紅き少女との邂逅、その眼に映るは怪奇の双子+α
少し長くなりました
足が…足がいてぇ。
小一時間続いた説教が終わり、生まれたての小鹿の如き足取りで自分の部屋へと足を運ぶ。普段は何も感じることのない2階にある自室に向かう道中の階段は、今日だけは苦難の道にすら思える。一段、一段踏むごとに自身の麻痺した感覚へとダメージを与えてくる。
「まさかあの後、説教が小一時間も続くとは・・・ゲーム禁止を喰らわなくてよかった」
まぁ次のテストで好成績を残さなきゃいけなくなったが。長く苦しい道のりを超えて部屋につき、VRヘッドギアをつけようとした直前、紅吏への連絡を思い出す。
「そういえば紅吏にドライヴィアまでついたこと言ってないな。連絡くらいはしとくか。」
ポケットからスマホを取り出しチャットアプリを起動する。
影近:紅吏、俺と白ドライヴィアに着いたぞ。あと出会い頭にぶん殴るからよろしく
紅吏:ちょっと待って何で暴行宣言されてるの?てか、もう着いたの!?まだ始めて一日しか経ってないよね!?
影近:次の日に集合って言ったのはどこの誰でしたっけ?
紅吏:いやまぁ私だけど
紅吏:まさか本当に一日で来るなんて思わないよ!
え、一日でドライヴィアまで行くのってそんなに驚くことなのか。買った日にサラッと次の日の集合場所にしてたからそこまで驚かれるとは思わなかった。まぁ何にせよ、連絡入れたので再びあの世界へと飛び込もう。
………
………………
………………………
さて、無事にログインは完了っと。
…なんか電脳の世界に来て尚足の痺れが残ってる気がする。紅吏との、合流まで少し時間がある。白もまだ来てないみたいだし一度自分のステータスでも確認しとくか。何が出来るかを知っておく必要があるしな。
Name:クロト
Lv.41
Job:拳闘士
種族:半竜人
HP (体力)20
STR(筋力) 40
VIT (防御)70
AGI (敏捷)80
TEK(技量) 12
STM (持久)30
LAK (幸運)40
MP (魔力)5
スキル
・ストライクラッシュ
・バニッシュインパクト
・掌底・留流
・我竜爪・斬残
・武道の構え・上級
・風翔脚駆
・ノックアウトハンマー
・ファーストギア
・刺突正拳 New!
・雷纏 New!
・トライアクセル New!
・プロテクション New!
・ビルドアップ New!
・キリングハント New!
とまぁこんな感じか。成長が目に見えるってのは素晴らしいことだな。勉強もレベル制だったらどれだけ楽だったことか。まぁそれはいいとして、まずはステータス。こちらに関しては変わらず敏捷と防御重視にしつつも、火力を出すために幸運にも振った。おかげでMPはかつかつだから魔法は一切使えないんだがそれはとある事情からあまり問題では無さそうだ。
となると次に強化する際はTEK優先だろう。クリティカル運用するのであれば技量も必要になってくるのだが、現在では幸運自体は上げていても技量が低すぎる為確実性が低い。そろそろ本格的にビルドの方針を決めるべきだな。
次にスキルに関しても、既存スキルも進化したり、新規スキルを6個も覚えたりとてんこ盛りだ。進化したスキルに関しては一部を除いて、ほとんど似たような性能だったので良しとして、新規スキルたちを見ていこう。なになに…
刺突正拳
鋭くも力強く放たれる正しき拳は、如何なる者も打ち砕く。要はシンプルに殴り倒すスキルだ。意外にもシンプルな殴打スキルは持ってなかったのでこれは普通に嬉しいぞ。だが正しき拳は果たして相手を刺していいものなのか。いや、突き刺すほどの威力の正拳の方が正しいのか?正拳突きとも言うしな。
雷纏
これは自身の魔力を雷の性質として変換することで身体能力を底上げするものだ。エフェクトとして雷が溢れ出ているのが纏っているように見える。このスキルのミソは「纏」」という名の通り外側に纏っているように見えるが、本質的には内側から強化している点だろう。
