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第11話 オーディション

 ——魔王城、オーディション当日。


 魔王城の前には、なんと百名以上もの大行列ができていた。


 魔界新報の折り込みチラシ一つで、これほど多くの魔族が興味を示すとは思ってもいなかった。


 魔王城の窓辺に立って、事の重大さに震える田中とシェーデル。


「ちょ、待って、人数えぐいんだが……」


「ええ……私もまさか、これほど集まるとは思ってもいませんでした」


 すると、二人の後ろからミレイナとエイラがやってきた。


「へえ~、すごい行列じゃん!」


「わっ、ほんとだ! あんなにたくさん……」


 四人は仲良く窓の前に並んで下を眺めながら、どんな参加者たちがいるのかしばらく観察する。


 ゴブリン、ゾンビ、スケルトン……多種多様な魔物たちが、首を長くして城の正門が開くのを待っている。


「やはり、魔王軍による“国の仕事”という安心感と、“給料の高さ”に()かれたのでしょうね……」


「なるほどな……よし、そろそろ現場向かうか」


 そう言って田中とシェーデルは、オーディション会場へと向かった。


 ——魔王城2階、応接室。


 今日はこの部屋がオーディション会場になっており、ゴブリン兵とスケルトン兵が会場の案内係を行う。


 部屋の窓際には横長のテーブルが配置され、その向かいに1つだけ椅子を用意。オーディションの審査員は、田中とシェーデルの二人。


 ……のはずだったが、なぜかミレイナとエイラも参加すると言い出し、四人の審査員による圧迫面接のような形になってしまった。


「どんな子が来るか楽しみね♪」


「うん、楽しみっ!」


 まるで発表会か何かを見に来たような雰囲気の二人に対し、田中は一喝(いっかつ)を入れる。


「いや、これ魔王軍のアイドルオーディションだから、ガチ審査してもらわんと普通に困るんだが!」


 すると、ドアの向こうから何やら慌てた様子でスケルトン兵が現れ、


「あ、あの……特別審査員ということで……」


 と、言ったその後ろから、ゴゴゴゴゴ……と、禍々しいオーラを放つ黒いドレスの女の子が現れた。


「余も審査するぞ」


 それはなんと、魔王だった。


 シェーデルが「魔王様!?」と驚いて立ち上がるが、魔王は「気にするな」と言いながら勝手に椅子を持ってきて、長テーブルの一番端に腰かけた。


「んっ、こやつらが例の2人か?」


 魔王がミレイナとエイラを見ながらそう言った。


「あ、はい。こちらがミレイナ。こちらがエイラです。ほら、二人とも魔王様に挨拶して!」


「あッ…あの、はじ、初めましてミレイナです」


「え、えっあっ、エイラですぅ」


 二人は魔王を前にして、そのあまりの強烈なオーラに気圧(けお)されてしまい、ろくな挨拶ができなかった。


「ほお~う。なかなか可愛い子たちじゃないか。期待しているぞ」


 その言葉を受け、ミレイナとエイラの心臓がギュッと締め付けられた。それは単なる恐怖心か、それとも可愛いと言われた嬉しさか。


 ……というわけで急遽、魔王も参加して5人で審査を行うこととなった。


 そして、先ほどのスケルトン兵がこう言った。


「あ、それじゃあもう始めますか? 通路に皆さん並んでますので……」


「うむ。始めぃ!」


 魔王が勝手にオーディションの開始を告げ、ついに魔王軍アイドルオーディションが始まった。


「それでは最初の方、お入りくださーい」


 ——ガチャッ


 会場のドアが開く。


「あ、失礼しまーす」


 そう言って、会場の中央に置かれた椅子の前までやって来たのは、愛らしい表情をしたゴブリンの女の子だった。


 ミレイナとエイラは「可愛いね~」と小声で話す中、魔王は(あご)に手を当てたまま黙って見つめている。


 田中とシェーデルは、まずじっくりとその外見に目を向ける。服装、髪型、そして表情の作り方など、事細かに手元の用紙へ記入し、シェーデルが司会進行役を務める手筈(てはず)だ。


