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第7話 最初の歌

第七話 最初の歌


『また会おうね』


その文字を。


イナンナはじっと見つめていた。


古い写真。


色褪せたアルバム。


そこには。


幼いルナと。


幼いイナンナが写っている。


二人とも笑っていた。


今では想像できないくらい。


無邪気に。


翌朝。


僕が起きると。


イナンナはまだアルバムを見ていた。


「お前」


思わず呟く。


「寝たのか?」


イナンナは少しだけ目を逸らした。


分かりやすい。


寝てない。


ノートを差し出してくる。


『ルナお姉ちゃん』


それだけ。


「会いたいのか?」


少し考える。


そして頷いた。


『でも』


『怖い』


正直だった。


僕は少し笑う。


「お互い様だな」


イナンナが首を傾げる。


「ルナも怖がってた」


『?』


「お前に会うの」


イナンナは驚いた顔をした。


多分。


信じられなかったのだろう。


天城ルナが。


自分を怖がるなんて。


その日の午後。


新しい課題動画の撮影が始まった。


テーマ。


『あなたを表現してください』


アイドルゲーム運営からの指示だった。


相変わらず雑だ。


「で」


僕は聞く。


「お前を表現するとしたら何だ」


イナンナは考える。


一分。


二分。


三分。


長い。


そして。


ノートを書く。


『わからない』


知ってた。


「自分のことだろ」


『わからない』


「終わってるな」


『ごめん』


「謝るな」


僕は頭を抱えた。


イナンナには夢がない。


目標もない。


なりたい自分もない。


だから。


自分を表現できない。


その時だった。


遠くから音楽が聞こえてくる。


路上ライブ。


高校生くらいのバンドだった。


ギター。


ベース。


ドラム。


そして歌。


イナンナが立ち止まる。


じっと見ている。


動かない。


「どうした」


イナンナは答えない。


ただ。


歌手の口元を見ていた。


ずっと。


歌声じゃない。


口元。


表情。


呼吸。


全部。


そして。


歌が終わる。


拍手。


歓声。


笑顔。


その光景を見て。


イナンナはノートを書く。


『すごい』


「そうだな」


『どうして』


「ん?」


『みんな笑ってる』


僕は少し考える。


そして答える。


「歌が届いたからじゃないか」


イナンナは黙る。


何か考えている。


そして。


突然。


僕の服を引っ張った。


「何だ」


ノート。


そこには。


『私もやってみたい』


と書かれていた。


僕は固まる。


「歌?」


頷く。


「無理だろ」


即答だった。


イナンナは少しだけ落ち込む。


だが。


僕は続けた。


「でも」


イナンナが顔を上げる。


「お前のやり方ならできるかもな」


『?』


僕は昨日のことを思い出す。


初めて会った日。


あの手話。


あの動き。


言葉。


感情。


全部。


「歌えなくても」


「伝える方法はある」


イナンナは黙る。


そして。


ゆっくりと。


手を動かした。


手話だった。


意味は分からない。


でも。


なぜだろう。


少しだけ綺麗だと思った。


その夜。


僕達は初めて。


音楽に合わせて手話をする練習を始めた。


何度も失敗した。


何度も止まった。


でも。


イナンナは笑っていた。


楽しかったのだろう。


初めて。


アイドルらしい顔をしていた。


そして。


数日後。


投稿された新しい動画。


タイトル。


『声のない歌』


その動画が。


アイドルゲームの流れを。


大きく変えることになる。

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