一柱の遭遇者
俺達は今、新しい武器を求めて紅吏こと、クレアの行きつけという武器屋の前にいた。
当然、新武器が欲しいと言ったのは俺自身なのでそれ自体は何も問題はない。
だがしかし、それとこれとは別なのだ。自ら死地へ足を踏み入れるのは勇者か蛮勇者か。だが俺はそのどちらでもない。清く正しい一個人だ。たとえゲーム上における危険地帯に嬉々として突撃しようとも、現実にまで影響を及ぼしそうな所には絶対立ち入らない。何よりも俺の直感が、この先に行くのは危険信号を赤にしてやまないのだ。そうつまり、ここで俺がとるべき行動は一つだ。
「……少し考え直さねぇか?」
危機からの脱却である
「いまさら何言ってんのよ。ほら、さっさと入るわよ」
「今さっき爆弾情報落とされて、はいそうですかと言って進めるほど俺の肝は据わってねえぞ?」
「大丈夫。黒ならどんな困難も乗り越えられる」
「オイこら待てこら白こら。テメェ面白がってるだろ」
「当たり前じゃん何をいまさら」
「喧嘩なら買うぞ?」
「えっと…そのオカマ?ってのがなんなのかはよく知らないけどこのお店に入るの?入らないの?」
「ほらほら、希空くん?ちゃん?が困ってるよ」
「一番困ってんのは俺だけどな?」
あ、もうこれ止まる気配無いわ。行くしか選択肢がないわ。ルート分岐なんてなかった……ええい、どうとでもなれ!いざというときは希空を盾にしようそうしよう。
「おじゃましまーす」
「いらっしゃ~い。あらクレアちゃん今日はどうしたの……あら?その後ろのカワイ子ちゃん三人は?」
「友達です。昨日始めたばかりの新規プレイヤーですよ」
「昨日始めたばかりでもうこの街まで来たの?すごいわねぇ~」
……なんていうかでかい。とてもでかい。カウンターに立ち、バーテンダーの装いに身を包みながら、コップを丁寧に拭いているその男?女?は体躯もそうだが、そのオーラか圧力か雰囲気か、どう形容すればいいかわからないがとにかくでかい。それでいて坊主頭なのにどこか女性らしいしぐさに…なんか頭がバグりそう。
思わず目をそらすと同じように目をそらしたのか、隣にいる白と目が合う。
((どっからツッコんだらいいんだ?))
「初めまして、私はアドレアDX。この店の店主よ。よろしくね」
「ああ、はいどうも…希空、お前先に自己紹介していいよ」
「え、どうしたの急に?さっきまで遮ってきたのに」
いやなんというか、今までも他のゲームでオカマのロールプレイは見てきたんだが、コレ(・・)はおそらくそれらとは違うだろう。雰囲気なのか、佇まいなのか、なにかは分からない。だがどこか本物を感じさせるその立ち姿に思わず身代わりを差し出すのも無理はないだろう。
「まぁいいや。こんにちは、僕の名前は希空…よろしくね」
「えっと…こんにちはアドレアさん。おれはクロト、こっちはハクアだ」
「こんにちは」
「あら、こんにちわ。三人ともかわいいわね。怯えなくて大丈夫よ、別に取って食ったりしないから」
普通!反応がすごく普通!話が普通に通じる!よかった…誰だよビビらせた奴!
