ハイスピード・エンカウンター
ー◇ー
エリア攻略を開始してから数時間、広大な荒野の中でようやく周りが円形の石垣で囲まれた場所が見えてくる。
「着いたよ。ここがエリアボスのいるところだよ。」
「まさかあれから一時間もかかるとは・・・もしかして希空って方向音痴?」
「ナンノコトデスカ?」
「目を見て話してよ。まぁいいや、それよりどんなモンスターか知ってる?」
「知ってるよー。でかい虫の幼虫だね。」
「幼虫かぁ・・・もしかしなくても戦闘中に羽化したりする?」
「するよ。」
「だよね。ならやることは一つだね。」
「あぁ。うんなんとなくやりたいことを理解したよ。」
ハクアの顔に笑みが浮かぶ。それは純粋なものではなく、寧ろ・・・
ヘラクリダム・ラーヴァ。
苦境の茫洋荒野のエリアボス。通常時は地底に潜んで身体を休めており、自身に危険を及ぼそうとするものに対し警戒態勢を高め迎撃する。その最たる能力は環境適応能力を用いた戦闘中の形態変化にある。幾つかの羽化先から、現状の把握・最適な姿へと変貌する。そんなヘラクリダム・ラーヴァだが、実は、中級者の火力指数としての判断材料とされている。形態変化よりも前に討伐出来たらそのビルドは後半まで十分に役に立つとされており、日夜多くのプレイヤーに倒されていた。
「なるほどね。形態変化前に倒したいと?」
「そう。できるでしょ?」
「いやまぁできないこともないと思うけど・・・」
「ならやろう。さっさと終わらせて寝たい」
「その自信はいったいどこから来るのやら・・・」
明らかにここから入ってくださいという雰囲気が出ているアーチ状のゲートを通ると、中心の地面から、白い体をうねらせた幼虫が出現する。時折見えるその下部には、足が無数に配置されており、またその口からは謎の粘液を垂れ流しており、触れた地面はその酸性の高さを表す様に地面を少し溶かしていた。
「キモイね」
「ねー」
幼虫…というより虫全般の見た目はどうしてこうも気持ち悪いのだろうか。そんなことを考えながらも、私と希空は武器を構える。
「さて、さっさと終わらせるよ。」
速攻で集中モードに入り、接近する。幼虫は何か奇声を発したかと思うと、今度は地面から四体の小個体が這い出てくる。ヘラクリダム・ラーヴァは、戦闘開始序盤、一定範囲内のプレイヤー・NPCの数に応じて自身の子供とも呼べる個体を召喚する。その為推奨レベル帯での攻略メンバーは四名以上となっている。だが、
「希空の言ってた通りだね。そっちは任せるよ。」
「まかせて!」
ネタが割れていればそこまで脅威となるものでもない。攻略方法自体は至極単純で、出現した個体をすべて倒せばボス自体に弱体化が入るため、ソロでの攻略も難しいものでもない。
「虫なら当然火が苦手でしょ?」
装備中の双剣に炎が奔る。ここに来るまでの道程で覚えた魔法【パースドゥ・フレア】。火属性に分類される付与魔法で低レベルから扱え、効果は自身の装備中の武器に限り炎属性を付与するというシンプルな効果。重ね合わせるのはスラッシュの進化技、「ソニックエッジ」でラーヴァの身体の左側面を斬りつける。
「pisyuaaaaaaaa!」
ダメージを受けたラーヴァが気味の悪い声を響き渡らせる。
下半身を捻り、ぶつけてくる。そこまで速くはないが、スキルの反動で少しの硬直が起こっていた私にとっては、しっかりとした隙となっていた。
「痛っ…くはないね。クリティカルじゃないにしろそこそこしっかりダメージを受けたと思ったんだけどな。」
このダメージ量だとそこまで攻撃力はないのかな?バフ系統のスキルや魔法を使ってないにしても、こっちの攻撃も叫び方ほど入ってはなさそうだった。
ということは、おそらく幼虫状態は進化前提のステータスにしているはずだから防御力が高いのか。そして攻撃力とついでにスピードはそこまで高くない。
つまり、現状だとただ硬いだけの体力のある的か…
「めんどくさいなぁ」
大人しく希空の方が倒し終わるのを待ったほうがいいかな?
