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第10話 迫りくる勇者たち

 ——魔界、城下町の酒場。


 レオンたち勇者一行は、まだ顔に黒い模様を描いたまま、“魔人(まじん)”のフリをして潜伏していた。


「やはり、魔王城へ攻め込むなら、奴らが寝静まった夜中のほうがいいんじゃないか?」


「いや、ほとんどの魔物が夜行性だろ」


「ふぅむ……しかし、例の魔導兵器アイドルが何なのか、まだ掴めておらぬ以上、無理に攻め入るのは危険じゃぞ」


 すると、お手洗いへ行っていたフィンが、手を振って何かを指差している。


「ねぇ! これ見て!」


 レオン達は席を立ち、フィンが指差している物を見に行くと、それは壁に貼られたポスターだった。


『魔王城の修繕作業ボランティア大募集!』


 その内容は、先の勇者の襲撃によって破壊された、魔王城の壁や床を修繕・補修する作業員の募集だった。


 ただし、給料も食事補助も一切なく、完全なボランティア活動として参加できる者を探していた。


「やはり、軍資金が足りないという噂は本当だったのかもな」


「でも見てみろよ、城下町の魔物たちは裕福そうだぜ」


 すると、グレンがそれを見て閃いた。


「何にせよこのボランティアに参加すれば、魔王城の内部調査ができそうですね」


 一同、「なるほど」といった表情を浮かべ、さっそくこのボランティア活動に参加するため、魔王城へと向かった。


 ——魔王城、正門。


 高くそびえる真っ黒な石壁の魔王城には、大きな正門で閉ざされている。


 その扉の横には小さな守衛室があり、一般の魔物が魔王城の中へ入るには、ここにいる守衛さんに許可を得る必要がある。


「あ、どうも~。魔人5名なんですが……」


 本当は、魔王討伐を目論む正界からやってきた勇者一行だが、レオンたちはプライドなど捨てて魔人のフリを続ける。


 守衛室の中には、目つきの悪いオークの中年男性が一人。何か魔界で発行されている週刊誌のようなものを読んでいた。


 オークは雑誌を少しだけ下げ、レオンたちに視線だけ向けてこう言った。


「……あ? なんだてめぇら」


 すごく態度が悪い。レオンはちょっとイラッとして、腰に下げた剣の柄に手を触れた。


 しかし、ぐっと堪えてこう言った。


「あー、あの、城の修繕ボランティアの件で来たんですけど……」


 それを聞いたオークは、すぐに雑誌を机に置き、引き出しから何かを取り出した。


「おぉ! なんだ、ボランティアで来たのか。それならそうと早く言ってくれよ~」


 オークはなぜか急に態度を改め、レオンたち5名分の『ボランティア契約書』なる用紙を手渡した。


 言われるままその用紙に記入するレオンたち。それを見ながらニコニコと話しかけてくるオーク。


「へぇ~。お兄さんたち、みんな魔人なんだねぇ。あ、こないだ突然やって来た魔王軍の“参謀さんぼうも魔人だったなぁ~。でもあの人は、あんたらみたいに顔の模様がない、珍しいタイプだけどねぇ」


