表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/22

第12話 決め手

 魔王が選んだ応募者、その資料を見た田中は思わずこう言った。


「えっ……これって、あのダンスの……」


「うむ。余が一番気になったのは、こやつだ」


 それは、オーディション開始から約2時間ほど経過して、みんな少し疲れが見えてきた頃——


 * * *


 室内には魔王の声が響き渡る。


「次ッ!!」


 すでに50人以上、ぶっ続けで審査をしていたので、田中は審査の基準すらよく分からなくなっていた。


「はい、次の方どうぞー」


 ドアが開いた瞬間、オーディション会場の空気がわずかに張り詰めた。


 現れたのは、黒い革のジャケットとパンツを着こし、両手には真っ白な手袋、そして足元にはピカピカの革靴を履いている。


 ゆっくりと中央へと歩き進むたび、その足音がやけに鮮明に会場へ響いた。


「エントリーナンバー55。ヴァンパイアのイザベラよ」


 そう言って椅子の前に立つと、神がかり的に均整の取れたプロポーションをしていて、その長い脚はまるで身体の大半を占めているように見えた。


 通った鼻筋に、すっと引き締まった切れ長の目元は、何かを見透かすような力強さを宿している。


「わァ……綺麗な人♪」


 魅了が得意技のサキュバスであるミレイナでさえ、彼女を見てこのような声を漏らした。


 エイラもうっとりした眼差(まなざ)しで彼女を見つめ、田中とシェーデルもつい見とれてしまい、メモを取ることすら忘れていた。


 しかし、魔王だけは違った。至って冷静に彼女を見つめ、ひとつだけ質問をした。


「その肌に塗っているのは何だ?」


 確かに、彼女の白い肌がやけに(つや)めいている。だが、そんな質問に何の意味があるのだろう……そう思った矢先、


「これは……日焼け止めクリームよ」


 と、ヴァンパイアのイザベラは、少し躊躇(ためら)いながら答えた。


 ここ魔界の空は、常に曇天(どんてん)で薄暗いが、日中の間は城下町に淡く太陽光が包み込んでいるため、ヴァンパイアには日焼け止めクリームが必須である。


 すると、魔王が田中のほうを見て言った。


参謀(さんぼう)よ、“あいどる”というのは当然、外での仕事もあるのだろう?」


「あー……野外ライブとか、MV撮影とか? まあ、魔界だからどこまで可能か知らんけど」


 そして、魔王はイザベラのほうへ向き直り、こう言った。


「ということだ、イザベラよ。まだ面談を続けるか?」


 それを聞いてイザベラは、下を向いたまま黙り込んでしまった。


「次ッ!!」


 魔王の号令がかかり、スケルトン兵が次の応募者を呼ぼうとする。


 と、その時——


「ちょっと待ちなさいよ! まだ特技も見せてないじゃないッ」


 イザベラは突然、ものすごい剣幕(けんまく)でそう主張した。


 すぐさまシェーデルが立ち上がり、イザベラの態度を制する。


「コラッ! 魔王様に対して何だその口の聞き方は!」


 だが、魔王は至って冷静に、係員のスケルトン兵へ手で合図を送り、イザベラにこう言った。


「良かろう、面談を延長する。特技を見せてみよ」


 すると、イザベラは椅子の横に置いていた自前のカバンの中から、四角い箱を取り出し、椅子の上に置いた。


「あれは、魔響盤(まきょうばん)の再生機ですね。何か音楽を流すようです」


 田中は初めて現物を見たそれは、魔響盤という丸いディスク。この中に歌や音楽を閉じ込めることができ、それを再生する装置も存在している。


 すると、再生機から軽快なリズムの曲が流れ出した。


 人間界の音楽で例えるなら、ヒップホップのような曲調だ。


 そして、次の瞬間……


 ——シュッ!


