王を語らう観測者
本題が大幅にズレてしまった。クラウンモンスターとかいう興味深いコンテンツには関わっていきたいが、今は後回しだ。今後の方針やら情報収集は後で行うとしよう。あとで事情聴取をするべき奴がいるしな。
それはそれとしてまずは自身の強化からだろう。
「それで、武器を作ってもらうには俺は何をしたらいいんだ?」
「ふふふ……その感じ、相当ゲームに慣れてるわね。話が早くて助かるわ。そうね、まずは素材集めかしらね。素材があったらすぐにでも作ってあげられるわ」
「今ある手持ちじゃ無理そうか?」
ここまでの道中で手に入れた素材をアイテムウィンドウに表示する。蛇の鱗、虎の皮、蠍の鋏、蟻の外殻。どれも序盤で登場するボスクラスのモンスターが落とす素材だ。武器を作るにはちょうどいいだろうと売らずにとっておいた。だが
「残念だけどどれも使えないわね。武器の素材としてはどれも使えるのだけれど、あなたが求めてる攻撃速度に関してはどれも向いていないわ」
「なるほどな」
確かにそれなら作れなくても仕方がない。素材によって武器の性能が変わったり、特定の素材でないと目的の武器が作れないというのはよくある事だ。となると次に行うべきは素材集めだな
「おーけー。それじゃあ何が必要なんだ?」
「そうねぇ。何か素材にこだわりはあるかしら?クロちゃん?」
「こだわり?モンスター素材か鉱石素材かってこと?」
「まぁそんなところね。ごく稀にそういった縛りプレイをしている人がいるから一応聞くようにしてるの」
「なるほど」
急なちゃん付けに若干背筋に悪寒が走るが、この際気にしない。そもそもこの手のプレイヤーは男女問わずにちゃん付けするのがセオリーだ。違和感もさほどない。
素材に関しても、別にこだわりはなく必要なら取ってくるだけなので場所さえ指定してくれればそこに取りに行くつもりだ。
「それじゃあ……」
……
………………
………………………………
「さて……」
次の行き先が決まった俺たちはアドレアの店を出て、裏路地から表通りへ行こうとしているのだが、一つ事情聴取しなきゃいけねえ人物がいるよな?
「希空。知ってることを吐いてもらおうか」
「……なんのことかな?」
少し間が空、きニヘラ笑いが返ってくる。その笑顔はあまりにも自然かつ不自然。あくまで自分は何も知らないですよというスタンスは崩そうとしない。だがその目まではごまかせてないぜ?
「誤魔化しても無駄だ。さっきからクラウンモンスターの情報について会話してた時、お前妙に静かだったよな?」
「それが何かおかしいの?知らないからとかじゃなくて?」
「ならなおさらだ。知らない話なら多かれ少なかれ必ず質問をしてくるだろ?だがコイツはそれどころか、俺たちがクラウンモンスターについて会話しているとき、こいつは一言も喋らなかった」
「言われてみれば?」
「そういえばそうかも」
まぁ、流石にそれだけじゃないがな。さっきの会話の途中、ふと希空の顔を見た。その時のコイツの表情が気になった。真顔といえば真顔だったんだが、その瞳にほんの少しの違和感があった。それは無関心というよりは、どこか懐かしさや悲しさを含んだような、そんな目だったからこそ、おかしいことに気づいた。
それに加えて、さっきの会話で一つ分かったことがある。クラウンモンスターはこの世界では超がつくほどの重要なモンスター。ゲーム的に言えば看板モンスターだということだ。そして、
「お前はこの世界において何らかの特殊な立ち位置に居る。じゃなきゃ「ラスボス」なんて言葉はでてこないからな。違うか?」
ラスボス、つまり最後に立ちはだかる者。そう認識していること自体かなり特殊だ。ラスボスを名乗ることはおろか、通常のゲームであればNPC自身がNPCと自覚していることなんてほとんどない。あったとしても、それはその世界観に基づいた謎解きゲームや、プレイヤーの意表を突くことを目的とした逆張りゲームなどが挙げられるだろう。だがこのゲームは王道のRPG。そういったあえて外すような真似はしないだろう。
だがそんなアルクロであるにも関わらず、そういった発言をするNPCが現れたとなると、それは何か理由があるはずだ。加えて、アルクロは全てのNPCに搭載されているAIは高度なものだと有名だ。その高さは、プレイヤーが関与せずともNPC同士で話が進むレベルだ。つまり、それ程のAIを積んだこのゲームなら、その真意までは分からずとも、自身がNPCと自覚している奴が居たとしても、完全にあり得ないとは言い切れないだろう。
「ふふふ……その洞察力、すごくいいね」
どこか納得したかのように突然笑いだす希空。
その笑みにはどこか不気味なものを感じさせるものがある。思わず息をのみ、声が出せなくなった俺達を一瞥したのち、希空が続けて言葉を綴る。
「そう、僕は君たちの言うクラウンモンスター……「冠位を持つ神」について知っている。僕は希空、ラスボスであり、観測者。いずれ敵対するかもしれない。しないかもしれない。過去・現在・未来。全てを見定め、記録し、世界の果てでその時を待つ者」
その言葉、姿、意味。全てがわからない。真実だとしたら馬鹿馬鹿し過ぎる、だが嘘だと思い込むにはあまりにもその言葉から感じ取れる何かがあまりにも深過ぎる。それは、現状もしかしたらラスボスというのも噓ではないのかも知れないと思わせる程度には。
「でも、それ以上は教えられない」
「……理由は?」
先ほどの迫力に気圧されながらも、疑問をぶつける。
「彼らは僕の古い知り合いなんだ。今の僕に、彼らについてあれこれ語れる事は少ない。いくら僕でも、彼らのプライバシーってのは守りたいんだ。知りたいのであれば……」
少しだけこちらから視線を外し空を見上げる。そのビジュアルの良さはある種の芸術作品と言えるほどに、美しく、神々しいと思わされる。
そのままコチラへ振り返り言葉を続ける。
「旅人よ、この世界を旅し、謎を拓くのだ」
その瞬間、その場に居た誰もが息を飲む。
こいつはただのNPCではない。少なくとも、ただの気まぐれで、自身がラスボスであると宣うような、そんな軽いやつではない。昨今のゲームでは、序盤からの仲間が最後の敵になることは少なくない。ましてや、だまして悪いがなんて展開は腐るほど見てきている。
この言葉にはそれだけ納得させられる説得力が込められていた。
「それじゃあ僕は少しやることができたからここで失礼するよ。また近いうちに会おうね」
「あ、オイちょっと待て!」
そう言うと、俺の静止に耳を貸す気配もなく突然目の前から希空が消える。それは言葉表すにはとても難しく、まるでそこには何も無かったかのように、瞬きした次の瞬間には誰も居なかった。
何やら言葉にできない感情と共に、その場に残された俺たちは、気がつくと表通りにたどり着く。
え、どうしろと?