 ペラペラと一人でよく喋るオークだ……と思いながらも、レオンたちは記入を終えた。


 すると、今度は別の引き出しから何かを5つ取り出し、それをレオンたちに手渡した。


 それは、魔王軍ロゴ入りの『作業員』と書かれたバッジだった。


「じゃあ、終わったら帰りにバッジを返却してくれ。作業に関しては中にいるゴブリン兵にでも聞いてくれや」


 レオンたちはそのバッジを服に付け、魔王城の正門へと向かう。


 重たい鉄の扉を押して開門し、ついにレオン達は正門を抜け、魔王城の敷地内へと足を踏み入れた。


「よし……油断するなよ」


 レオン達は胸に『作業員バッジ』を付け、城の中に入っていく。


 内部は薄暗く、禍々しいオーラに満ちている。


 一歩ずつ慎重に歩いて行くレオンたち勇者一行。


 しかし、誰一人として魔物がいない。


「おいおい、魔王城だろ? なんでこんなに守りが手薄なんだ?」


「壁や床もボロボロですね。城下町はあんなに綺麗だったのに……」


 そんな会話をしながら1階を見て回る勇者たち。


 すると、何者かの声が聞こえてきた。


「シッ……! 誰かいる!」


 勇者は壁際に体を寄せ、それに続いて仲間たちも壁に体を寄せる。


 ドアの向こうから声が聞こえる。


 レオンは、そのドアに書かれた文字を読む。


「多目的ホール……?」


 そう、ここは魔王城1階にある多目的ホール。


 中では、魔王軍アイドルグループの“スカーレット♡ネメシス”が、ダンスの練習に勤しんでいた。


「はい、タンタン、タタタン、回って~~……ポーズッ!」


 ワーウルフのダンス講師が、3人の魔物たちの前で振り付けの指導を行っている。


 それを見守るスケルトンの魔導士と、正人(せいじん)のような見た目をした男性の姿もある。


 勇者たちはドアの隙間からそれを覗き見ていた。


「な、なんだ……あれは……?」


「分からん。俺が聞きてぇよ……」


 レオンとボルゴは呆気に取られていた。グレン、オルド、フィンの3人は立ち位置的に中の様子が見えない。


「何が見えるんじゃ? わしらにも見せぃ」


 しかし、レオンとボルゴはなぜかその光景から目が離せない……


「いや、待って、もうちょい見せて……」


 小気味のいいリズミカルな曲。それに合わせて踊るメンバーの3人。それは今までレオンとボルゴが見たことのない、不思議な光景だった。


 すると、ダンス指導中のロベルトがこう言った。


「じゃあ今度は、踊りながら、歌も歌ってみよう!」


 そう言って、魔響盤の再生機を巻き戻し、曲を最初から流し始めた。


 そして——


 歌い、踊る、3人の魔族の女の子たちが、レオンとボルゴの目に映る。


「お、おおぉ……なんだ、何が起きている?!」


「分からん……だが、あの魔物の女ども……光って見えるぞ……」


そのボルゴが口にした“光”とは、まだ魔界にも正界にも存在しないはずの“アイドル(こう)”である。


勇者とはいえ肉体は単なる正人(せいじん)であるレオンと、恋愛には奥手で硬派なドワーフ戦士のボルゴには、このアイドルが放つ光はあまりにも刺激が強すぎた。


 二人はドアから離れ、目の中にハートマークを浮かべてこう言った。


「ダメだ……あんな可愛い子たちに……攻撃なんて……できないッ」


「おう……なんか……胸が、締め付けられて……力が出ねぇ……」


 グレンが慌てて二人に回復魔法を施す。しかし、どういうわけか一向に回復しない。


「くっ…… 肉体へのダメージというより、精神的なダメージなので回復できません!」


「一体、部屋の中には何があったのじゃ?! まさか……例の“アイドルグループ”というやつか!?」


 すると、フィンが部屋のドアに近づいて中を覗こうとしている。


「そ、そんなに……すごいの?」


 しかし、オルドがそのフィンの腕をガシッと掴み、ドアから引きはがす。


「近づいてはいかんッ! ここは、一旦撤退! 撤退じゃーッ!」


 城の入口へと慌てて引き返す勇者一行。


 レオンはオルドが肩を抱き、ボルゴはグレンが身体を支え、その後ろでフィンが周りに注意を払いながら走る。


 そして、そのまま城を飛び出し、正門を抜け、守衛室にバッジを返却した。


「おいおい、どうしたんだ? もう修繕が済んだのか?」


 守衛のオークが慌てて状況を確認するが、一番後ろにいたフィンが「体調不良で早退します!」と答え、そのまま魔王城から退出した。


 後に、この経験によって勇者一行は大きな変化を迎えるのであった——

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