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追憶のタムナジア  作者: Aster/蝦夷菊
【2】劇場の演目記録
19/38

演目︰きっと私は貴方を手放し難くなる

「────ゲホッ、カハ──ッ」


 ヒューッ、と喉を鳴らし、過呼吸になりながら肺からでも喉からでも無い、血液を口から垂れ流す。胸元を強く抑える。目を瞑る。

 いつまで経っても、この感覚には慣れそうになかった。


 わたしはぼんやりとした赤色の水道を見ながら、血の味がする口の中をすすいで、タオルで拭う。ふらつく足取りで壁にもたれかかり、目を細めて息を吐く。


「……蓬、大丈夫?」


「………………ぁ、ロゼ。大丈夫です、今おさまりました」


「無理しないでね。お紅茶淹れといたけど飲む?」


「是非」


 わたしはゆっくりと立ち上がって部屋を離れる。水回りの部屋もきちんと用意されている館に感謝しながら、わたしは椅子に腰掛けて紅茶を貰う。

 一口啜り、そのほどよい暖かさと甘さに安堵した。


「今日はお試しで、ライツェアさんが見つけた穢の所に一緒に行くんでしょ?」


 頷く。

 ロゼは心配そうにこちらを見ながら「うーん」と唸り、紅茶を飲む。


「気を付けてね」


「分かってますとも。油断はしませんし、どちらへの警戒も怠らないつもりです」


 ※ ※ ※ ※ ※


 星書庫の扉をノックして、返答を待つ。スピカからの声が聞こえてから、わたしは扉を開けて中に入った。


「それじゃあ早速、取り掛かろうかしら。準備は大丈夫?」


 スピカが赤黒い瞳を細め、わたし達を見る。一足先に来ていたライツェアの横まで歩き、二人で彼女の問いかけに顎を引いた。スピカは蝶の形をした鍵を取り出し、わたしに持たせる。


 星扉はそれぞれに鍵があり、どれも蝶の形をしている。違いは蝶の羽にある模様や色で、この鍵の蝶は一見シンプルなものだ。

 たくさんの扉から鍵の合うものを見つけるのは難しく、迷うことも少なくない。わたし自身、スピカのように扉と世界の位置を正確に把握できていないので、普通なら彼女に案内を頼むべきなのだ。

 しかし幸運なことに、この鍵の蝶はその案内役をしてくれる。鍵番である霜光の力を借りて作り直したという、特殊なものらしい。


 蝶は鍵から離れ、羽ばたきながら星扉の並ぶ空間へと向かう。それを追って、わたし達も歩き始めた。




「……それで、ライツェアさん」


「なんです?」


「どうやって穢を発見したんですか。君は確か、庭を含む館内から外、そして水鏡面之世界には出入りを禁止されていたと思うんですが」


 ライツェアは少し考えるような仕草をして、再度わたしの瞳を覗き込む。


「────(わたくし)は、(わたくし)達のことだけでなく、全ての過去・現状、そしてこれから起こるかもしれない少し先が分かりますからね。ただ」


「ただ?」


 わたしの繰り返した言葉に、ライツェアは嬉しそうに「ふふ」と微笑んだ。よく分からず、わたしは蝶の翻している羽を観察しながら真っ白な廊下を歩く。


「今回の穢は、貴方の代償の変換において有効打になると思いましてね」


「……どういう」


「疑問に思いませんでしたか? 小枝想華の勇気が奮い起こされたこと、シア・ホムンクルスが貴方達に向ける姿勢が少し丸くなり嘘を許容していることに」


 心当たりはある。というより、知らないといえばそれこそ嘘になるものだ。


「さて。恒例の内容提示です」


 ライツェアは振り返り、暗いその双眸をわたしへ向ける。それが何を見ているのか、分かるはずなのに曖昧で、それも視線の感覚がおかしい。暖かに包んでくれるようなそれが、わたしの何かを揺らしている。


 指を立て、ライツェアは一瞬空気を揺るがした。その瞬間、廊下が暗くなり、ライツェアの姿が化物に似たものになる。


「雁鳴蓬さん、貴方へ送るチャンスは、貴方に刻み込まれた力の根源、獣の悪意からくる後遺症をなくすことを目的とします。そして、内容はごくごくシンプル。いつも通り、穢をその力で浄化してあげてください」


「…………」


「ただし、(わたくし)は手伝いません。場所を教えて、あとは手出ししませんよ? スピカからもしつこいくらいに言われましたしね。それと、穢とは意思疎通がはかれますので、十分にお話すると良いでしょう」


 ライツェアは蝶が止まった星扉の前で、わたしが鍵を開けるまで、ずっと表情の機微を見つめていた。


 ※ ※ ※ ※ ※


守護者 雁鳴蓬

能力︰慈悲の葉

→穢の浄化、その他呪術等の効果解除

代償︰定期的な発作

Code.︰616B07 蓬色

人称︰わたし 君

武器︰忠実な大鎌 “Loyal Falce”

継承︰心臓

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