第8話 計画変更
——魔王の間。
田中は、魔王軍アイドル計画の進捗報告と、自分の契約に関する確認も兼ねて、シェーデルとともに魔王のもとへ訪れていた。
「おー、参謀。調子はどうだ?」
「今んとこ2人加入っす。普通に神引きレベル」
「ほう、さすが救世主だな。……して、いつ金になるんだ?」
「いや、まだ金を稼ぐ段階じゃないんだが。あと3人は加入させないと——」
と、田中が言いかけた時、魔王がチッと舌打ちをした。そして口調が荒々しくなる。
「ならぬッ! 一刻も早く“あいどる”とやらを開始して、軍資金を調達するのだ!」
「いやいや、待って、せめてあと1人は……」
すると、魔王の表情が一気に険しくなり、また片足を少し上げて、かかとを床に叩きつけた。
——ズゥゥンンンッッ!!
相変わらずの破壊力。ほんの少しの所作でこれほどまでの衝撃を床に与えるなど、魔王でなければ成しえない業である。
「ひんィッ!!」
田中はまた喉がギュッてなって、へんな声が出た。
すると、シェーデルが横から助け船を出す。
「ところで魔王様! 参謀殿との雇用契約は交わされておりましたか?!」
それを聞いた魔王は、ハッとした表情になり、慌ててこう言った。
「あー……すまんすまん。忘れておった! あははははっ」
いや笑いごとじゃないんだけど……と田中は思ったが、口を慎むことにした。
「こほんっ。シェーデル、ちょっと来い」
魔王はシェーデルを近くに呼び、何やらこそこそ小さな声で相談し始めた。
そして、数分後。シェーデルが紙とペンを持って田中のもとへと戻ってきた。
「こちらが参謀殿の雇用契約書になります。よく内容を読んで、問題がなければサインのほうを」
と言って手渡されたそれは、即席で作られただけあって大した内容は書かれていなかった。
要約すると以下の通りだ。
・基本給30万ギラン
・食堂での三食付き
・個室完備
・昇給制度あり
それを見た田中はすぐに違和感を覚えた。
「いや待って、ミレイナとエイラより給料低いんだが!」
すると魔王が言った。
「不満か? そやつらの給料を下げて、お主の給料を上げてやっても構わんぞ」
今更そんなことを彼女らに言えば、「アイドルやめる」と言い出しかねない……まさか、魔王はここまで予見して、わざと自分の契約書を後回しにしていたのか? などと邪推する田中だった。
「これで……良きです」
田中は渋々、その雇用契約書にサインした。
この“ギラン”という魔界の通貨が、日本円に換算していくらなのかもよく分からないけど、一応“昇給制度あり”となっている。
頑張ってアイドルグループを育成して、軍資金を稼ぐことができれば、きっとその見返りを期待していいはずだ。
「まあ良い。あと1人いれば活動できるのだな? ならば、早急に集めて活動を開始するのだ。わかったな?」
田中とシェーデルは同時に「はいっ」と返事した。
当初の計画では5名必要だったが、こうなってしまっては仕方がない……
計画の変更と、急いでもう一人を集める必要があることを、ミレイナとエイラに伝えるべく、彼女らを招集して緊急会議を行うことにした。
* * *
——シェーデルの部屋。
テーブル席を四人で囲み、先ほど魔王に言われたことをシェーデルが改めて説明する。
「……というわけで、急遽あと1人見つけて活動を始めることになりました」
それを聞いたミレイナとエイラは、さほど驚く様子もなくこう答えた。
「ふーん。別にいいんじゃない? じゃあ早くもう1人集めましょ」
「ワタシも、早くアイドルをやってみたいですっ」
田中は少しほっとして、ミレイナに質問を投げかけた。
「ミレイナ、他に良さげな子いないの?」
しかし、ミレイナは首を横に振る。エイラにもアイドルやってくれそうな知り合いはいないらしい。
「参謀殿、また街へ出てスカウトしましょうか?」
だが、田中はしばしの間、考える。
そして、一つの案を閃いた。
「なあ、シェーデル。たまに耳にする“魔界新報”って何?」
「え、ああ、朝刊の新聞紙のことですよ。魔界に住む者ならみんな読んでます」
ミレイナが「読まない人もいるけど?」と目を細めてシェーデルを睨んでいるが、城下町の人たちが田中を“参謀”と呼んでいたのは、この新聞を書かれていたからに他ならない。
「やっぱり新聞か。それって、チラシとかも挟まってる?」
「ええ、雑貨店や八百屋などの特売を知らせるチラシなど……」
「よし、その新聞社の連絡を取ろう!」
すると、シェーデルは「了解です」と言って席を立ち、何やら頭蓋骨のようなものを持ってきた。
シェーデルはその頭蓋骨をテーブルの中央に置き、頭部を後ろに倒してパカッと口が開いた状態にする。よく見ると、歯の部分に番号が振られていた。
「少々お待ちください。魔界新報の番号は……っと」
そう言って一緒に持ってきた電話帳のようなものをパラパラとめくり、「あった」と指さした。
そこに書かれている番号の通りに、頭蓋骨の歯に振られた番号を押していく。
「なるほど、これ固定電話みたいなものか」
と田中が小さい声で口にすると、エイラがそれに気づいて教えてくれた。
「これは魔話器といって、魔力を使って遠くの誰かと話す装置ですよ」
「へえー……すごいな~」
興味深く魔話器を見つめる田中。それを優しく微笑んで見守るエイラだった。
——カチカチカチッ カチカチッ
番号を全て押し終わると、頭蓋骨が小刻みに震えだし、歯の噛み合わせで音が鳴っている。
少ししてその震えが収まり、頭蓋骨の目が真っ赤に光った。そして……
『はい、こちら魔界新報社。どちらさんですか?』
まるで頭蓋骨が喋りだしたかのように、口をパカパカと動かしながら音声が聞こえてきた。どうやら相手先に電話が繋がったらしい。
「あ、もしもし。私、魔王様の側近をしているシェーデルと申しますが……」
『えっ! 魔王様の? これまた、どのようなご用件で?!』
そこまで取り次いだ後、シェーデルは田中に「どうぞ」と言って促した。
「あっ、こ、こんにちは。魔王軍の参謀の田中です。えーと、チラシを新聞に入れたくて……」
『ああ、折り込みチラシの依頼ですね。もうチラシは作成済みですか?』
「あ、そっか……いや、まだ作ってもないんだけど」
『左様でしたか。もし内容など決まっていれば、弊社で制作も承っておりますが?』
「あ、じゃあ全部、コミコミでお願いしたいっす」
『承知いたしました。では早速ですが、依頼用のシートをお送りしますね! 書けたら送ってください』
すると、また頭蓋骨がカタカタと震えだし、なんとその口の中から紙が印刷されて出てきた。
——カチカチッ ヂヂヂ カチカチッ ヂヂ……
いったん電話を切って、この用紙に必要事項と、チラシに載せたい細かな内容を記入することにした。
そして、数分後。
「よし……できた!」
四人が囲むテーブルの上には、先ほどの用紙が置いてあり、そこにはこう書かれていた。
『魔王軍アイドルグループ メンバー募集オーディション』
ミレイナとエイラが勝手に書き足した、謎の魔物たちのイラストも添えて……。
そして、さっそく頭蓋骨の電話でFAXのように魔界新報へと送信した。
『確認しました。明日の折り込みに入れられますが、どうされます?』
「はい。明日でお願いします! 開催は三日後、魔王城にてと記載してください」
魔王軍アイドル、新メンバーオーディション……間もなく開幕!
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