そう思いチラッとクレアのほうを見ると、顔をそらし、目を合わせようとしない。よく見ると、口を押さえ肩をぴくぴくと震わせている。おいてめぇこっち見ろ、笑ってんじゃねえよ。
「プッwwwwww…ほら、クロ。要件があるのはアンタでしょ」
「お前マジで覚えてろよ?ったく…実は今使ってる拳武器がそろそろ壊れそうで新しいのが欲しいんだが何かいい奴はないか?」
「あら、拳武器がご所望?そうねぇ…すでに作ってる武器はいくつかあるけど、何に重点を置きたいとかはあるかしら?」
「そうだな…」
主に拳武器に求められる要素は威力、防御、攻撃速度といったところだろう。現状、あの洞窟に落ちたおかげで、序盤でありながらそこそこレベルが上がっている。しばらくの間は火力も防御も事足りてるだろう。であれば重視すべきは一つだな。
「できれば攻撃速度重視のやつがいいかな」
「速度重視ね、ちょっと待ってもらえるかしら」
そう言って店の奥へと行く。流石にゲームの世界なので物を物色するような音は聞こえないが、そこそこ時間がかかっているところを見るに、さすがは鍛冶師。やはり所持している装備の数自体はかなり多そうだ。
店の奥に行ってから数分が経過し、ようやく戻ってくる。目的のものが見つかったのかと思ったが、どうもそういうわけではなさそうだ。少し申し訳なさそうな顔をしながら戻ってきた。
「ごめんなさい、今探してみたのだけれど運悪く拳武器は在庫がないのよね」
「まじか。素材もないのか?」
「そうなの、新しく作ろうにも、生憎この間まで別件で忙しかったから素材を切らしてるのよ」
「何かあったのか?」
「実は最近、ここのエリア付近でクラウンモンスター・ウルヴァーユが出現したって大騒ぎなのよ」
何やら知らない単語が出てきた。おそらくこの世界の要素の一つなんだろうが。
あれでも待てよ?クラウンモンスター…ウルヴァーユ…どっかで聞いたことあるような…
「クラウンモンスター?って何?」
「二人は始めてから二日目だから知らなくて当然だよね」
「クラウンモンスター。それはこの世界に九柱いるとされる頂点たちの総称よ。一体一体が化け物級の強さを誇り、このゲームがサービスを開始して半年以上たった今尚、一度も倒された報告がないと言われるほどよ」
「なにそれ。レイドボス?」
「一部はね。今判明しているのは五柱。ウルヴァーユ、アニゥトグル、ゼグトラル、ミリアラス、ティルワノス。残り四柱は名前すら不明。判明しているこの五柱も、ほとんど名前以外はわからない状態なのよ。」
「そう、唯一見た目が分かっているのが、さっき言ってたウルヴァーユ。その姿は通常の竜より大きく、様々な属性を操る龍の神らしいわ」
通常の竜より大きな体……!!!
「アイツか!?」
「うわびっくりした。急に何?」
「最序盤に俺のことを嚙み殺した蜥蜴がそのウルヴァーユなんだよ」
「え!?もうエンカウントしてるの!?どこで!?」
何やらすごい勢いで俺に視線を向けられる。そんなまじまじと見られるとかえって緊張するんだが。
だが思った以上に貴重な情報だったらしいが、そもそも俺は噛み殺されただけだ。ここで黙秘したところで、特にメリットは無いな。逆に素直に話すことで、何か情報が得られるかもしれない。
「とりあえず落ち着けクレア、順序を追って説明するから。まずどこって言われたらチュートリアルエリアだ、俺のところは確か…シュバルトゥルム平原だったはず。初ログイン直後にいきなりドラゴンに襲われてたんだが、10分程戦っていたらいきなり横から襲われてその別のドラゴンごと喰い殺されたってのが全貌だ。俺の種族変更はそれが原因ってわけだ。」
「蜥蜴と戯れってそういうことだったのね…」
「初心者エリアにはドラゴンは出現しないはずなんだけど…もしかしてクロト君、貴方出身地を『竜の血脈』にしたんじゃないかしら?」
何このおっさん怖…と思ったが、攻略情報にも載るような情報だったのを思い出し、驚きが表に出ないようにする。
「合ってるよ。竜が出てきたのはその原因だろ。」
「多分そうね。……まさかクラウンモンスターまで対象だとは思わなかったわ。そしてあなたのその姿、あまり人目につかないようにしたほうがいいわね」
「理由は?」
「このゲーム、種族変更自体はそこまで難しくないんだけど、竜関連の種族変更は今まで聞いたことがないの」
へー?ほー?ふーーーーん?
いや別に、MMOにおけるユニークが嬉しいわけじゃないし?独占しようとかも考えてないけど?まあでも?ほかの人にはない状況はやっぱり存分に楽しまなくちゃなぁ!?
「黒。キモイ」
「あ゛?」
おっといけない。顔に出てたようだ。ポーカーフェイス、ポーカーフェイスっと。
「…こほん、忠告感謝するよ。アドレアさん」
「……だいぶとわざとらしい咳払いね。まぁでもしょうがないか。ゲーム始めていきなりクラウンとの遭遇と種族変更…あんた相当な乱数引いてるわね」
「それはどっちの意味で?」
「良い(悪い)方でしょ」
「どっちだよ」
どちらにせよ、ユニーククエストなのか、ユニークシナリオなのかは知らないが、せっかくの人気ゲームの中で手に入れた独自性だ。ここにいる奴らは別として、いちいち人に開示する必要性はないな。隠し通してとことん楽しんでやろうじゃねえか。それに、売られた喧嘩は買わなきゃ気が済まない性質なんだ。絶対に一泡吹かせてやる。
九柱のクラウンモンスター。始めたばかりだが、なかなか面白そうなコンテンツだ!
当初の目的を忘れて話に花が咲く事
あると思います。
あれれー?全然喋ってない奴がいるなー?




