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追憶のタムナジア  作者: Aster/蝦夷菊
【2】劇場の演目記録
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献身と献心の審議2

「……まさか、こうも狡猾な魔術が結界式に構築されていただなんて。絵斗さんは大丈夫かな……私も気をつけて進まないと」


 周囲を確認しながら、私はハロルドゥーラ(旗のような形の武器、杖に近い用途のもの)の下から剣を抜き出す。空いた穴を塞ぐように液状の鉱石が流れ出て、針状に固まる。それを地面に突き刺し、私は早口で詠唱して結界を展開した。旗の布が翻り、刺さった場所から波紋を発するようにして結界のガワが見え隠れする。

 既に相手の展開した結界内での自衛の結界、魔力が滞っていて不完全ではあるが、一先ず腰を下ろす。


「連絡手段……無し。一筋縄じゃ行かないよね…………。でも、少し引っかかるのは」


 “恐怖を煽る洞窟”、しかし未だに何の幻術の化身も何も見ていないのだ。


「まさか、絵斗さんの方にヘイトが……?」


 冷たい洞窟内は、マナがビリビリと張り詰めている。魔力が上手く働かず、相手の結界に魔法魔術の対抗策も組まれているとなると、物理面でも何かしらやっていてもおかしくはない。

 ただ、そこに関してはハロルドゥーラを突き刺して分かったことがある。


 洞窟の地面やら壁やらには、その効果らしい効果は見られない。


 次いで、私は剣を振り被る。適当に空気を切るが、これにも何も示さない。とすれば、考えられうる可能性は三つ。

 一つ、魔法魔術の方面にしか対策を打っていない。つまり、相手は物理の聞かない幽霊に近しい何かと推測できる。

 二つ、物理方面の対策は相手に実体・もしくはコア等があり、それを攻撃する際にしか発動されない。

 三つ、魔法魔術への対策でなく、マナの微量な変動から私達の動向を探っている。


 三つ目が当たっているなら、相手は空間察知能力に優れている。


「魔物も寄り付かない、人だって滅多に入らない、か」


 コアがあるなら見つけたいが。



 ※ ※ ※



「っ…………んぐ……ん────っ!」


 吐き気がする。バタバタと抗うも、首元を締める手が緩むこともなく、また隙を伺えど手を刃物で地面に固定されていて動かせない。

 頭が痛い。血管が叫んでいる。


 銃はカメラは? どちらも近くにない。抵抗できる手立てを考えろ。このままでは幻術の生み出す人型に殺される。

 いや、死ぬことは考えるな。兎に角、手段を────。



『苦しかった?』


「────………………っが、ぁ?」


 手のナイフを抜かれ、突然に喉の圧迫感が消える。混乱しそうになるが、痛みに意識を引っ張られて僕は勢い良く眼前の幻を押し倒した。


『わっ、あはは!』


「君は一体────……何、な……」


 パキリ、と幻の体にヒビが入る。薄い煙のようなマナが漏れ出し、光が差して顔が見える。

 目だけが抉られ、宝石のような断面の見える────よく知っている、顔だった。


 喉が鳴り、僕は思わず後退する。近くに捨て置かれた銃とカメラを急いで取り、カメラを構え少女の幻を画面に映した。……しかし、映らない。あれは確かに幻術の見せる幻なのだ。

 少女は──いや、HISUIの幻は、僕を見て笑っている。あの日、僕が助けられず──守りきれず、消滅したあの時と同じ姿で、僕を笑っている。


「…………」


『ねぇエリオット、貴方は最高の相棒だった』


 それなのに、話す言葉の節々が彼女では無かった。


 反吐が出る程醜悪な、死人の尊厳を踏みにじる行為。幻術の詠唱者の心内が知れる。

 僕はカメラを肩に掛け、銃も懐にしまう。


 それから少女に近付き、断面の輝く目元に手を添える。ヒビが深くなり、幻は高らかに僕を笑う。笑っている。


『エリオット、エリオット。どうして私を置いてったの』


「……HISUI、貴女ともっと任務をこなしたかった。人類の命を賭け戦に出る日々も、もう少しで終わってくれるはずだったのに」


 君は死んでしまった。死んで、しまった。いや、僕が殺したのだ。

 異形に畏れをなさず、突っ込めどあのときの僕には戦えるほどの余力も能力も無かった。仕方がないと自責をやめ開き直る程馬鹿じゃないが、だからこそ未だに胸が苦しくなる。


『エリオット、どうして皆私を忘れてゆくの』


「もう良いんです。僕らはゴーストライター、貴女の代償は、貴女の意志と存在を語る遺物は──あの人が持って帰ってくれましたから」


『エリオット、どうして裏切るの』


「……戦も終わったんです。あの世界はシアさんとイオさんがそれてしまった道を戻してくださいました。無慈悲に命を奪うことも、奪われることも、……無くなりました」


 HISUIの幻は黙り込む。


『…………』


「……この世には、輪廻転生があるそうです。貴女がゴーストライターであった時代は、まだ転生の概念が確立していませんでしたし、今現在もゴーストライターには転生というものがありません。でも、今の貴女の魂は違います」


『……』


「僕がきっと、貴女が泣いている時に傘を差しに行きましょう。貴女が昔、戦が嫌と泣いていた僕に傘を貸してくれたときのように」


『………………』


 僕も口を噤む。銃を取り出し、一歩下がって幻へ銃口を向ける。








 HISUIの幻はボロボロと崩れながら、僕を見つめていた。

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