可愛い、に、似合ってるのかって」
「あぁ、可愛いと思う──」
「と、思うはいらない──もう一回」
「そのテープレコーダーを閉まったらな」
そんなやり取りを、とくにお土産には興味なさそうに、少し離れた場所でリヴィアが見ている。
「ちょっといいかい、リヴィア」
「──トウカの母さん?」
「どうして、うちの息子に良くしてくれるんだ?」
「──それは──」
「あの子は、私と似て人付き合いみたいのはうまくないし──親の私が言うのもあれだが、リヴィア、あんたみたいな陽気な可愛い子に好意を持たれるとは思えなくてね、まぁ──恋愛的なものじゃないにしてもね」
「──トウカは可愛いを否定するあたしを否定する──誰にも守られなくても生きられるように強くなったあたしを守ろうとする、あたしの否定した可愛いをただ一人守ろうとしてくれた」
「なるほど──リヴィア、親バカの独り言だけどな──トウカ、あの子は結構いい男、そう育てたつもりだ──これからも、あつのこと──守ってあげてほしい」
「気合、根性──そして、勿論だ」
──────
夜──ナギサとリヴィを家に送り届け──
俺も風呂に入ると──自室へと戻ろうとしたところ、
ミリスの部屋のドアが開いている。
「お前も、見た目は年頃の女性なんだから戸締りくらいはしっかりしろよ」
「──ねぇ、トウカ」
ドアを閉めるため、部屋に一歩入りこんだ俺にミリスが話しかけてくる。
「僕は今日一日、とても美味しくて──楽しかった──」
「あぁ、よかったな──」
「うん──トウカ、これが“記憶”なんだね──どうりで美味しい訳だよ」
「──あぁ、これからもまた──」
「ねぇ、トウカ──僕が、世界の不味いところだけ、食べ続けたら、トウカやおかあさん、ナギサちゃんたちは幸せになれるのかい?」
そんな──疑問を、ミリスが本当に不思議そうに俺に──どこか寂しそうな瞳をむけながら訪ねた。




