第9話 正界での動き
かつて、魔界には史上最強を誇る“魔王ガルダス”がいた。
ガルダスは、正界から襲い来る“勇者たち”を、魔王城で迎えうち幾度も葬っている。
ある時、ガルダスはこう言った。
「最初の勇者は強かったけど、だんだん弱くなってねぇか?」
そう、最初の勇者こそ“伝説の剣”を台座から引き抜いた真の勇者であり、それ以降の勇者たちは言わば“紛い物”の勇者なのだ。
最初の勇者は、いい感じのところまで善戦した。しかし、圧倒的な魔力を誇るガルダスを前に、伝説の剣と心を同時にへし折られ、「すみませんでした」と言って敗走したのである。
この出来事には、正界のグランセル王国も大慌て。
最初の勇者は自宅に引きこもってしまい、王家に伝わる伝説の剣は失われ、このままでは正界が魔物たちに侵略されかねない。そこで国王は悩み抜いた末、ひとつの答えにたどり着いた。
——勇者のワゴンセールだ。
健康な肉体を持つ成人、というだけの適性検査をクリアすれば、もれなく勇者になれるという条件を提示し、国を挙げた勇者募集キャンペーンを打ち出したのである。
グランセル王国、王の間には、勇者志望の若者たちが列を成し、王との謁見を行う。
「おお、セバスよ。そなたは選ばれし者。魔王討伐へ行くのだ!」
「おお、アバンよ、そなたも今日から勇者だ。早く魔王を倒してくれ」
「はい、そなたも勇者だ。さあ早く行くがよい」
「はいはい、そなたも勇者勇者」
すでに適性検査をクリアした者たちということで、王は何の感情もなく形式的に就任式を行う。
こうして、一気に勇者を名乗る若者たちが爆誕し、グランセル王国の城下町にあふれかえった。
彼らは“国の仕事”として勇者稼業を行うため、毎月けっこうなお給金をもらえる。
それにプラスして、町の付近に現れる魔物を討伐することで、インセンティブ報酬も得られるという契約条件だった。
そのインセンティブの額で最も高いのは……当然、魔王ガルダスの討伐報酬だ。末代まで毎日豪遊しても使い切れぬほどの額である。
そのため、多くの勇者たちが魔王討伐を目標に、パーティーを結成して魔物狩りに勤しんでいた。
* * *
——正界、迷いの森。
そこは、魔界から送り込まれた魔物たちが巣くう、深い木々が生い茂る森。
一度でも足を踏み入れれば、方向感覚を失い、迷って出られなくなることから迷いの森と呼ばれている。
そんな森の奥深くで、魔物を討伐する者たちがいた。
「ボルゴ! 後ろは頼んだぞッ!」
この爽やかな見た目で、いい感じの台詞を放ちながら、カッコイイ剣を振るっているのは、勇者レオン。
見た目は人間と同じだが、この正界で最も人口の多い“正人”と呼ばれる種族だ。
「おうレオン、任せときな! 一匹たりとも逃がしゃしねぇ」
そう言ってレオンの後ろで大きなハンマーを握り、どっしりと構えて魔物たちを迎え撃つのは、ドワーフの戦士ボルゴ。
「やれやれ、回復が間に合うといいんですが……」
と、その横で弱気な台詞を呟くのは、正人の僧侶グレン。
「安心せい! わしの火炎魔法があれば、この程度の魔物は一撃じゃわいッ」
そのさらに後ろ。いい感じの木の杖を掲げて、魔力を練り上げているのは、正人の魔法使いオルド。
「僕の弓矢も忘れないでほしいね」
と言いながら木の枝に軽々と身を乗せ、弓矢を構えている小柄な人物は、エルフの弓使いフィン。
——ワァアアアッ
錆びた剣や、石の斧を持ったゴブリン兵士たちが、一斉に勇者たちへ襲いかかる。
——ズバッ! ドゴッ! ボワァア! ダンッ!
気づけば、辺りにいた魔物たちは全員、地面に伏せて動かなくなっていた——
「ふぅ~……これで全部か? 大したことなかったな」
勇者レオンは髪の毛をサッとかき上げ、空中にキラリと汗の粒を光らせた。
「おう、楽勝だったな。もう俺たちなら魔王が相手でも、楽勝で倒せるんじゃねえか?」
戦士ボルゴは汗一つかくこともなく、もじゃもじゃの髭を手でさすりながらそう言った。
「何を言っておる。わしの魔法がなかったら、無傷じゃ済まんかったぞ」
魔法使いオルドは、そう言いながら彼らに近づく。
「まあ、何はともあれ皆さんが無事でよかったです」
と、僧侶グレンは一安心。その後ろで、木の枝からフィンが降りてきて、
「じゃ、討伐費用を受け取りに街へ戻ろっかー」
と言い、勇者一行は談笑しながら、迷うこともなく森を出た。
——グランセル王国、城下町の酒場。
「なあ、こないだ魔王城に攻め込んだ、隣町の勇者たちが居たろ?」
「おう、ザイルとか言ったか。あいつら負けて帰ってきたらしいな」
「ええ、でも噂によると魔王軍……もう軍資金が足りないらしいですね」
「ほう。ならば今まさに、狙い目じゃぞ?」
「へぇ~、じゃあ今すぐ魔界に攻め込もうよ!」
自分たちの“負け知らず”の戦いっぷりに、気を大きくした勇者一行は、ついに魔王を討伐することを口にし始めた。
これまで、数多くの勇者たちが魔王に挑んでは、そのすべてが返り討ちに遭っている。
だが、そんな最強の魔王ガルダスが倒れ、その後継ぎとして娘のリゼルが新たな魔王になったと、正界にも噂は轟いている。
さらに、魔王リゼルは内政が下手で、代替わりして以降は軍事力が低下したいう噂も……。
そんな中、酒に酔ったレオンが宣言してしまう。
「よーっし! 俺が魔王を倒して、真の平和ってやつを正界のみんなに見せてやる!」
酒場の中央の席で、グラスを高く掲げてそう言い放ったレオン。それを見ていた周りの客たちもレオンを鼓舞する。
「おおー! いいぞ勇者さん! がんばれー!」
「あら、あの勇者さんイケメンじゃない? がんばってー!」
「よっ、レオン! 世界一ぃ~!」
そして、グイッと手に持った酒を一気飲みし、「ぷはーー!」っと言いながらグラスをテーブルに叩きつけた。
あれだけ啖呵を切ったレオンの顔が、ぴくぴくと引き攣っている。
レオンは心の中で思っていた。もう引っ込みがつかなくなってしまった……と。
* * *
その後、酒場を出て、事の重大さに気づいたレオン。
「みんなごめんっ! つい気が大きくなっちゃって……」
しかし、仲間たちはそんなレオンを叱るどころか、こう言った。
「なあに、今こそ好機だろ? 俺は魔王討伐に賛成だぜ」
「ふむ。わしもそう言ったじゃろ。早速、準備を整える予定じゃ」
「そうですね、私もそろそろかなと思ってましたよ」
「魔王にとどめを刺すのは僕の弓矢だからね!」
正直、レオンも内心では「もう魔王を倒せる」と本気で思っていた。
この正界には、彼らの他にも“勇者一行”を名乗る者たちは複数いる。だが、その中でも彼らはトップクラスの強さを誇っていた。
酔いの冷めたレオンは、改めて仲間たちに宣言する。
「そうだな、うん。……行こう! 魔王討伐だ!」
こうして、レオンたち勇者一行は、ついに魔界へと向かうのだった——
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