プロテクション
魔力を局所的に流すことで防御力を一時的に上昇するというシンプルな効果を持つ。俺が使うとメインは防御としてではなく、攻撃に転用される訳だから実質攻撃バフと考えていいだろう。効果時間も短いがリキャストタイムも短いので実は結構使いやすいのではなかろうか。
トライアクセル
発動すると十秒間という極短い時間のみ、超加速効果を得られる。ただし、その分 再使用待機時間もかなりの物になっている。他の機動系統のスキルとは違い、発動タイミングを見極める必要がある、リスクとリターンが明確化されてるスキルだな。
ビルドアップ
一定時間自身の攻撃、防御、敏捷のステータスに補正が入るバフスキル。ただし、効果が終了すると同量の効果と時間分のマイナス補正が入る。これも使い所を見極めなければ戦闘中に苦戦を強いられるだろう。
キリングハント
相手が自身よりレベルが上の時のみ発動可能とする強化スキル。おそらく俺が格上(レベル表記上)ばかりを相手してきたからこのスキルを獲得したのだが…ぶっちゃけこれが1番将来性が見込めないな。レベルを上げれば必然的に自身より弱い(表記上)やつが増えるわけで、そうなると今度はスキルすら使わないんじゃないのか?いやそもそもそれも含めた上でのこの性能なのか?少なくともいずれする可能性があるPvPにおいては完全に足を引っ張るだろう。
と、まぁ確認した訳だが…前半は良いのだが後半は使用する場面を考えるものが多かった。もうちょっと使いやすいのが欲しかったんだけどなぁ…
「強力なのは強力なんだが、日常的に使いやすそうな新スキルは刺突正拳と雷纏、プロテクションぐらいか?他の三つは使いどころ要注意って感じだな。」
スキルは一通り目を通した。となるとお次は武器だな。
取り出したのは耐久値が半分を大きく下回っている「闘士の手甲」。ゲーム開始時から所持している初期武器だ。少しだけ愛着がわいてきたが、ぶっちゃけ今すぐにでも新しいのが欲しい。これを使ってた理由はシンプルに急いでいたからでしかないからな。
「うーん、どうするかな…」
「何してるの?」
「うおびっくりした!なんだ希空か…」
「君なかなか酷いやつだね。そんなモンスターとかち合わせた反応されるとは思わなかったよ」
「自称ラスボス名乗ってんだから似たようなもんだろ」
「違いますー!自称じゃないですー!あと人をほっぽり出しておくのは紛れもなく酷いやつだからね!?」
「ツッコミどころそこかよ。まぁいいやそれはさておき」
「さておかれますか」
納得がいかなさそうに、希空がぶつぶつ文句を言いながら付いてくる。気が付けば時間的にもそろそろ白と合流する時間だ。別に終わらせておく必要自体はないので、せっかくだし、白と合流次第、武器屋を少し見ていくか。
◆武器屋◇
「あらいらっしゃい、旅人さんと、それにハクアさん。」
「こんちわ。少し武器を見せてくれるかい?できれば拳系のやつを。」
「拳系の武器かい?珍しいね…拳系となるとこんなのがあるけどどうだい?」
「うーん…どれもパッとしねえな」
NPCの女性店員と会話を交わす。白と合流した俺達は目的通りに武器屋へと訪れていた。
今の俺の装備と比べるとどれも強力なことには変わりないんだが、やはりNPCが経営している商店なこともあり、特筆して強そうなものは感じ取れない。
「あぁそれとハクアさん、注文してた武器できてるよ」
「ありがと。」
「いつのまに武器注文なんてしてたんだ」
「昨日黒がログアウトした後にサクッと注文した」
「だからお前いつも以上に眠そうにしてたのかよ」
どうやら昨日のうちにこの店に来て注文してたらしい。できた品物が「襲虎の双牙」という名の双剣。襲撃の大虎の牙をベースに、この街に来る道中で戦った敵の素材も使っているとのこと。睡眠時間を削ってゲームしてるこいつも大概ゲーム馬鹿なんだよな。
