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第4話 アイドルとは

 田中が『魔王軍アイドル計画』を提案して、場の空気は静まり返っていた。


「あい……どる?」


 魔王は腕組みをし、難しい顔をして考えている。

 その隣では、ガイコツ魔導士が水晶玉を抱えて首を傾げている。


「参謀殿。もしや、その“あいどる”とは、魔導兵器か何かですかな?」


 田中はその質問に対し、慌てて返答した。


「いや草。兵器じゃないんだが。……まあ、ある意味、破壊力はあるか——」


 すると、ガイコツ魔導士と魔王はさらに首を傾げた。田中が中途半端な返事をしたせいで、余計に混乱させてしまったようだ。


 そこで田中は、とにかく要点だけ伝えることにした。


「まず、アイドルは魔導兵器じゃなくて……」


 それを聞いた魔導士が、なぜか落ち込んだような表情を見せたが、田中は構わず続けた。


「とにかく、金になるコンテンツです」


 すると、魔王が「ほう?」と興味深そうに身を乗り出してきた。


 田中は改めて、アイドルについての説明を行う。


「ざっくり言うと、応援される存在っす」


「……応援?」


「人は、応援したい存在を見つけると、普通に課金するので——」


 それを聞いて魔王は目を細める。


「人は……って、それはお主の世界での話だろ。ここは魔界なんだぞ?」


 しかし、田中はそれでも食い下がる。


「言うて、人も魔物もそこ同じでしょ。推しができたら、きっと——」


「笑止! 金を払ってまで誰かを応援する? そんな馬鹿げたことがあるわけなかろう」


 魔王は、乗り出していた体を引っ込め、玉座の背もたれに深く背を預けた。


 しかし、それでも田中は魔王に向かって断言する。


「で、ですが、オタクは金を使います!」


 またしても、魔王の間が静まり返った。


「その、おたく……とは何だ?」


「あー、オタクってのは、好きなモノに全振りで金を使う層のことで……」


 すると、ガイコツ魔導士がその言葉に反応を示し、田中にこう言った。


「ああ、そういう概念は魔界にもありますね。私なんかも、ほらっ、水晶玉を集めるのが趣味でして——」


 魔王は「なるほど……」と言いながら顎に手を当て、何かを真剣に考えて始めた。


 そして、目線だけ田中に送りながら、ぽつりと呟いた。


「参謀」


「はい」


 魔王は、また身を乗り出して田中に質問した。


「その、あいどる……というのは、お主の世界で国民からの支持もあるのか?」


「もちろん! 国民的アイドルって言葉もあるくらいだし、誰でもハマるコンテンツっす」


 田中は満面の笑みでそう答えた。


 その確信めいた田中の表情を見て、魔王もついに決心を固めた。


「よかろう、参謀よ。お主の計画とやらを許可する。活動費は“特別会計”として国家予算から捻出しよう」


 そして、魔王はすぐ隣にいるガイコツ魔導士を指差し、こう言った。


「では、しばらくの間、この“シェーデル”をお主の世話役に付ける。頼んだぞ、シェーデルよ」


「はっ。仰せの通りに」


 そう言ってガイコツ魔導士が壇上から下り、田中のもとに歩み寄った。


「というわけで今後、私シェーデルめが微力ながら、参謀殿の活動を支援させて頂きます」


「おお、助かる。シェーデルよろしく」


 こうして田中は、シェーデルと共に、魔王軍アイドル計画を進めていくことになった。


 二人はまず、今後の計画について打ち合わせを行うため、場所を移すことにした。


 * * *


 ——魔王城、シェーデルの部屋。


 さすがは魔導士の部屋。怪しい標本や、謎の呪物が部屋じゅうに飾られていて、壁際にある本棚にはびっしり魔導書物が並べられている。ガラス張りの棚には、大小さまざまな水晶玉が飾られていた。


 田中はその中央にあるテーブルにつき、落ち着きなく周りを見回していた。


「そんなに珍しいですかな?」


 シェーデルが飲み物をお盆に乗せて、奥の部屋からやって来た。そして、テーブルの上にそのお茶を置く。


 何だかやけに濁った色をしたお茶だが、田中はとくに気にすることもなく、ぐいっと一口飲んでみた。


「え、待って、これうま」


「魔界でよく飲まれる、デモンリーフの葉から淹れたお茶ですよ」


 そして、すぐに本題へと移る。


「さて、参謀殿。アイドルについてもう少し私に、詳しく教えて頂けますか?」


 詳しくと言われても、言葉でいくら説明したところで理解するのは難しいだろう。


 実際の写真や映像などを見せることができれば——


「ハッ!」


 田中は、ポケットに入れていたスマホの存在を思い出した。


 そう、田中のスマホにはあの“ハピ☆モス”の写真や動画が、びっしりと保存されている。


「百聞は一見に如かず、言うて」


 田中は、ポケットからスマホを取り出し、シェーデルの前でスマホのロックを、顔認証で解除して見せた。


「何ですかその薄い板は…… おおっ、光った!」


 当然シェーデルがスマホを見るのは初めてで、とてもいいリアクションを取ってくれた。田中はそれが可笑しくて何度も画面のロックと、解除をして見せた。


「やややっ、参謀殿は奇術師?! あるいはこれも魔術の類いですか??」


 おっと、遊んでるうちにバッテリーが残り79%に……田中は気を引き締めなおす。


 ひとしきりシェーデルのリアクションを楽しんだ後、カメラロールのアイコンをタップする。


「おおッ! 何ですか、これは一体何なのですか、参謀殿?!」


 田中はニヤニヤと笑いながら、まずはハピ☆モスの写真を見せてあげた。


「シェーデル、よく見とけ。これが“本物”のアイドルな」


「おおお、こ、これが……??」


 シェーデルは、興味深々な様子でスマホの画面をのぞき込んでいる。


 そして、写真をピンチアウトして顔の辺りを拡大し、田中がメンバー紹介を行っていく。


「この子がれなちゃん、天然で歌強い。で、次あかねっち——」


 途中、スッと真ん中だけ飛ばし、田中は4名の紹介を終えた。


 そして、最後にセンターを張る美少女を、丁寧に画面の枠に合わせて整える。


「で、この子がハピ☆モスのセンター、みなみちゃん!」


「おお……! 可愛い子ですねぇー」


 なんと、田中の推し“みなみちゃん”は、ガイコツ魔導士のシェーデルから見ても“可愛い”という評価を得た。


 やはり確信的だ。魔族が見ても日本のアイドルグループは可愛い。つまり逆もまた然り……ということ。


 こうして、シェーデルは“アイドルの魅力”を理解した。まだ入り口程度ではあるが。


「参謀殿。アイドルのグループとは、このように5名と決まっているのですか?」


「人数は別に固定じゃない。ソロでも少人数でも大所帯でもいける」


「なるほど、自由なのですね。……では、始めましょう。メンバー探しを!」


「おう、シェーデル! 魔王軍の最強アイドルグループを作るぞ!」


 こうして遂に、アイドルグループの結成に向けて、本格的に動き出すのだった。

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