第22話:車椅子(特注)で寝ぼけてデコピンしたら、聖剣が塵になりました
3日後、帝都コロシアム。
観客席は、超満員の熱気に包まれていた。
「おい、本当にやるのかよ? 『一撃必殺の勇者ルカ』と、聖国の『光の勇者ソフィア』の決闘なんて!」
「でもルカ様って、今は力を使い果たして寝たきりなんだろ? 聖国の勇者、いくらなんでも横暴すぎないか?」
そんなブーイング混じりのざわめきの中、対戦相手のソフィアが、黄金に輝く聖剣を掲げて颯爽と入場してきた。大歓声に応え、実力者の余裕たっぷりに不敵な笑みを浮かべている。
そして――反対側の入場門から、僕の入場だ。
ゴロゴロゴロ……。
「ルカ様、段差がございますから、頭が揺れないようお気をつけくださいね」
「ルカ殿、ブランケットがずれている。私が直そう」
第一皇女エレノア様と、元聖騎士団長セリアが、神界の最高級素材で作られた特注の車椅子を恭しく押して入場してきた。
肝心の僕はというと、シルクのパジャマにナイトキャップ姿。特注のネックピローに首を固定され、完全にスースーと寝息を立てていた。
(ふわぁ……。客席うるさいなぁ。昨夜、元最高神(幼女メイド)に夜中まで部屋の模様替えさせちゃったから、普通に眠いんだよね……。このまま決闘終わるまで寝てよっと)
もちろん、起きてはいるが「深い眠り(寝たきり)」の演技中だ。
「な、なによその格好は! 決闘の場にパジャマに車椅子で来るなんて、私を、聖国を愚弄する気ですか!?」
対面したソフィアが、怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。
エレノア様が冷徹な目でソフィアを見下ろす。
「愚弄? とんでもない。ルカ様は今、お体の機能が停止されているのです。この場に赴いて差し上げただけでも、国家の恩赦に値すると思いなさい、小娘」
「ふん、どこまで行っても見苦しい詐欺師ね! いいわ、その車椅子ごと、私の聖剣で叩き伏せて、その化けの皮を剥ぎ取ってあげる!」
審判の合図と共に、ソフィアが大地を蹴った。
「光翼・神速斬!!」
聖国の国宝たる聖剣が、まばゆい光の軌跡を描き、僕の車椅子へと一直線に迫る。結界のデバフなど関係ない、彼女自身の本物の実力。凡百の戦士なら、光を見た瞬間に首が飛んでいるだろう。
(うーん、なんか外が急に眩しくなったな……。眩しいの嫌いなんだよね。……そうだ、部屋のカーテン閉めなきゃ……。あれ、カーテンどこだっけ?)
僕は寝ぼけたフリを完璧に維持したまま、ブランケットから右手をそっと這い出させた。
そして、目の前を飛んでいる五月蝿い「光(聖剣)」に向けて、無意識に指を弾くジェスチャーをした。
そう、ただの、寝ぼけた「デコピン」である。
パキィィィィン!!!!
「え――?」
ソフィアの時間が、一瞬止まった。
彼女の持つ、絶対に折れないはずの、神の加護を受けた聖国の国宝『聖剣ルミナス』。
それが、僕の指先がかすった瞬間、まるで安物のガラス細工のように、パウダー状の綺麗な光の塵へと粉砕されたのだ。
「あ、れ……私の、聖剣……?」
それだけではない。
デコピンによって生じた、目に見えない「超・高密度空気弾」の風圧が、ソフィアの正面から直撃した。
――ドッゴォォォォォォォンッ!!!!!
爆音と共に、ソフィアの着ていた白銀の高級鎧が、風圧だけでバラバラに弾け飛ぶ。
彼女の身体は、コロシアムの頑丈な石壁を3枚ぶち抜き、そのまま反対側の観客席の壁に、人間型の綺麗な穴を開けてズボッと埋まった。
「……………………は?」
静まり返る、数万人のコロシアム。
ソフィアの後ろに控えていた聖国のエリート騎士たちは、腰を抜かしてその場にへたり込み、ガタガタと顎を鳴らしていた。
「す、スースー……むにゃむにゃ……カーテン、閉まった……?」
僕は車椅子の上で、だらしなく首を横に傾け、完璧に「今のはただの寝返り(デコピン)です」というポーズのまま、再び静かに寝息を立て始めた。
「ル、ルカ様ーーーーーーっっっ!!!」
エレノア様が、狂喜乱舞しながら僕の車椅子に抱きついてきた。
「素晴らしいですわ! 動けない身体でありながら、迫り来る聖剣の邪悪な光(※聖なる光です)を察知し、眠りながらにして指先一つで国宝を粉砕するなんて! まさに天衣無縫、神の領域の防衛本能ですわ!」
「ルカ殿……! 眠っていても、その強さは健在か……っ。我らは、どれだけこの方に守られれば気が済むのだ……っ!」
セリアが床に膝をつき、感動のあまりボロポロと涙を流す。
観客席からも、一瞬の静寂の後、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
「見たかよ今の一撃!?」「車椅子から動いてねえぞ!」「寝てただろ今!!」「やっぱりルカ様は世界最強の英雄だーーーっ!!!」
(よしよしよし!!! 完璧! これで『寝ててもデコピンで聖剣を粉砕するが、やっぱり一歩も動けないポンコツ』という、第2防衛ラインのさらなる補強が完了したぞ!)
壁に埋まったまま「私の……私のプライドがぁ……」と白目を剥いて泣いているソフィアを他所に、僕は大義名分付きの高級車椅子に揺られながら、意気揚々と僕の楽園(寝室)へと帰還するのだった。
(第23話へ続く)




