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追憶のタムナジア  作者: Aster/蝦夷菊
【2】劇場の演目記録
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枯れゆく枝葉3

 時が止まる。万物が動きの一切をやめる。

 しかし驚いたのは、眼前のそこまで怪物が爪を伸ばしていたことだ。もう少し迷っていたなら、間違いなく首が落ちている。

 私は深く息を吸って──────吐いて、ハルピュイアの身体の真ん中を沿うようにして刀身を向けた。力は入れない。できる限り、流れに沿った力で切る。


 シアさんみたいに落ち着いて。

 イオさんみたいに容赦無く。

 蓬さんみたいによく見て。

 ハーヴェさんみたいに素早く。

 絵斗さんみたいに無駄無く。

 カルミアさんみたいに格好良く。


「支給人の小枝想華、参る──ッ!」


 久しぶりに握った刀身の輝きは、吸い込まれるようにして怪物の命を切り落とした。


 ※ ※ ※ ※ ※




「終わった……の?」


 私は振り返る。セイカは、緊張で荒くなる息を抑えようとしながら、私に抱きついた。その衝撃で後ろに倒れ込み、頭がチカチカとして火花を幻視する。


「良かった。本当にありがとう、想華」


「……こちらこそ。会えた事が、守れたことが、こうして顔を良く見れたことが、何よりの報酬です」



 折れた腕が猛烈に痛い。泣き出したい。でもそれは、セイカに見せたい私では無い。少しは成長したんだと、いるかもしれないコノハに見せてやりたい。

 私は微笑を浮かべて、微睡む意識に身を委ねて瞼を閉じた。









 ※ ※ ※ ※ ※


「────想華!」


「うわっ、と……びっくりした。どうしたんです、清華(せいか)?」


「腕治ったって聞いたから、飛んで来たんだよ」


 話をしっかり覚えていた清華が、スピカを呼んで館に運んでくれたらしい。私はシアさんと蓬さんの手当で無事にすぐ回復し、足に損傷が見られないことからも称賛された。ゴーストライターの中で唯一、戦意も無いビビリな子だったのもあって、冗談だろうが本人か疑われもした。

 気になったのはやっぱりライツェアだったが、あの人は拍手しながら「お見事」と言ったきりいつもどおりに部屋で過ごしている。

 ……聞こうとしても扉が閉まっていた。


「ライツェアさん、不思議な人だね」


 清華は特段怖がったりせず、私の話を聞いても印象が変わるわけではない。


「全くですよ。…………そうだ、これからどうしましょう? “奇々怪々の世”に居る異形は、ハルピュイア以外にも山程居るのでしょう? 戻ったりするのですか」


「うん。アタシは戻ろうと思ってるよ。────そこで一つ提案なんだけど」


「はい」


 小首を傾げる私に清華がニヤリと笑い、手を差し伸べてくる。

 その動作に、何を表すのか勘付いて、私の耳は熱くなった。それは、怒りでは絶対にない。心からの喜びが、昂ぶった感情が、私の身体を震わせる。私は目を見開き、コノハとよく似た笑い方をして、うなずきかけてきた。


「──アタシと一緒に、異形調査をして欲しいんだ」


 期待した通りの言葉が、一言一句違わず清華の口から出たのに内心ガッツポーズをして、私は顎を引く。そして、手を力強く握った。清華も、嬉しそうに握り返してくる。


「もちろん。私で良ければ」


「それじゃ早速明日、学校に来てもらわないとね。ただ問題なのは……」


「──虹の世は二重構造になっている所だから、一般人はスピリチュアルなそれらを架空上のものと認識している。だったかしら」


 踵を返せば、スピカがこちらを見つめている。清華は二重構造、と彼女の言葉を繰り返した。


「世界の一つ一つを宇宙にある星と考えるの。星は球体よね。その殻をさっき貴方達の居た異形のいる場所、核を学校や居住区等がある場所として……そうね、星じゃ難しいかしら?」


「なんとなくだけど、想像はついたよ。ありがとう、スピカさん」


「どういたしまして」


 スピカはクルリと椅子を回し、立ち上がって星書庫の出入り口の扉へ手を掛けた。こちらを見て、微笑む。赤黒い瞳は私達を映しているのかいないのか、それ以前に彼女の心情の現れが全く掴めない。そのことに少しの不安と呆れを感じながら、私は彼女を見つめ返している。


「虹の世の管理は暫く任せたわ。鍵は机に置いておいたから、好きに使ってちょうだいな」


 パタリと扉が締められ、私達は顔を見合わせた。


「よーし、それじゃあ早速行こうか、想華! 異形もスピリチュアルも無い空間への生き方は考えたから、あとは実際に試すだけだよ────!」









「『小枝想華』は、代償を変換した。それは、(わたくし)達代筆者においてとても大きな進歩となるでしょうね。そのところ、どう思います?」


 星書庫の影で様子を見ていたライツェアは、隣で本を片手に自身を見ている少女──シアへ問う。シアは少し同様や驚きを表に出しながらも、ひと呼吸おいてから横目でライツェアの暗い双眸をのぞき込んだ。


「代償の変換……それによる彼女への悪影響は」


「無い、とは言い切れませんよ。ただ、確実に彼女は成長した。あの真剣で深い感情を宿した顔を見たでしょう? 文字通り、壁を乗り越えたんですよ」


「…………」


 シアは姿勢良く立ったまま、本を勢いをつけて閉じる。


「………………僕は」


「身体的なものか、はたまた精神的なものかは貴方の行動次第でしょうね。ただ言えるのは、確実に何かを得られるということです」



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