少しだけ現実を知る少年
「あー、質問を返すようで悪いんだが、君はどうしてここに?見たところ一人のようだが」
「草むしりにきたんだよ。俺、こう見えても冒険者なんだぜ!」
少年は少しだけ胸を張って答える。おそらくG級のみならいだろう、森へ入って指定の植物をとってくる。というのは一見簡単そうに見えるため、何も知らないみならい冒険者は真っ先に受けたがる。
実際には季節や生育場所、保存の方法など必要とされる知識が多岐にわたる上、専門的な物も多い。
それを知らず、草をむしってくるだけと考えて痛い目をみるのは初心者あるあるだった。
簡単に今までの1週間分の稼ぎが手に入ると揚々と受注すれば、実際に待っているのは違約金というわけだ。
「そうか、ちなみに何て名前の植物の採取を頼まれたんだ?」
「レコンってやつだ。そこら辺にたくさん生えてるって話だから楽勝だろ?もしかしておっちゃんも同じか?」
ダリアのほぼ予想のとおりだったらしい。レコンは確かに森の中なら比較的どこでも見かけるが、実際に薬効があるのはその中でも特に育った一部だけ、そのうえ冷凍魔法などで処理をしないと、採取しても薬効は長続きしない。
「レコンは確かによく見かけるが、おそらくただ採取して持って行くだけでは依頼は達成扱いにならないぞ。薬効を維持させたまま持って帰るには冷凍魔法か、冷凍の魔道具が必要なんだ」
「ど、どういうことだよ?そんな話初めて聞いたぞ!」
ダリアは改めて説明をする、薬草採取の難しさと、違約金狙いでわざとそういう依頼を出す悪質な依頼主についてもついでに話をしてやった。
「違約金って、どうすんだよ。俺、そんなの払えないぞ!それにそんな大事なことを黙っていやがって、ダマしやがったんだな!」
「まあ、これも勉強だ。次はちゃんとギルドの研修を受けてから依頼を受けるんだな」
納得いかなさそうに歯を食いしばっているが、残念なことにたちの悪い依頼主というのは絶えないし、ギルドも全ての悪質な依頼を払うことなど出来ない。常習犯ならまだしも、依頼主が本当に必要としている可能性だってあるのだから。
だからこそ、冒険者は自衛が求められるのだ。無知のままでいれば食い物にされて終わるのはどこの世界でも同じ話だった。
「レコンの件だが、やりようはある」
「え?」
「冷凍魔法は使えないんだろう?」
「使えねえよ!」
「なら、俺が処理してやる」
「おっちゃん、魔法がつかえんのか・・・・・・」
「その代わり、ひとつ頼まれてくれ」
「……頼み?」
「町の様子を見てきてほしい」
「町?なんでそんなこと……」
「俺は今、訳あって町に戻るわけにはいかなくてな」
「難しいことは頼まない」
「ギルドに寄って、何か騒ぎになっていないか」
「それと……俺の名前が出ていないか」
「それだけでいい」
「それだけでいいのか?」
「ああ」
「……わかった。やる」
「おっちゃん、名前は?」
「ダリアだ」
「……ああ、ダリア、な」
「そういえばまだ言ってなかったな、俺はコロンって言うんだ。ダリア、この約束絶対だぞ!」
コロンはすっかり気を取り直した様子で町へ向かっていく。
その様子を見送り、姿が見えなくなった頃
「さて、冷凍魔法か、久しく使ってないけどまだ使えるかな?」
記憶をたどるように詠唱を行う。対象はさっき適当に折った木の枝でいいだろう。
魔法を使ったときの独特な感覚が体を抜ける。
それと同時に少しの違和感を感じる。
(ん?まあ久しぶりに使うから、変な感じがしてもおかしくはないか)
そう思った直後、手にした木の枝は完全に氷に覆われていた。
「・・・・・・なんで?」
ダリアは眉をひそめる。
枝の先だけを凍らせたつもりだった。
だが――
出来上がっているのは、砲弾のような氷塊だ。
(俺はここまでやるつもりはなかったんだけどな・・・・・・)
ここまで来ると素人の冷凍魔法の範疇ではないが、魔法がまだ使えることを確認したダリアは約束を守るべく、薬効のあるレコンを手際よく見つけ出し冷凍していく。
ガサリ、と背後の草が揺れる。
獣の気配。
鼻につく、土と獣臭。
気づくより先に、体が動いた。
飛び出してきたのは、牙の突き出した猪だった。
一直線にこちらへ突進してくる。
ダリアは剣を抜き、片手でまっすぐ構える。
突っ込んでくる猪に焦点を合わせる。
半身で躱し、剣をその場に置くようにして突き立てる。
速いものは急には止まれない。
勢いのまま、猪は自ら剣に突っ込んだ。
しかし、剣一本突き刺さった程度で止まるほど、野生の獣はやわではない。
怒り狂った猪が、こちらへ向き直ろうとする。
その瞬間。
ダリアは、刺さったままの剣へ向けて初級雷撃魔法を撃ち込んだ。
小さな稲妻の音が森に響き渡り、剣を伝って流れる電流に感電した猪は意識を失って地に伏せる。
「昔は、こいつ一匹でも苦労したもんだがな」
「ちょうどいい。コロンが戻ったら、解体でもやらせてみるか」
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