光無き地底と積りの衝波
誰も見ていないとは言え本当に申し訳ございませんでした。
ここまでテンションが上がってきたのはいつぶりだろうな。ゲームをやっていてテンションが上がることはよくあることだが、ゲーム中に時間やプライベートを多少犠牲にしてでも「こいつはここで殺す!」と思えたのは今まで多くのゲームをしてきた中でも、両手の指で数えられるくらいだ。まぁ学生のプライベートの犠牲なんてたかが知れているがそこは気にしないことにする。
「おっと」
先ほどよりもスピードが上がった突進攻撃を問題なく躱す。事前動作がさっきと変わりないので避けるのは容易い。暴走状態っていうんだから、当然身体能力も上昇してるよな。だが動きが直線的で単調だ。避けるのは難しくない。
「暴走状態のくせに突進攻撃だけか?そんなんじゃ俺は倒せねえぞ」
まぁ、当然突進だけなわけがなく……叫んだかと思えば壁や天井を利用して立体機動を始めやがった。それ自体に問題はない。今までやってきたゲームでもそういった敵は少なくないからな。それに加えて恐らく片方のみになった顎には酸が付着しているだろう。何せ回避した先の壁が溶けてるからな。
(これを喰らうのは残り体力的にもまずいよな。もしかしたら酸攻撃を避け続けるとこの戦闘エリア自体も崩壊するかもな。)
間髪入れず、今度は酸を光線のように飛ばしてきた。現状の情報から、カウンターは控えるべきと判断。更にエリア崩壊の可能性があるためこれ以上の長期戦もあまり得策ではない。そこから導き出される答えは一つであった。すなわち、短期決戦。
現状使える手札、リキャストタイム、バフデバフ、敵の体勢。全てを把握、そして何が必要で何が不要か。今考えられる答えを最速で導き出す。そして、
カチリッ
いくつかの小さな歯車が頭の中で集まり、そして噛み合った。
「ここで決めてやろうじゃねえか!」
急ブレーキをかけながら今度は逃げていた方向と反対、つまり孤独大蟻の方へ走り出す。それと同時にスキル「トライスブースト」を起動する。このスキルは一分間自身のAGIの数値を二倍にするという強力なスキルだ。だがそれ故にこのスキルは時間ではなく回数で制限されている。つまりは一回の戦闘につき一度しか使用できないという、何とも使いやすくも使いにくいスキルというわけだ。
「この一分でケリをつけてやる。」
先ほどよりも倍以上の速さを手に入れたクロトは躊躇いなく突っ込み、同じくこちらに襲い掛かる孤独大蟻の足の間をすり抜けた。当然孤独大蟻が気付かないわけがない。ほぼすべてのステータスで優位に立つからこそ油断なく敵を見ている。だが現状行動速度のみクロトが勝っている。それ故に一歩の遅れが決定的な溝を作り出す。
「ムーンストライザー。」
その言葉を聞き終えるよりも速く、孤独大蟻の顔面は蹴り飛ばされていた。口で言う必要は無かった。だがこの一撃が確かな節目になると感じ取った俺は無意識に発していた。
「いい加減倒れてくれよ。」
トライスブーストの効果時間終了まで残り三十秒、ただでさえ少ない手札のほとんどを使い切ったクロトは、のけぞった体勢の孤独大蟻を見ながらそうぼやく。だが、
「purugulaaaaaaaaaaa!!!!!」
僅かに残った力で襲い掛かってくる。スキルの硬直により反応が遅れたことでその攻撃を完全には避け切れなかった。これによりクロトの敗北が確定かと思われた。しかし、
「その体勢から反撃してくるか!」
とんでもねえ執念じゃねえか。だがな、ここまで来たらこっちも意地でも勝たせてもらう!
攻撃が当たる直前に起動したスキルによってギリギリで耐え抜いたクロトが今度こそ最後の一撃を放つ。
「片腕はくれてやるよ。てめぇの命と引き換えになぁ!」
翔脚で飛び出したその身体は迷いなくその腹に飛び込み、被弾したことにより威力が上がった「インパクトチャージ」はその腹をぶち抜いた。
「pigyaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!」
断末魔と共にその身体を構成していた孤独大蟻のポリゴンが砕け散った。
っっっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
とはならなかった。長い戦闘を経て、勝利の喜び以上に疲労が勝った。時間にして約四十分弱、人によっては短いと感じるであろう時間を、ぶっ通しで集中する疲労は想像以上に辛いものがある。
「あぁぁぁぁぁぁぁ…疲れたぁぁぁ…。高レベル帯ならまだしも、レベル差ソロ攻略なんて序盤でやることじゃあねえだろ。」
地面に仰向きに倒れながらぼやく。長時間の戦闘自体は他のゲームで何回も経験しているが、これに関しては多少の差はあれど、慣れるものではない。
「だがまあ、結果としては大満足だな。」
目に見える報酬に顔が少しニヤけた。レベル41。上昇レベルはなんと驚異の20レベル。スキルも既存の物が進化したり、新規が一気に増えたりした。更には地面には先ほど撃破した敵の素材も多く転がっている。
「やっぱ目に見える結果ってのはテンションが上がるな。レアアイテムが落ちてるといいが…」
触角、甲殻、砕いた顎、どこから出たかはわからないが瓶詰されたエキス、心臓部っぽい核。素材のランクも現状としてはそこそこ高そうでいいね。手持ちに入り切るか?