ー●ー
「あ、ハクアちゃんに現状だと削るのだいぶ難しいって言うの忘れてた…」
四体の子体を相手にして数十秒が経過した時点で、希空の視界に少しだけ苦戦をしているハクアの姿がチラッと入った。この四体を倒せば弱体化するとは言っていたのだが、弱体化前の性能については伝えていなかった。ヘラクリダム・ラーヴァの硬さは弱体化前では当分今の彼女じゃ到底削り切れるものではない。中級者の火力指数というのも、子体を先に討伐してからのモノが大半だ。であるならば、やることは一つだろう。
「請け負ったからには、サクッと仕事しますか!」
取り出した刀に光を纏わせる。「ムーン・ショット」を先駆けとして起動し、四体のうちの比較的前方にいた二体に向けて放つ。子体の動き自体もそこまで速くなく、簡単に当たる。前衛二枚が怯んでいる隙に、今度は前後が反転した後衛との一気に距離を詰める。そのタイミングで前に出てきた二体が毒液を吹きかけてくる。
「序盤だからわかっていたけど、似たような攻撃ばっかだね。」
ここに来るまでの戦闘でこの「苦境の茫洋荒野」が虫系統のモンスターが多く存在するのは見てきた。そのためここのエリアボスもそれにあてはまるだろうと二人は予測していた。そしてその予測は見事に的中しており、獣系統だと嚙みつきや引っ掻き、虫系統は突進や毒液噴射が多い。今回も例にもれずに攻撃してきた。
「それじゃあ、さっさと終わらせようかな。」
反撃の隙は見せずに終わらせる。
心の中でそう呟いた希空はギアを上げる。スキル「ステラヴィティ」を起動すると、自身に迫る毒液を躱しながら反撃を開始する。その勢いのまま接敵し、真正面から攻撃を浴びせつつ、標的を一体に絞り、他子体から距離を離そうと殴打スキルで吹き飛ばす。
「物理的に距離が空けば連携もくそもないでしょ?」
そのまま残る三体には目もくれずに、吹き飛ばした子体へ全力で走る。敏捷数値は僕のほうが圧倒的に高い。追いつかれる間もなく仕留める。クレセントスラッシュ起動、吹き飛ばされて体勢を崩し、腹を丸出しにしている子体目掛けて容赦なく放つ。上部の防御力が高そうな見た目とは反し、下部は見た目から明らかに柔らかそうだ。この世界は弱点が見た目に反映されるものも少なくなく、そこに攻撃が当たると、他部位よりも数倍近いダメージを引き起こすことがある。旅人はその現象に対して「クリティカル」と呼んでいるらしい。今の攻撃はそれに類したのだろう、攻撃した子体は断末魔を出しながらその身体が魔力の塊へと変わり、霧散する。つまり撃破した。
「一体目。次。」
慈悲はない。そもそもこの世界のモンスター自体、無限に沸き続けるのだからいちいち気にしていられないのだ。今回も本体を倒したところで、また別のプレイヤーが来ればそれに応じたモンスターが出てくるものだからだ。残り三体。こちらから見て手前の方に二体、少し離れて一体。ステラビリティの効果時間はまだ残っているが、効果中に倒すのであれば、あまり時間はかけられないだろう。
「そうとくれば…」
一体一体にかける時間を短縮。同じ時間で二体倒せば問題無し。近くの二体に向かい走り出す。馬鹿の一つ覚えで毒液を吐きつけてくる二体に対して、リキャストタイムを終えたムーンショットを再び起動し、飛んできた毒液を迎撃。手傷を負うことなく接近し攻撃をする。
「はぁ!」
手ごたえはいまいち!スキルを使ってないから当然か。クレセントスラッシュのリキャストタイムは十秒。残り五秒の間にこの二体をひっくり返すにはどうするか、答えは単純だね。二体の間に立ったことで攻撃手段は絞られる。つまり突進攻撃。ならこっちは真上にジャンプするだけで…
「同士討ちしてくれるってわけ!」
誘導成功!お互いがお互いの攻撃で吹き飛ばされ、無防備な弱点を晒す。残り三秒、隙を埋めるかのように通常斬撃を二体に浴びせる。弱点部位に当てているため、先ほどよりダメージが通る。それと同時にクレセントスラッシュのリキャストタイム終了後、即起動。二体まとめて当たるように横薙ぎで放ち、二つの命を削り切る。想定より時間がかかったことにより、ステラビリティの効果時間は切れてしまった。だが見据える先に迷いはなく、冷ややかな宣言が告げられる。
「さて…」
残り一体。
このゲーム、後半になるにつれて多対一の場面が多すぎるのでそのチュートリアルもかねて最初と二番目のボスは多対一の状況にしている。
・ステラヴィリティ
星の力と魔力を併用して扱うことで自身の敏捷を上げつつ、自身に掛かる重力の影響を軽減する機動力系スキル。こんな序盤に出すべきスキルではなさすぎるのだが希空の使えるスキルに制限が掛かりすぎているため唯一使えた機動系がこれだった。




