第6話 歌姫を求めて
城下町にある大衆料理店にて、記念すべき1人目のスカウトに成功した田中。
——その名はミレイナ。
セクシーな魅力に溢れる褐色肌のサキュバス娘だ。
まだ日も高いため、ミレイナも含めて三人で城下町を歩き、もう一人くらいスカウトしよう、ということになった。
「参謀殿……本当にこの子で大丈夫なのですか?」
シェーデルは浮かない表情を浮かべて、田中にだけ聞こえる声でそう言った。
というのも、あの後、ミレイナが勝手に注文した料理たちが、山ほどテーブルに運ばれてきて、結局シェーデルが支払ったのだ。
ミレイナは財布を忘れたと言っていたが、やはり最初から奢ってもらうつもりだったのだろう。
「ま、まあ、先行投資だと思って……。次のメンバーを探そう」
と田中が言うと、前を歩いていたミレイナが振り返り、
「ねえ、何人集めるつもりなの? てか、アタシだけでも十分じゃない?」
言われてみれば、これだけ魅力あふれるサキュバスだ。きっとソロ活動でも人気は出て、ビジネスとして稼げることだろう。
しかし、田中はやはりアイドルグループを作りたい。
一人スカウトできたことで、田中はアイドルグループ育成を視野に入れた“プロデューサー魂”に火がついていた。
「目標は5人な。ハピ☆モスと同じ編成」
ミレイナのおかげで、具体的な目標が定まった。5人集まるまでスカウトを続けよう。
それを聞いてシェーデルが、田中にこう質問した。
「次もサキュバスを探すのですか?」
田中は少し考え、自分なりの理論を語り始めた。
「アイドルグループはバランスが命。セクシー枠だけじゃなく、ダンス強い子、歌メンの子。他にもあるけど、もちろん全員が最低限の歌とダンスを仕上げる前提な」
いつもにも増して熱く、早口で語る田中を見て、シェーデルとミレイナは呆気に取られていた。だが、その熱意は二人に伝わった。
そして、ミレイナがこう言った。
「歌の上手い子、一人知ってるよ。紹介しよっか?」
田中は「すぐに紹介して!」とミレイナに頼んだ。
だが、すぐには無理だと断られ、魔王城へ戻って夜まで待つことに……
* * *
——そして、夜。
三人はいったん魔王城に戻って、それぞれの個室で夜が来るのを待った。
約束の時刻、田中とシェーデルは魔王城の正門前で、ミレイナが来るのを待っていた。
すると、城の扉が開いてミレイナが二人の元へと走り寄ってきた。
「ねえッ、あんないい部屋もらっちゃってよかったの?!」
そして、彼女は走ってきた勢いのまま、シェーデルに飛びついた。
「シェーデルさん! ありがとうっ♡」
「ぬおッ?! な、なにを……離れなさいっ!」
そう言いながらも、シェーデルはまんざらでもない様子だった。
どうやらミレイナは福利厚生の個室が痛く気に入ったらしい。彼女は普段、男たちの家を渡り歩くような生活をしていたらしく、定住先が見つかったのが嬉しかったようだ。
そして三人はミレイナの知り合いが働いているという“酒場”へと向かった。
もともと昼でも曇天の薄暗い魔界だが、夜になるとさらに闇が深くなる。とはいえ、夜行性の魔物も多いため、通りはまだ賑わいを見せていた。
ミレイナは道行く男性の魔物にちょくちょく声を掛けられ、そのたび「あら元気?」「また遊んでね♡」などと愛想よく対応していた。
おかげで普通に歩けば十分で着く距離を、三十分もかけて目的地の酒場まで到着した。
「ここよ。ほら、もう歌声が聴こえる」
確かに、先ほどから外へと漏れ聞こえてくる……
それはもう、この世のものとは思えないほど美しい歌声だ。
——ガチャッ
扉を開けて店内へと足を踏み入れる。
そこは、木材をベースにした建物で、天井が高く、音響効果を考えて造られているようだ。
奥には壇上があり、そこにはピアノとチェロの伴奏に合わせて、まるで海のように青い髪色の女性が、目を閉じて歌っていた。
酒場といえば、ワイワイガヤガヤと騒がしい店内をイメージしていたが、ここでは彼女の歌声をつまみに酒を楽しむ、そんな大人な空間が広がっていた。
ひとまず、店内の角にあるバーカウンターへと向かう。
「いらっしゃいませ」
蝶ネクタイをしたバーテンダーのゴブリン店員だ。三人それぞれに飲み物を注文した。
店内はすでに満席だったので、そのままカウンターに設置されたハイスツールに腰掛け、魔界のナッツを食べながら彼女の歌声を楽しむことにした。
フロアにはたくさんの客がテーブル席で酒と食事を楽しんでいる。会話を楽しんでいる者もいるが、多くの客が彼女の歌声に酔いしれていた。
それを見た田中は、この世界にも歌や音楽を楽しむ文化があることに、まず安心を覚えた。
なぜなら、大前提としてその概念がなければ、魔界でアイドルが受け入れられるまでに時間がかかってしまうためだ。
音楽を楽しむためにお金を落とす。これが分かっただけでも、ここに来た甲斐があったと田中は思った。
それにしても本当に、心の奥にまで染み渡る、透き通るような歌声……いつまでも聴いていたい、そんな気分にさせてくれる。
「これはもう、メインボーカル候補だわ」
田中は、彼女の歌声の虜になっていた。魔王軍のアイドルグループに是非とも加入させたい。
そして、何曲か歌い上げた後、彼女は酒場にいる客たちへ深々とお辞儀をした。
——ワァァーー パチパチパチパチ……
鳴り止まない歓声と拍手。
だが、田中はその舞台裏へと移動する彼女の歩き方が気になった。ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにして歩いている。
よく見ると、それは足というより、尾っぽ。まるで、魚の尾のように見える……
「あれは、セイレーンという魔物です」
シェーデルは田中に耳打ちして教えてくれた。セイレーンは、人魚のような見た目で、美しい歌声が自慢の魔物だ。
「しかし、あんな人気歌手を口説くのは大変そうですな…」
とシェーデルが言うと、ミレイナは「アタシに任せて」と言って席を立った。
田中とシェーデルはミレイナの後について歩く。
すると、舞台裏に続く廊下へと出た。
通路の先には控え室の扉があり、その前にガードマンのワーウルフが二人立っている。
その内の一人が気づき、少し離れた位置から田中たちに声をかけてきた。
「お? なんだお前たち。ここから先は関係者以外、立ち入り禁止だぞ!」
すると、もう一人のワーウルフが田中を見て言った。
「おや、あんたこないだの参謀さんじゃないか。こんな所で何してんだい?」
「なんだ、お前アイツの知り合いか?」
「おう。あの方は魔王軍の“参謀”を勤める魔人だぞ。お前、魔界新報見てないのか?」
「えっ、そうなのか……これはこれは失礼いたしました。ささ、どうぞ!」
田中の“参謀”という地位のおかげで、すんなりと扉を開けてもらうことができた。
それを見たミレイナは、田中に近づいてこう言った。
「へえ~……参謀ってそんなに偉いんだ? アタシの色仕掛けで通してもらおうと思ってたけど、おかげで手間が省けたわ♪」
いったい、どんな方法で通してもらうつもりだったのか……とにかく三人は無事にセイレーンがいる控え室に入ることができた。
中に入ると、そこには先ほどのセイレーンの姿があった。
「あら、どちらさま?」
果たして、魔王軍アイドルの歌姫をゲットできるのか……?!
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