「それにしてもこんだけの素材を武器にできないのはちょっと惜しいな…いや待てよ」
職業が拳闘士なだけあって武器はあきらめていたが…もしやスキルが覚えづらい、または覚えられないだけで装備自体はできるんじゃないか?
「もしできるのなら…大幅に戦術を増やすことができる!」
技術がないだけであって剣士が拳を使えるなら、拳士が技術を使わずに剣を使えてもおかしくはない。うわまじか、早く試したくなってきやがった。だが今日はさすがに疲れた上にくそ眠い。ご丁寧にこの先が出口ですよみたいな道が形成されてるので、さっさと帰って寝よう。
「…ん?なんだあれ?」
それが目に入ったのは偶然といえば偶然だった。出口を前にして部屋の中心に自分が立っているとしたらその右側の端に何かが埋まっているのがちらっと見えた。戦闘中は当然あったわけがなく、それはすなわち強者との戦いの褒美でもあった。
それは一つの壁を乗り越えた者への激励であり、これから訪れる試練そのものであった。
『星雷の刻証』・・・それは証であり星の卵。さらなる力を蓄えることでソレは目覚めるであろう。
報酬に声は挙げなかったものの、クロトのテンションは最高潮へと達した。
ー◇★ー
遡る事数刻前。
「クロ落ちて行っちゃったけどどうしようか。さっきの穴もふさがっちゃったし。」
「いやまさかこのタイミングで洞穴の入り口がジャストで真下になるとは思わないじゃん…」
「洞穴?の入り口って変わるの?」
「あぁそうか。ハクアちゃんはこの世界に来たばっかだから知らないのか。このエリアの地下にあるのはヘルクスパイル地底洞穴って言って、入口の穴がランダム生成かつ中のボスモンスターもランダムで変わるダンジョンがあるんだよ。」
「入口が変わるのは他の世界でも聞いたことあるけどボスモンスターも変わるの?」
「そうなんだ。基本的にはボスのレベルは20後半から30前半が多いんだけど、ごく稀にレベル50台のモンスターが現れることもあるんだよ。パーティ全員で挑むなら少しきついくらいなんだけどソロだと流石にやばいんじゃないかぁ…」
その言葉を聞いた瞬間にハクアが考えたことは一つだった。
(多分クロ、50のやつ引き当てただろうな。)
言葉にはしないが、静かなる確信をもってそう考える。何故なら昔からそうなのだ。クロトは運がいい。しかしそれに並ぶほど運が悪い。0と100を足して2で割ると平均を取れるという何とも極端な運の持ち主なのである。
「仕方がない。希空、その洞穴の出口がどこかわかる?」
「洞穴のボスはエリアボスより強いからエリアボス戦は免除されるはず。だからエリアボスの直後あたりのはずだよ。」
「わかった。じゃあ私たちはそこに向かおう。」
「それはいいけど…もしレベル50以上を引き当ててたら戻ってる、もしくは蘇ってるかもしれないよ?」
「ううん。それはないよ。あいつはどれだけ攻略が難しかろうが、どれだけ時間が掛かろうが必ずクリアする。」
「どうしてそう言い切れるの?」
何故かと問われると少し悩む。もちろん昔からそうだったというのは簡単だろうが恐らくこの質問の本質はそこではない。何故クロトが諦めないと言い切れるのか、自身ではないのになぜわかり切ったかのように言うのか、おそらくそんなところだろう。ならば答えは簡単だ。
「双子ってのはね、とても似ている。それは遺伝子レベルで。」
「うん?」
「簡単だよ。私なら諦めない。それだけだよ」
「・・・なるほど、なんとなくわかった気がするよ。」
二人はそれ以上は何も言わずに先へと脚を進める。
正直に言うと、大した理由はない。経験と○○とか言ったところで誰も納得しないだろう。ましてや相手は自称ラスボスとは言ってもNPCだ。下手に発言してフラグが折れるのは控えるべきだろう。
人との会話が苦手なハクアにとって、今日知り合ったばかりの人物との二人きりは精神的に疲れを感じる。だが、ゲーマー魂にはあらがえないのだった。