「えー、では、自己紹介をどうぞ」


「エントリーナンバー1番。ゴブリン種族のソフィアです。えっと、特技は耳が動かせることです」


 そう言って、ゴブリン特有の長い耳を、ピクピクと動かし始めた。


「わァ~、すごい!」と言って拍手をし始めるミレイナとエイラ。田中とシェーデルは、一応その特技についても手元の用紙にメモしておく。


 しかし、魔王は舌打ちをして、


「次ッ!」


 と、怒鳴(どな)るような声で言った。


 それを受けて係員のスケルトン兵が「はい、では次の方~」と促す。


「あの、もう少し話を聞いてもよかったんじゃ……」


 シェーデルが魔王にそう言うと、魔王はこう返した。


「百人以上もいるんだぞ。どんどん審査していかねば」


 それを聞いた田中は思った。素養(そよう)のあるなしに関わらず、審査を一巡した後、気になる子にもう一度詳しく話を聞くほうが効率的だろう、と。


「魔王様の考えと解釈一致。じゃんじゃん見てこう!」


「うむ。さすが参謀だな。速度を上げて審査していくぞ」


 そして、次に入ってきたのは、ゾンビの女の子だった。


「どんもぉ~。わだす、ゾンビ村から来だ、ゾンビ種族の……あッ」


 ——ボドッ


 挨拶中に、彼女の右腕がちぎれて床に落ちた……。しかし、彼女は冷静にその腕を拾い上げ、


「あや~、失礼しやしだぁ~。ちょっど腕が腐ってでぇ……」


 と言いながら、肩の付け根に『グジュッ!』と音を立てて、落ちた腕を取り付けた。


 ミレイナとエイラもさすがにちょっと引いている。シェーデルは心配そうに見守っているが、ちょっと引いている。


 その一部始終を見守っていた魔王は、もちろんこう言った。


「次ッ!!」


 また次の女子が部屋に入って来る。


 今度は、鳥のような翼を背中に持つ、鳥人の魔物ハーピーだ。翼以外は普通の人間の少女のように可愛らしい見た目をしている。


「エッ、エッ、エントリー3バー何番! ……あっ、ちがッ、あわわわわ」


 とても緊張しているようだ。その様子をミレイナとエイラは「がんばれー」と応援し、田中とシェーデルも同じ気持ちで見守っていた。


 しかし、魔王はそれでも表情ひとつ変えず、真剣な表情で見つめている。そして……


「次ッ!!」と言った。


 魔王は、どんな魔物がやって来ても態度を変えることはない。その徹底した姿勢は、誰よりも“審査員”という立場をしっかり理解し、平等に審査をしていると言えるのかもしれない。と田中は思った。


 こうして、次々と審査が進められていく……


 ——5時間後。


 ついに全員の審査が終わった。一人当たり2~3分の審査でも、これほどの時間がかかってしまった。


 女性アイドルの募集と書いていたにも関わらず、約二割が男性の魔物だったが、それでも審査に時間がかかった。


 審査を行ったみんなは、もうへとへとの状態だったが、魔王だけは一切疲れた様子は見られない。


「ふーむ。参謀よ、どの娘が気になった?」


「……えっ、そうっすねぇ。3番のハーピーの子とか、ビジュも強くて当たりかなーと」


 それを聞いて魔王は「ほう」と資料を改めて(にら)む。この反応からして、おそらく魔王は別の魔物が気になったのだろう。


 そこで、田中は魔王が誰を気になったのか聞いてみることにした。


「ちな、魔王様は?」


「ん、余か? 余はな……」


 そう言って資料を一枚引っ張り出し、田中の前に差し出した。


 それは、意外な魔物だった——

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