睡眠時間といえば、今日母さんに徹夜がばれたのは紅吏がチクったからだって言ってたな。うーん、なんかまた無性に腹立ってきた。あのチクリ魔、会ったらどうしてやろうか。取り敢えず数発は殴るとして…
「やっぱりプレイヤー経営の店を探すか?」
「それならおすすめの店があるよ~」
その声に対して反射的に拳を握り、全力で殴り掛かる。それはまるで親の仇を見つけたかのように、速く、鋭く、力強く。スキルこそ使用していないが、その威力は同等レベルの相手ならそこそこのダメージになるだろう…と考えていたがふと我に返り「あれこれ普通に駄目じゃね?」と思い至る。だがどうやらその心配はいらないようだ。
「ちょっと…いきなりなにすんのよ」
「悪い、ちょうど良く恨みつらみが募っていてな」
「それ言い訳になってると思う?喧嘩を売ってるってならプライスレスで買うけど」
「ふっ……」
生憎だが無料で配ってんだよ、お前限定でな。
拳を軽く受け止めた者の声がする。その声はこの世界では初めて聞く声であり、しかして幾度となく現実世界で聞いたことのある声。振り返るとそこには、美しいクリーム色の金髪を靡かせ、赤色の瞳を持った「クレア」という名の少女がいた。
「よく俺がここにいると分かったな、クレア」
「私にかかれば二人がどんなところにいようとお見通し…と言いたいけど実際は見覚えのある二つの名前がこの店に入るところが見えただけだよ」
と何でもないかのようにクレアが言ってのける。
俺や白、そしてクレアは基本的にゲームをするときは大本となる名前は同一のものを使用するようにしている。理由は全員が揃いもそろってめんどくさがりだからだ。
「っとそれはそうとしてそこの人は?見た感じプレイヤーじゃなさそうだけど……」
「こんにちは。僕は……」
「自称ラスボスを名乗る変人NPC」
「ちょっと最後まで自己紹介させてよ!」
「現状ラスボス要素皆無だから却下」
「右に同じく」
「ちょっとハクアちゃん!?」
素性の知れなさと俺達と組んでることの不自然さが相まっていまいち信頼しきれないんだよな。「騙して悪いが」展開はこういう所からくるんだろうな。俺は全人類を敵に回すほど愚かではない。俺は健全でクリーンなゲーマーだ。うん。
「あはは…相変わらず随分と辛辣な発言ね。なんか安心したわ。というか、それにしても…始めたばかりなのに既にかなりの変わり具合ね…」
「うっせぇ。蜥蜴と遊んでたら別の蜥蜴に噛み殺されたんだよ。」
「何その状況」
俺が聞きてえよ。なんで開始早々半分だけだが人間を辞めてんだ俺は。
店を出た後、三人で先導するクレアの後ろをついていく。歩いていると多くのプレイヤーとすれ違う。このゲーム、総プレーヤー数が大都市の人口並みに多い。だがぱっと見た感じ、その割には人が少なく、だが今まで見た二つの街に比べるとかなり多く感じる。
「……にしても少し人が多くないか?」
「昨日も多かった気がする」
「だねぇ。ぱっと見レベルの高そうな旅人さんが多いね。高レベルの旅人さん達がこの街に滞在する理由なんてあったかな?」
「あぁ、三人は知らないのか。実はこの間緊急のクエストが入って今この街は大盛り上がりなんだよね…っと着いたよ!」
おっと、着いたみたいだが…おかしいな武器屋らしき店構えが見当たらないぞ。クレアのやつまさか道を迷って苦し紛れについたとか言ってんじゃないだろうな。俺の眼がおかしくなかったら目の前にあるのは、「Venus」と書かれたスナック店だぞ?しかもどっちかというと男性同性愛者的な雰囲気がする。いやまさか本当にここなわけ…
「ここがプレイヤー経営でも私が良くお世話になってるお店だよ。あ、店主は乙女漢だから気をつけてね」
MA・ZI・DE・SU・KA。
次回予告 「漢女 襲来」




