第5話 セクシー担当
——魔界の城下町。
田中とシェーデルの二人は、町の中を歩いていた。
「なあ、シェーデル。魔族の女子とか、知り合いにいないん?」
「いえ、私、浮世のことはさっぱりでして……」
聞くとシェーデルは、先代の魔王の頃から側近として仕えてきて、百年余りもの年月を魔王城で過ごしているという。
年齢は非公開ということで教えてくれなかったが、スケルトン種族はアンデッド系の魔物なので、年齢という概念すらないのかもしれない。
「参謀殿。とりあえず、お昼ごはんでも食べながら、打ち合わせをしましょうか」
というわけで、二人は手ごろな飲食店を見つけて、中に入ることにした。
——ガララ……
シェーデルが店の引き戸を開ける。
「らっしゃーせぇーー!!」
店内から、ゴブリン店員さんの元気な掛け声が聞こえた。
レンガ造りのお洒落な内装で、至る所に松明が設置されていて非常に明るい。ガヤガヤと客同士の賑やかな話し声が聞こえる、大衆的な飲食店だった。
田中とシェーデルは、二人掛けのテーブル席に通され、店員さんはメニュー表を置いて去って行った。
田中はメニュー表をパラパラとめくってみる。
「魔界メシ、何がおすすめ?」
「うぅむ……食事なんてこの百余年、魔王城の食堂で済ませていたので、何が美味しいのやら……」
すると、すぐ近くのカウンター席に一人で座っていた女性が、こちらの様子に気づいて話しかけてきた。
「あら、お兄さんたち♪ 見かけない顔ね」
整った顔立ちに、赤いロングヘアーがよく似合う、大人っぽい雰囲気を漂わせる女性だ。
一見、人間のようにも見えるが、魔族であることは間違いない。褐色の肌に、とがった耳。細くて長い尻尾と、背中には小さな黒い翼が生えている。
そして……非常に、露出度の高い衣装を身にまとっており、全身から妖艶な色気を放っている。
田中がその女性に思わず見惚れていると、シェーデルが小さな声で言った。
「サキュバスです。魅入られないようにお気を付けて」
「ハッ……!」と我に返る田中。
すると、サキュバスの女性はいつの間にか二人に接近し、カウンターの椅子を持ってきて、勝手に相席しようとしてきた。
「こらこら、私たちは今、大切な打ち合わせで——」
「いいじゃん。固いこと言わないでよ♪」
しばらく押し問答が続いたが、結局、押し切られる形で相席することになってしまった。
すると彼女はすぐに店員さんを呼び、次々に注文をし始めた。
「コカトリスの煮付けと、マンドラゴラスープ、あとグランエールもちょうだい♪ それから~……」
この女性、最終的に食事代を奢らせようという魂胆か……といった一抹の不安が、田中とシェーデルの脳裏をよぎった。
「お嬢さん、そんな勝手に注文して……支払いは——」
と、シェーデルが言いかけた時、サキュバスは言葉を重ねて
「ねえ、あなたたち何者なの?」
どうやら彼女は、田中が参謀に就任したことを知らないらしい。ずっと魔王城に籠っているシェーデルのことも初見のようだ。
「私は魔王様の側近シェーデル。こちらの“魔人”は、魔王軍の参謀に就任された方であるぞ。お嬢さん、魔界新報を見ていないのか?」
「あら、偉い人たちだったの? じゃあ奢ってよ♪」
二人が魔王に仕える偉い人……と、認識した上でなおも同じ態度の彼女を見て、田中は思った。
——この子、アイドル適性がある! と。
「……君、アイドルに興味ある?」
田中は思わず彼女をスカウトしていた。
それは決して田中が、彼女のサキュバスとしての魅力に魅入られてしまったわけではない。
長年、アイドルオタクを続けてきた田中のアイドル気質を見抜く“アンテナ”のようなものが、ビビビッと働いたのだ。
「……え? あいどる?」
彼女はきょとんとした表情で田中を見た。
ここはやはり、百聞は一見に如かず作戦! というわけで、田中はポケットからスマホを取り出し、カメラロールを開いた。
今回は、動画!
ハピ☆モスが、歌って踊るその姿を見せれば、アイドルがどんなものか一目瞭然である。
「わァーー!! 何この子たち?! 超カワイイー♡」
「うおおおッ……参謀! これは例の子たちではありませんか! 写真が、動いている?!」
二人とも田中のスマホから流れる動画を食い入るように見つめている。
ふと、田中は彼女のほうに目をやった。
ち、近い近い! 露出高めの服だから、色々とこぼれ出しそうで危ない!
それに、なんか、すごくいい匂いがする……
「ふあ……」
田中は、一瞬視界がクラッと揺れた。
これがサキュバスのテンプテーション……まさにアイドルとして打って付けの能力だ。
田中は、彼女に魅了されないように「ふんんッ!!」と気合を入れ直した。
そして、動画を一時停止。
「あっ、もっと見せてよー」
と、あざとい表情を見せてせがむ彼女を、田中はできるだけ直視しないように注意しつつ、
「どう? やってみない?」
と言うと、彼女はすぐに質問の意図を理解し、こう返してきた。
「なるほどね~。あなたたち、アイドルになりたい女の子を探してたのね。……それで? いくらもらえるの?」
しまった……。田中はまだ、魔界アイドルの“雇用条件”を何も考えていなかった。
しかし、シェーデルは間髪を入れずに答えた。
「毎月50万ギラン差し上げます。ほかにも福利厚生として、魔王城の食堂で三食無料、個室も提供します」
なんと、シェーデルはすでに条件を考えていたようだ。
それを聞いた彼女は、ニヤッと笑ってこう言った。
「ふ~ん。でもアタシ、別にお金に困ってないし~」
サキュバスという魔族は、基本的にモテる。つまり、奢ってくれる男はいくらでもいる。
田中は改めて店内を見渡してみると、近くの席に座る男性客の魔物たちが、鼻の下を伸ばして彼女に熱い視線を送っていた。
彼女は「ふふん♪」と微笑んでセクシーなポーズを取ると、それを見た男性客たちは「オオッ!」とさらに沸き立った。
その様子を見た田中は、あることに気が付き、彼女へこう打診した。
「今より確実にモテるよ」
彼女の眉が、ピクリと動いた。
「えっ、今より?」
「うん。もし君がアイドルをやったら——」
田中は、おもむろに両手を広げ、とどめの一言を放つ。
「世界中が君に……恋をする!」
その言葉を受けて彼女は、まるで雷にでも打たれたような表情を浮かべた。
よし、食いついた。田中はそう思い、畳みかける。
「ライブして、歌って、踊って、レス飛ばして……」
「うんうん! それで?!」
「全方向からチヤホヤされる。それがアイドル!」
「キャーーー!! 悪くないッ、悪くないわ!」
そのタイミングを見計らったように、シェーデルがスッと何かをテーブルに置いた。
『魔王軍アイドル契約書』
それは、先ほど言った雇用契約に関する契約書だった。シェーデルは、たった一晩の内に要件をまとめ、契約書も作っておいたらしい。
彼女はその紙にサインしながら言った。
「アタシ、ミレイナ。よろしくね♪」
こうして、何の気なしに入った飲食店で、魔王軍のアイドルグループ1人目となるメンバー、サキュバスの“ミレイナ”が加入した。
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