【僕は世界《かぞく》を守る】
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「き──君は誰だい」
カイナに抱かれる小さな身体。
「本気で言っているのか?“トウカ”、“私たちの子供”──男の子だよ、可愛いだろ」
「トウカ──?」
「あんたがつけた名前だ、ほら──抱いてみろ」
病室──
彼がどうどうと外に出て、カイナと一緒に居る。
そんな場所を誰かに見つかれば──
トウカを抱きかかえるユイシロ──
そんな自分が父親になった、実感など無いように──
「トウカ──わかるかい、僕がお父さん──だよ」
「ぶふっ──なんだそれっ」
普段はそんな無防備な笑顔を見せないカイナ。
そんな様子をただ、楽しそうに見る。
「──僕が守るからね、だからトウカ、君もカイナを守ってくれるかい」
「馬鹿、赤ん坊に何言ってる、あんたは」
* * *
ベッドで上半身を起こしているカイナ。
ユイシロがそんな、上半身を揺らし、優しい笑顔でその赤子をあやしている様子を見ている。
嬉しそうに──寂しそうに。
「──守らなきゃ」
そしていつしかその表情は、真剣に。
「ん、どうした?」
「行かなきゃ──カイナ、僕は世界を守りたい──でもそれは僕自身の願いでもある、僕はね、カイナとトウカを守る」
そのために世界を守る。
結果は同じでも、目的は違う。
「バイバイ──カイナ」
「おぃ──あんた、何言って、次は──」
この世界、社会の仕組みにはユイシロは疎い。
それでも──自分がここに居続けること。
そして、その子供が誰の子なのか──
* * *
──ユイシロは廃工場へと足を運ぶ。
「なんだい、僕は父君様からそのトウカという人物の記憶を食べればいいのかい?」
「──僕は戻るよ、だからミリス、君はカオスを制御するための魔力が必要だ、たぶん、僕の記憶だけでは足りないと思う、だからそれ以上の記憶を食べるのか、残酷だけどその選択はミリス、君に任せるよ」
「──?、僕にはよくわからないよ、父君様?」
人の姿、ミリスが頭を少し傾げるようにユイシロを見る。
「──僕からトウカの記憶が消えれば──トウカは僕の子として世界は認識しにくくなる」
辛くはない。
例え、その言葉が嘘で、強がりだとしても──
「僕は世界を守る──」
それが、たった一人の孤独な戦いだとしても。
「カイナ──僕は君のおかげでその理由ができた」
─────
ドボンッ
落とし穴の先──
岸壁に近い場所にあった煩理リエンの邸。
そんな海蝕洞の海水の中に、サイカとそんなサイカに支えられたリエンの体が着水する。
とは、いっても水面もそれなりの高さからの落下はかなりの強度と衝撃なる。
トウカたちとの死闘、そしてクウドからの追い打ち──
リエンの意識はほとんど残っていない。
油断すれば、すぐにでも気を失いそうな体。
近くに陸などない。
一人でも生きて泳ぎきれるか。
「サイカ──もう十分だ、これはぼくの報いだ、神を欺こうとした、あいつがぼくにくだした罰だ──ぼくをこの場に捨て、君は生きろ──」
「───」
サイカはただ、無言に、リエンの体を強く抱きしめたまま懸命に泳ぎ始める。
「サイカ──これはぼくの未熟な演技が招いた結果だ──これ以上、ぼくに巻き込まれるな」
「──例え、この私の行いが、リエン様のプライドを傷つけても、恨まれても──その結果でリエン様が助かるなら、私はこの演技を──最後まで続けます」
「サイカ──ぼくは──君を──」
そこで、リエンは──そんなサイカのやさしさに甘えるように意識を無くす。
「知っています──あなたのその演技に私が利用されていただけだとしても、私はあなたの隣で演じられることが幸せなんです」
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「結代くん──壊島くん──」
「莉絶先生──」
学校の屋上──
「結代くん──“あの時”は、夢咲さんと一緒に迷惑をかけてしまって──」
「──ユイと?すいません、俺たち、ある男が関わっているところの記憶が曖昧にされていて──もし、よければそのあたりを聞かせてほしいんですが」
* * *
「へぇ、あの日──トウカ、委員長の間にそんなことがね」
シュウがその話を聞き、頷いている。
「だけどさ、どうして──先輩たちはその記憶がないのに、先生には残ってるんだ?」
バタフライナイフの刃を遊ばせながら、スバルが莉絶先生を見る。
「えっと──」
地面に倒れていた、上級生の男たちは──
足を引きずるように──その場を去っていく。
そんな様子をちょっと戸惑うように莉絶先生は見ている。
「どんな能力か知らないけど──自分の植え付けた“嘘”の情報を消したとしても、“自分”という存在は消せないとしたら?」
タツキが莉絶先生を見る。
「自分という存在の記憶?」
スバルが莉絶先生からタツキへと目線をずらす。
「自分を知らない誰かの記憶に自分という存在を植え付けたとしたのなら、その嘘の情報を消せば自然とその存在を認識できなくなる」
タツキは手に持っていた仮面で自分の顔を覆いそれを表現する。
「でも──元の自分を知っているものの記憶までは消せないということか」
俺は──そのタツキの仮説を解釈するように言う。
「でも、先生は──その男とつながりがあるということか?」
「わからないけど──少なくとも、この学園に紛れるために、その男は莉絶先生と“接触”する必要があったんじゃないの?」
「はい──私は会っているわ──たぶん、結代くん、あなたの言う男、“催稀クウド”という男に──」
「催稀クウド──」
その言葉に──
「いや──あぁっ」
その名前を口にした途端、莉絶先生が両手で自分の頭を押さえるように苦しみだす。
「──催稀クウド──その男が自分の情報が漏れないように、何らかの細工をしたというのか」
俺はそんな苦しむ莉絶先生をそっと抱える。
「莉絶先生──確か、あなたの能力」
ゆっくりとだが──莉絶先生と対立した日のことを思い出す。
「先生の能力で、その──干渉を」
「わ、私は拒絶する──」
はぁ、はぁと莉絶先生は息を切らしながら──
「すいません──無理はしないでください」
無理に聞き出せば、また先生は──
「世界を破壊する──あの男はそう言っていた」
「世界を破壊?」
スバルが少し興味深そうに反応する。
「そのために──あの男は、人間の負の感情を晒しだしている」
「なんのために──だよ」
シュウが少しだけ戸惑いながら──
「わからない──そして、結代くん、あなたとあなたと接触した“少女”をその男は狙って、私という立場を利用した」
「──俺と──ミリス?」
なぜか、俺の中の何かが壊れ始める音が聞こえた。
「──守るんだ──あいつはただの家族だよ」
俺は誰でもない自分に言い聞かせるように呟く。




