第12話 決め手
魔王が選んだ応募者、その資料を見た田中は思わずこう言った。
「えっ……これって、あのダンスの……」
「うむ。余が一番気になったのは、こやつだ」
それは、オーディション開始から約2時間ほど経過して、みんな少し疲れが見えてきた頃——
* * *
室内には魔王の声が響き渡る。
「次ッ!!」
すでに50人以上、ぶっ続けで審査をしていたので、田中は審査の基準すらよく分からなくなっていた。
「はい、次の方どうぞー」
ドアが開いた瞬間、オーディション会場の空気がわずかに張り詰めた。
現れたのは、黒い革のジャケットとパンツを着こし、両手には真っ白な手袋、そして足元にはピカピカの革靴を履いている。
ゆっくりと中央へと歩き進むたび、その足音がやけに鮮明に会場へ響いた。
「エントリーナンバー55。ヴァンパイアのイザベラよ」
そう言って椅子の前に立つと、神がかり的に均整の取れたプロポーションをしていて、その長い脚はまるで身体の大半を占めているように見えた。
通った鼻筋に、すっと引き締まった切れ長の目元は、何かを見透かすような力強さを宿している。
「わァ……綺麗な人♪」
魅了が得意技のサキュバスであるミレイナでさえ、彼女を見てこのような声を漏らした。
エイラもうっとりした眼差しで彼女を見つめ、田中とシェーデルもつい見とれてしまい、メモを取ることすら忘れていた。
しかし、魔王だけは違った。至って冷静に彼女を見つめ、ひとつだけ質問をした。
「その肌に塗っているのは何だ?」
確かに、彼女の白い肌がやけに艶めいている。だが、そんな質問に何の意味があるのだろう……そう思った矢先、
「これは……日焼け止めクリームよ」
と、ヴァンパイアのイザベラは、少し躊躇いながら答えた。
ここ魔界の空は、常に曇天で薄暗いが、日中の間は城下町に淡く太陽光が包み込んでいるため、ヴァンパイアには日焼け止めクリームが必須である。
すると、魔王が田中のほうを見て言った。
「参謀よ、“あいどる”というのは当然、外での仕事もあるのだろう?」
「あー……野外ライブとか、MV撮影とか? まあ、魔界だからどこまで可能か知らんけど」
そして、魔王はイザベラのほうへ向き直り、こう言った。
「ということだ、イザベラよ。まだ面談を続けるか?」
それを聞いてイザベラは、下を向いたまま黙り込んでしまった。
「次ッ!!」
魔王の号令がかかり、スケルトン兵が次の応募者を呼ぼうとする。
と、その時——
「ちょっと待ちなさいよ! まだ特技も見せてないじゃないッ」
イザベラは突然、ものすごい剣幕でそう主張した。
すぐさまシェーデルが立ち上がり、イザベラの態度を制する。
「コラッ! 魔王様に対して何だその口の聞き方は!」
だが、魔王は至って冷静に、係員のスケルトン兵へ手で合図を送り、イザベラにこう言った。
「良かろう、面談を延長する。特技を見せてみよ」
すると、イザベラは椅子の横に置いていた自前のカバンの中から、四角い箱を取り出し、椅子の上に置いた。
「あれは、魔響盤の再生機ですね。何か音楽を流すようです」
田中は初めて現物を見たそれは、魔響盤という丸いディスク。この中に歌や音楽を閉じ込めることができ、それを再生する装置も存在している。
すると、再生機から軽快なリズムの曲が流れ出した。
人間界の音楽で例えるなら、ヒップホップのような曲調だ。
そして、次の瞬間……
——シュッ!
イザベラが突然、視界から姿を消した。
……と思った矢先、審査員たちが座る長テーブルの前に現れ、見たこともない華麗な動きで、曲に合わせてステップを踏み始めた。
さすがはヴァンパイア、ものすごい身体能力である。
その動きには一切の隙がなく、たぶんこれが戦闘だったらもう田中なんかは、あっという間に倒されていただろう。
しかし、イザベラのその動きは、ダンスというには荒々しすぎて、何とも言えない不思議な振り付けだ。
「な、なんだこの動きは……!」
これには、さすがの魔王も驚きを隠せない様子。
「キャー! カッコイイ~」
ミレイナとエイラは相変わらずの調子で、とにかく楽しそうに手拍子を打っている。
田中とシェーデルは呆気に取られ、ただ見守ることしかできなかった。
そして……
——タタンッ
流れていた曲が終わり、イザベラは靴の底を床に当ててポーズを決めた。
さすがはヴァンパイア、あれだけ激しく動いても呼吸が一切乱れていない。
ミレイナとエイラは立ち上がって拍手を送っている。
そして、魔王がイザベラにこう言った。
「ふむ。最後にひとつ質問がある。今回、応募した理由はなんだ?」
するとイザベラは、一切間を置かずこう答えた。
「父を超えるためです。その理由は——」
魔王はイザベラの話を真剣な表情で聞き、少し間を置いてこう言った。
「……選考結果は後ほど伝える。下がって良いぞ」
そしてイザベラは審査員の皆に一礼し、そのまま部屋を出て行った。
* * *
田中は、そのあまりのインパクトから、彼女のことは強く記憶に残っていた。
「たしかに、このイザベラって子もかなり魅力あった。でも、なんか決め手がもう一声っていうか……」
「では参謀よ。お主が気になると言っていた、ハーピー娘には決め手があったのか?」
「あ……いや、単純に見た目がこっちのほうが刺さったので……」
「ふんっ、そんなことだと思った。……余には、決め手があったぞ」
すると魔王は、イザベラの資料を取り出し、そこに書かれた『父を超えたい』という文字を指差した。
「これだ。余と同じ志を持っているのは、このイザベラだけだった」
えー……そんな理由? と田中は思ったが、あえて口には出さなかった。
——そして、数分後。
魔王城から続々と魔物たちが出て行く。その様子を、2階の応接間の窓から眺める四人。
田中とシェーデル、そしてミレイナとエイラ。
魔王は少し前に「後は頼んだぞ」と言い残し、さっさと会場を出て行ってしまった。
魔物たちが全員、正門を抜けて城下町へと戻って行ったのを見届け、シェーデルは小さく田中にこう言った。
「本当に良かったんですか?」
「ああ。もう決めた」
田中の顔に迷いはなかった。
振り返り、スケルトン兵に告げる。
「よし、ドアを開けてくれ」
スケルトン兵はゆっくりドアを開ける。
——ガチャ……
そこに立っていたのは……!?
「あ、どんも~……あだす、ゾンビ村のゾビーナですがァ~」
えっ……!
一同、目を丸くしてソビーナちゃんを見つめる。
「あのォ~、あだす、落とし物しぢまっで……左腕ぇ、見んかっだがァ?」
すると、スケルトン兵が慌てて「落とし物は守衛室で預かってます」と言い、通路へと押し戻した。
そして、その後ろから現れたのは……
「あの……本当に、私なの?」
ヴァンパイアのイザベラだ。
一同、盛大な拍手で迎える。本人もまだピンときていないようだが、今回のオーディションの合格者は彼女に決定した。
こうして、ついに3人のメンバーが集まり、本格的に始動するのだった。
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