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追憶のタムナジア  作者: Aster/蝦夷菊
【2】劇場の演目記録
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献身と献心の審議3

 幻は消え、そのマナの光が線を引くように宙を舞い、僕を誘うように進んでいく。僕は足早にそれを追いかけて、辿り着いた。


 洞窟の中、開けた場所に伸びる枝葉。中心部に大木があり、その根本には大きなクリスタルがはめ込まれている。きっとこれがコアなのだろう。とすれば、実体あるなし関係なく、これを壊せば魔力妨害・そして幻術師のどちらにも有効打を叩き出せるのだ。

 僕は踵を強く地面につき、爪先のすぐ前から地を抉り突き出してきた大剣を取る。


 自身の身体の変化を感じながら、コアへ駆け寄り、大剣を振り上げ────、


「────っ、絵斗!」



 ※ ※ ※



 眼前、絵斗の肩に風穴があき、横へ伸びてきた枝葉のようなどす黒い触手に薙ぎ払われる。彼は硬い岩肌の壁に衝突し、ゴウと鈍い音を立てて煙に巻かれた。

 私はすぐに旗と剣とを握り締め、崖を飛んでコアのある大木の下へ降りる。


「絵斗さん────!」


 旗を投げ、絵斗がいるであろう場所に突き刺さったのを確認してから剣を構えた。


「……姉さん、力をかして──今度こそ、仲間を失いたくないのっ!」


 軽いその剣先を横へ払い、走り出す。



 崖上から観察していて気付いたのは、結界を張り、幻術を扱った人物が同一人物であり、今目の前にいる大木の異形そのものであることだ。

 人骨の欠片が触手の合間に見え、異質極まりないその要望と変わりように絶句する。といっても、私達は元の顔も何も知らないのだけど。


「目には目を、歯には歯を────なら、骨には骨を。ですかね?」


 金属音と共に、銃弾が私の横を通り触手を分断する。

 振り返れば、絵斗が銃を大木へ向けていた。片目を瞑り痛みに表情を歪めてはいるものの、彼は立ち上がり私を見つめてまた発砲を繰り返す。


 触手が形成され、次いで集まり束になると、それは絵斗と私それぞれに向かってきた。私は剣で軽く左腕の皮膚を裂き、すぐに剣を絵斗に向かう触手へ投げる。

 傷口から咲く花が伸び、触手を絡めとる。そして力のまま花の蔓が触手を捻り切り、すぐに皮膚の中へ戻った。その直後皮膚が繋がり、何も無かったかのように元通りになる。


「絵斗さん、花葬を使います! 援護を!」


「──了解しました!」


 私は瞑目し、自らの骨と血の全てを自覚して意識しながら魔力を込める。

 絵斗から投げ返された剣の柄を花がつかみ、そのままそれを握った。目を開けど視界は鮮血に塗れ、花にうもれてゆくばかりであった。



 ※ ※ ※



 花葬を使用したカルミアさんは、先程までとは段違いの──ハーヴェさんに近い速度で走り出し、迫りくる触手を切り伏せながらコアに近付いていく。といっても、この状態は長期維持できるものではない。時間制限がある。

 僕に出来ることは、彼女が間違って僕を斬りつけないよう、支援するだけだ。それは、代筆者の中でも彼女の居る隊でもある同じ認識。


 銃を構えようとして、手が震える。肩の爛れ気味悪い姿になったそれが視界に入る。


「……渚君にまた怒られてしまいます。早く終わらせなくてはいけませんね」


 カルミアさんの死角から来る触手を銃で撃ち、こちらに来るものは銃を手早く変形させて刃を滑り込ませる。

 先程の衝撃で眼鏡が割れてしまい、少し見にくいけれど、まだ戦える。


 と思ったが、視界端から来ていた細い触手に遅れて気付く。が、すぐに足を捻って身体を反り、“アドリブ”で変化し篭手で叩き切る。

 そのまま回り、引こうとする触手を持って投げる。その尖先が他の触手に刺さったのを見て指を鳴らすと、触手らは爆発した。頭飾りの花を少し整えながら立ち、篭手を撫ぜて元の僕に戻る。



 カルミアさんはというと、コアまであと十歩のところまで到達していた。

 花にまみれながらも、剣を素早く、無駄なく動かして触手を捌く。それでも触手に少しの隙を突かれ、傷が出来、そこからまた吹き出すように花が咲いていく。花から伸びた蔓が彼女の手首足首──あらゆる関節の部分を掴み、絡め、人形のように動かす。


 端から見ればこの惨状が自分の意志による行動であるとは見えないだろう。


 しかし、血肉に花弁の混じった塊になることだけは周囲が阻止しなければならない。その点で言えば、この能力を使わざるを得ない状況になったとき、前提で必須になるのは仲間が居ることなのだ。


「…………」


 頭がグラリと揺れる。瞬間、膝をつく。

 僕の方も、急がなくては彼女を一人にしてしまう。そうすれば、


「そんなこと、考えてる暇すらありませ──」


 発砲。

 手が痺れる。カメラに手を伸ばしかけて、────僕ははっとした。


「…………そうか」


 何も、破壊すればだなんていうのは先入観からくるものだ。僕の能力を忘れてしまっていては、戦うも何も意味が無いじゃないか。

 カメラを持ち、銃を代わりに閉まって駆け出す。気配を察知したカルミアさんがこちらを向く。


 狂戦士、どこかでは彼女にそんな異名がついていたらしいが。

 ふと思い出すが、それは関係の無いことだ。


「カルミアさん、後退して下さい!」


「────」


 カメラはそのままに変化し、調香師である青年の姿へ変わる。すぐに小瓶を開け、カルミアさんの近くへ中の香りを撒いた。

 匂いを嗅いで、能力の使用を中断したカルミアさんの体を思い切り押す。


「──っ!」


「────“遡れ、時の針を逆さに回せ”!」


 構えたカメラにはコアとその周りしか映らなかったが、これで良い。成功はする筈だ。その確信はある。




 ※ ※ ※



 シャッターをきり、小さな光がぼやけさせて。

 気付けば大木もコアも無く、萎れた触手に腹を貫かれている絵斗の奥には、大木の元であろう老人が座り込んでこちらを見つめていた。


「…………絵斗さん」


「僕がやりますよ。……カルミアさんは、傷を治していて下さい」


 言われ、その声音の強張っているのを感じ取って、私は静かに下がる。そして花の花弁を撫ぜ、皮膚に戻っていくのを確認してから彼の近くへ寄る。

 一緒に老人の近くへ歩み寄り、私はわなわなと恐怖心と憤りに震える老人を睨みつけた。


「────」


 老人の頭へ向け、絵斗は銃口を向ける。










 ※ ※ ※



 乾いたあの音が鼓膜にこびりつく。

 結局、僕には撃てなかった。カルミアさんが銃を持つ僕の手に手を重ね、指を外して引き金を引いた。


 帰ってくると、ライツェアさんは目の前でちょこんと座り咳き込んでいたようだが、すぐに立ち上がって空間を出ていった。


 代償変換が出来ないことを知っているのかいないのか分からないが、確実に僕達は代償を失っていない事を確認できた。

 だからこそ、彼が何も言わないことに僕らは少し気味悪さを覚えたが……イオさんが言うには、僕らの事を僕ら以上に良く知っているらしい。




 ※ ※ ※

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