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第14話 グループ名

 ——魔王城3階、談話室(だんわしつ)


 ついに、魔王軍アイドルグループに3名のメンバーが集まった。


 談話室の長テーブルには、ミレイナ、エイラ、イザベラの順で横一列に座っている。その後ろのテーブルには、シェーデルが一人で座っている。


「はい、それじゃ今日はみんなの“グループ名”決めたいと思いまーす」


 田中が立っている後ろの壁には、魔界の石を加工して作られた黒板が設置してある。


 そこにはスケルトンの骨の欠片(かけら)で作ったチョークで『グループ名検討会(けんとうかい)』という文字が書かれている。


 すると、ミレイナがこう言った。


「え、アタシたちが決めていいの?」


 それを受けて、田中はこう返す。


「もちろんっ! みんなで決めた名前のほうが、絶対愛着湧くしな」


 そう言って田中は、ゴブリン兵にお願いして事前に用意しておいた紙と筆を、それぞれに手渡した。


 イザベラがフリップを受け取りながら質問する。


「どんな風に考えればいいのかしら?」


 田中は少し考えてからこう返した。


「うーん……箱推(はこお)してもらえるような感じで、たとえば“魔界のみんなが好きなもの”を入れるとか?」


 それを聞いて、メンバーたちは「なるほど」といった表情で、筆を走らせ始めた。


「それじゃあ、書けた人から挙手してくださーい」


 最初に手を上げたのは、イザベラだった。さすがはスピードスターのヴァンパイアだ。


「おっ、イザベラ早っ! それじゃあ、フリップを見せて」


 イザベラは少し恥ずかしそうな顔をしながら、テーブルにトンっとフリップを立てた。そこに書かれていたのは……


『血祭り』


 田中は、呆気に取られてしまった。これは、まったく理解していないようだ。


「いやいや、怖いって! グループ名だよ? 意味わかってる?」


「え、だって魔界のみんなが好きなもの、って言うから」


 そういう意味じゃない、と田中が必死に説明するが、イザベラは「?」という表情のまま動かない。すると、今度はミレイナが元気よく挙手している。


「あっ、ミレイナも書けたの? じゃあ、見せて」


 ミレイナは、自信ありげな表情でフリップを前に向けた。


『コカトリスの煮付け』


「いやそれ、こないだ飲食店で注文してたやつー! 好きな食べ物の名前聞いてんじゃないからねっ?!」


 田中が慌てて訂正を入れるが、ミレイナはきょとんとした顔で田中を見つめている。


 これはいったん仕切り直しが必要だと判断した田中は、改めて考え方を説明する。


「みんな一回筆を置いて! グループ名っていうのは、3人がこれからアイドル活動するための名前ってことな! それを踏まえて、もう一回考えてくれ」


 すると今度は、エイラが手を上げた。


『ザ・セイレーン』


「あーー、自己主張つよすぎ! 3人で1つのグループだからね! もっとそれを意識して……」


 その横でイザベラが『吸血鬼の……』と書いてる途中で慌てて消しているのが田中の目に入ったが、見て見ぬふりをした。


 すると、その後ろで、なんとシェーデルが挙手している。


 田中がフリップを渡したのはメンバーの3人だけなのに、どうやらシェーデルは自ら持参した紙に書き、勝手に参加しようとしているようだ。


「え……シェーデルも案あるの? まあ、いいか……どうぞ」


 シェーデルは嬉しそうな顔をして、紙を前へ向けた。


『魔界♡騎士団』


 皆がそれを見て「おおっ!」と、どよめいた。


「いや、なんか普通にアリ寄りなんだが……!」


 さらに、前に座っている3人は別のところにも注目していた。


「てか、ハートマークとか使っていいの?!」


「あっ、ほんとだーずるい! ワタシもハートのやつ考えるっ」


「なるほど……やるわね、骨の人」


 田中は、ますます心配になってきたが、もう彼女らを止めることはできない。


 また一斉に挙手し、キラキラとした瞳で田中を見ているメンバーたち。その後ろでシェーデルも挙手している……


 その後も、奇抜なネーミングがつづいた。


『リバイア♡サン』

『奈落の入口』

『デーモンのしっぽ♡』

『ダークバットの素揚げ』

『魔王軍♡少女隊』

『スカーレット・ネメシス』

『冥♡府』

『深淵の底に咲く一輪の花』

『ダンジョン3』


 ……等々。


 ずらりと黒板に書き出されたグループ名候補たち。それを真剣な顔で見つめる田中とシェーデル、そしてメンバーの3人。


「うーん……どれか1つに決めるの難しいな」


 頭をひねって悩む田中。メンバーたちも同じように悩んでいる。


 すると、シェーデルが木箱を取り出し、机の上に置いた。


「そんなこともあろうかと、投票箱を用意しておきました!」


 投票用の紙も用意されている。さすがは魔王の側近シェーデル、何につけても準備がいい。


 さらに、シェーデルは投票方法についても提案する。


「気に入ったグループ名を3つ書いて入れてください。合計数の多いものに決めましょう!」


 みんなで決めるという点で、このやり方には田中も賛成だ。さっそくみんな紙と筆を手に、黒板に書かれたグループ名からお気に入りを3つ書き、その紙を投票箱に入れていった。


 開票役はシェーデル。黒板に票数を書き込むのは田中が担当する。


「では最初の一枚。デーモンのしっぽ♡、スカーレット・ネメシス、冥♡府」


 田中はそれぞれに票数を書き込んでいく。


「はい、では次。奈落の入口、魔王軍♡少女隊、ダンジョン3」


 最初のうちは票が割れ、均等に一票ずつ入っていたが、徐々に同じグループ名候補に複数の票が入り、人気の名前が一つに絞られていく。


 そして、すべての開票が終わった……


 一同、黒板に記された“投票数”に注目する。


 1位は……


 イザベラが提案した名前、


『スカーレット・ネメシス』


 に決定した!!


 皆、一斉に沸き立ち、自然と拍手していた。名前を考えたイザベラは、顔を赤らめ満足げな表情をしている。


 しかし、エイラが何か言いたそうに、もじもじと田中のほうを見ている。すぐに田中もそれに気が付いた。


「んっ、エイラどした? 別のが良かった?」


「あッ……いえ、そういうわけじゃ……」


 そのやり取りを見てシェーデルも横からこう言った。


「エイラさん、何かあればすぐ言ったほうが良いですよ。遠慮せずに仰ってください」


 すると、エイラは自分からは言い出さず、隣にいたミレイナに耳打ちをした。


 そしてミレイナが黒板に近づいて、『スカーレット・ネメシス』と書かれた文字の中央部を手でゴシゴシと消した。


「ちょっと変えてもいい?」


 そう言って骨のチョークを手に取り、別の文字に書き換えてしまった。


 ——カッ シャッ、シャッ


 チョークを置いて黒板から離れるミレイナ。


 先ほど消された中央部の文字には、代わりにあのマークが入っていた。


『スカーレット♡ネメシス』


 それを見た一同は「おおっ……」と、どよめく。


 今度は田中がチョークを手に取り、


「よし、この名前に決定だ!」


 と言いながら、スカーレット♡ネメシスの文字を大きく丸で囲んだ。


 こうして遂に、魔王軍アイドルグループの“グループ名”が決定した。


 そして、いよいよ、この名前でアイドル活動が開始される——

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