献身と献心の審議1
コンコン、と微かなノックの音が鼓膜を掠める。僕は振り返って、扉を開き────その先で、片腕の肘を掌で覆いながら微笑を浮かべていたカルミアさんを見た。
僕が扉を開き、彼女に目線を送っていることに気が付くと、カルミアさんはおもむろに顔を上げる。
「…………カルミアさん。どう、したんでしょうか」
口を開こうとして、何か納得したように視線を漂わす。カルミアさんは一言も発さずに僕に背を向け、ついてこいと言わんばかりに手招きしながら歩いていった。
彼女の背を見ながら続き、廊下を抜ける。どこへ向かっているのかは、何となく分かった。だから、
「あの、カルミアさん」
「…………はい」
「気付いているんですね?」
聞くと、カルミアさんは振り返る。こちらを見る双眸がそのまま横に逸れて、伏せられ、そしてまた前に向く。僕が手を伸ばせど、彼女は星書庫の扉を開けて足早に中へ消えた。
少しの間に手を入れ、扉を押しながら僕も中へ入る。
いつもの書庫に、居るはずのスピカさんの姿は無いが────代わりに、ライツェアが後ろ手に手を絡めて立っていた。
カルミアさんは僕の方を見て、苦笑する。
その表情から曖昧な答えを貰っては霞み、僕は一歩二歩とおもむろに歩み寄る。やがて彼女の隣に立つと、ライツェアさんが星扉の連なる空間へと入っていく。
「行く前に、一つ確認したい事がありまして」
「はい」
「────私は、考えた事がありませんでした。ただひたすらに、超人的な力とその存在の透明さに羨望を抱いているだけで」
「それは、僕達への……?」
「そうです。私は何も知りませんでした。代筆者の負ってきた物を。背負う物が、眼前に広がった怨嗟が、あそこまで酷いものだなんて」
前を向いたまま、彼女は真剣な面持ちで静かに言葉を吐く。
「でも、私は見ることができました。皆さんの熱い意志と、力の本質に込められた美しさを。……だからこそ」
自身の目を、身体を覆う花に手を添える。
「──私は、あの人の願っている事を、献身的な行動を……止めたいんです。勝手な事だと怒られるのは、良く分かっていますが…………ライツェアさんはずっと、自分の事を道具か何かだと勘違いしていらっしゃる。そんな気が……するんです」
「…………」
「絵斗さんは、ライツェアさんのしようとしていること、私よりも良く理解していると思います」
胸元に手を降ろし、騎士の敬礼をする。彼女は硬い意志を瞳に宿し、僕を真っ直ぐに見つめた。
「代償は、無くなれば自分の背負ってきたものの証明が出来ない。私はそれを断固として失いたくありません」
「……僕も、同じ気持ちですよ」
僕は笑いかけ、敬礼を返した。それから帽子を取り、胸元に置いて深く礼をする。
両者とも得物を握る。
「行きましょうか」
内容の提示をしておく。
代償変換を目的とするライツェアさんの行動を止めることが僕達のやる事。しかし、物理的にでも提案された物事を実行しないでも無く、代償変換のみを拒絶する方向でいく。
その為には、僕の力で一部の効果と能力を弾く膜を貼らなければならない。
カメラのコンセントを伸ばし、その先を自身の手首に刺す。血は垂れないが、痛みだけがあるのがこの力の欠点だ。
魔力を流せば、コンセントに文様が浮かび上がり、僕達二人にその光が纏わり付く。
「干渉を拒絶する結界です。範囲はとても小さいですが、その分耐久性に優れています。この場合、僕達それぞれの代償である場所に張られました」
「流石せんぱ──いやいや……、絵斗さんです。私にはできない事ですよ」
「僕達はお互いに、“献身的”という似通っている部分がありますから。今から同じように献身的な方の元に行くのです、レベルは段違いですが……まぁ、収集はつきますし。それに、戦うことに関しましては、僕では皆さんに追いつけませんよ」
「あはは……」
言いつつ、ライツェアさんを追いかけるべく歩き始める。
「そういえば、彼は僕達に何をして欲しいんでしょうか?」
「────たしか、恐怖心を煽る不可思議な洞窟の調査、みたいな感じでした」
「……恐怖心を煽る洞窟? 幽霊か何かいると考えるのが妥当でしょうけど……」
「加えて、その霊的現象を引き起こす犯人の討伐。幽霊と言えど、どちらかといえば物理的な戦闘をする私達に任せたのであれば──コアか依代か、何かはありますよね」
カルミアさんは星扉を開き、こちらに手招きするライツェアさんの横を通って枯花之道を進んで行く。
僕もそれに続き、頼まれた事を解消しに世界へと踏み出した。
※ ※ ※ ※ ※
指揮者 カルミア・アインエッシェルング
能力︰花葬
→血骨を操り思うように自らを動かす
代償︰出血=花 先天性パラサイツの呪い
Code︰f6ad48 柑子色
人称︰私 君
武器︰ハロルドゥーラ
継承︰骨