 イザベラが突然、視界から姿を消した。


 ……と思った矢先、審査員たちが座る長テーブルの前に現れ、見たこともない華麗な動きで、曲に合わせてステップを踏み始めた。


 さすがはヴァンパイア、ものすごい身体能力である。


 その動きには一切の(すき)がなく、たぶんこれが戦闘だったらもう田中なんかは、あっという間に倒されていただろう。


 しかし、イザベラのその動きは、ダンスというには荒々しすぎて、何とも言えない不思議な振り付けだ。


「な、なんだこの動きは……!」


 これには、さすがの魔王も驚きを隠せない様子。


「キャー! カッコイイ~」


 ミレイナとエイラは相変わらずの調子で、とにかく楽しそうに手拍子を打っている。


 田中とシェーデルは呆気に取られ、ただ見守ることしかできなかった。


 そして……


 ——タタンッ


 流れていた曲が終わり、イザベラは靴の底を床に当ててポーズを決めた。


 さすがはヴァンパイア、あれだけ激しく動いても呼吸が一切乱れていない。


 ミレイナとエイラは立ち上がって拍手を送っている。


 そして、魔王がイザベラにこう言った。


「ふむ。最後にひとつ質問がある。今回、応募した理由はなんだ?」


 するとイザベラは、一切間を置かずこう答えた。


「父を超えるためです。その理由は——」


 魔王はイザベラの話を真剣な表情で聞き、少し間を置いてこう言った。


「……選考結果は後ほど伝える。下がって良いぞ」


 そしてイザベラは審査員の皆に一礼し、そのまま部屋を出て行った。


 * * *


 田中は、そのあまりのインパクトから、彼女のことは強く記憶に残っていた。


「たしかに、このイザベラって子もかなり魅力あった。でも、なんか決め手がもう一声っていうか……」


「では参謀よ。お主が気になると言っていた、ハーピー娘には決め手があったのか?」


「あ……いや、単純に見た目がこっちのほうが刺さったので……」


「ふんっ、そんなことだと思った。……余には、決め手があったぞ」


 すると魔王は、イザベラの資料を取り出し、そこに書かれた『父を超えたい』という文字を指差した。


「これだ。余と()()()を持っているのは、このイザベラだけだった」


 えー……そんな理由? と田中は思ったが、あえて口には出さなかった。


 ——そして、数分後。


 魔王城から続々と魔物たちが出て行く。その様子を、2階の応接間の窓から眺める四人。


 田中とシェーデル、そしてミレイナとエイラ。


 魔王は少し前に「後は頼んだぞ」と言い残し、さっさと会場を出て行ってしまった。


 魔物たちが全員、正門を抜けて城下町へと戻って行ったのを見届け、シェーデルは小さく田中にこう言った。


「本当に良かったんですか?」


「ああ。もう決めた」


 田中の顔に迷いはなかった。

 振り返り、スケルトン兵に告げる。


「よし、ドアを開けてくれ」


 スケルトン兵はゆっくりドアを開ける。


 ——ガチャ……


 そこに立っていたのは……!?


「あ、どんも~……あだす、ゾンビ村のゾビーナですがァ~」


 えっ……!


 一同、目を丸くしてソビーナちゃんを見つめる。


「あのォ~、あだす、落とし物しぢまっで……左腕ぇ、見んかっだがァ?」


 すると、スケルトン兵が慌てて「落とし物は守衛室で預かってます」と言い、通路へと押し戻した。


 そして、その後ろから現れたのは……


「あの……本当に、私なの?」


 ヴァンパイアのイザベラだ。


 一同、盛大な拍手で迎える。本人もまだピンときていないようだが、今回のオーディションの合格者は彼女に決定した。


 こうして、ついに3人のメンバーが集まり、本格的に始動するのだった。

「面白かった!」「続きが気になる!」


と、感じて頂けたら、下の☆☆☆☆☆から応援をお願いします。


面白かったら★5つ、そうでなければ★1つでも大丈夫!


あなたの正直な感想を聞かせてもらえるのが一番うれしいです。


ブックマークもしていただけると、とても励みになります!


どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