ひと時の夢
めっちゃ遅れましたすみません!!!!!!
静かだった。
上下の間隔もない場所で、自分事のような、そうでないようなものを見ている。
これはきっと夢だ。だが、目が覚めるその時までそうであると気づくことはない。
ただ一人で魔窟の最奥まで潜る。そこにはきっと世界を知るための何かがあると信じて。
でももし、そんなものが存在しなかったとしたら?
初めから無いものを追いかけていたとしたら?
そして、本来人がたどり着ける領域でない「そこ」にたどり着けてしまった天才がいたら?
真実を知ったとき。どう思うのだろうか。
納得か、失望か、それとも安堵か
世界を証明した天才であったとしても、それは変わらない真実だった。
あ~あ、夢なんて、追いかけている間が華だったのに
不思議な夢を見ていた。魔獣との戦いを制した俺は、そこで力尽き、意識を失っていたらしい。
ダンジョンという特殊な環境で意識を失ったからか?
それとも、死を賭けた激戦を制したからか?
ただ一つ覚えているのは。
「もう一度、夢を見たかった。」
ぼんやりとした頭が覚醒する。
幸い、倒れている間に魔物に襲われることはなかったようだ。
どれだけ意識を失っていたのか?周囲を見渡すと、まだそこに魔獣の死骸が転がっている。
ただ一つ違うのは。
――「ナニカ」がダリアのことを見つめていた。
間違いない。未発見領域で唯一遭遇したあの魔物だ。
「ねえ、ダリア。君に夢はあるかい?」
体が動かない。その圧倒的な存在感と、話しかけてきた衝撃。
そして、
一歩でも下手に動けば死ぬ。
そういう直感が、対話に応じる以外の選択肢を選ばせなかった。
「そう、夢さ。人生をかけて追及し、命に代えてでもその手に欲しいと感じる強い欲求。」
「極限の魔窟に挑み、仲間の命と天秤にかけ、そのうえで己の限界を何度も飛び越える。」
「そうして不可能を可能にした上で、手に入れてしまえば途端に価値を失ってしまう。」
「そういうものは、君にあるかい?」
・・・・・・何を言っているのかさっぱり理解できない。
唐突なうえに、話の容量が見えてこない。
人生をかけて追及する癖に、手に入れたら価値がなくなる?
言っていることが矛盾している。
だが、そうか。手に入れたくても手に入らず、手に入れてしまえばさらに上を目指したくなる。
そういうものだったら一つだけ心当たりがある。
もう、諦めてしまっていたもの、あまりにも遠すぎて、見るのをやめてしまったもの。
「俺は、――最高の冒険者になってみたかった。」
最高とはつまり、上限に終わりがないということだ。どこまで上り詰めても、なお上に登らんとする。
初めの目標を達成しても、永遠に追い続けなくてはならない夢だ。
「でも、それが一体なんだっていうんだ?」
「ふふ、聞いてみただけさ。再び戻ってきた君は一体どういう人間なんだろうかって興味がわいたのさ」
ダリアは反応できない。困惑しているのもそうだが、自分が本当にやりたかったこと。なんて、久しく考えていなかったからだ。
「さて、冒険者ダリアよ。今君には選択肢がある。」
「今、町では冒険者ダリアが重度マター汚染にさらされた可能性が高いって情報が出回ってる。」
「まあ、膨れ上がった憶測にすぎないんだが、偶然にも状況を的中させている。」
「このまま町に戻って、魔物として駆除されるか、人の営みを捨て、世捨て人として生き続けるか。」
――予想はしていた状況だった。このまま何事もなく町に戻れるわけがないとは考えていた。
でも、それをいざ知らされると心臓が締め付けられるようだった。
そもそもなんでこいつが外のことを知っているのかはわからない。
だが、真実であると思わせるだけの重みがあった。
「どっちにしても、もうまともな生活は遅れそうにないな・・・」
「ふふ、そうでもないさ。もう一つ選択肢をあげよう」
「ナニカ」はにやりと笑ったような気がする。
「それは、もう一度夢を追いかける決意をすることだ。」
「楽しかっただろうさ、次の世代の若者を育てるのは。」
「でもね、さっきの戦いで君は知ってしまった。思い出してしまったというべきかもしれないね」
「真に命を懸けて、限界を超えるしかないその瞬間の熱を」
「そして、死地を乗り越えるその快感を」
「まあ、もう答えは決まっているんだけどね。そして断言しよう。君は必ず。三度僕に逢うよ」
ダリアが反応する前に勝手に話が進んでいく。
何も呑み込めていないが、「ナニカ」の中で答えが出たらしい。
「さあ、待っているよ。顔と声は何とかしてあげよう。」
「君の征く道行に、多くの試練と夢のあらんことを」
目の前が強烈に輝く。目を開けていられなくなる。
まるで重さを持っているように、光の奔流がダリアを包み込む。
そして気が付くと、
――小鬼の住処の入り口に立っていた。




