No.099 魔素蛭
日付が変わり終電が無いので品川駅前からタクシーで帰宅。
東名高速を使って地元まで2万円弱。
交通費として戻ってくるのはいいけど、一旦自腹で払わないといけないので複数回乗るとけっこう痛い。
しかも深夜の帰宅で朝は普通に出勤、睡眠時間が殆どとれない。
キツイ。
カルル達の飛空艇は、次の惑星防衛システムの修理のためマルドーナ王国を後にした。
その数日後、マルドーナ王国では軍に評価用の飛空艇を数艇導入することが決まった。
予算は、国境警備に導入予定であったゴーレムの予算を転用する方向で進んでいる。
その話は軍内部にいる協力者からゴーレムギルドにもたらされ、慌てたギルド役員達は緊急会議を招集した。
「軍が飛空艇を導入する話は本当なのか!」
「まだ評価用に数艇を導入するといった話に留まっているようだが、今年度のゴーレム装備予算を回すのは確定という話だ」
「つまり軍がゴーレムを導入することは今後無いと考えた方がよいということか」
「だが、いったい何処から飛空艇を購入するのだ。まさかヴィスターク王国からではあるまい。敵国から飛空艇を購入するなど聞いたことがない」
「その件だが、飛空艇を作る錬金術師の名前は分かっている。カルルという錬金術師だ」
その名前を憶えている役員は以外と多かった。
「はて、何処かで聞き覚えのある名前だな」
「本年度のゴーレム闘技大会の真の優勝者の名前だ」
「まさか。あの感情を持ち会話ができるゴーレムを出場させた者と同じだと言うのか。その者が飛空艇を作ったと?」
役員達と共に会議に出席した秘書のひとりが細く説明をする。
「カルル選手は、飛空艇や魔道具を作る錬金術師だそうです。あのゴーレムはその過程で作った試作品という話です」
役員達は、その話を聞いて信じられないという表情を浮かべる。
「試作品のゴーレムが闘技大会で優勝するレベルなのか?」
「我らは、あのゴーレムが優勝したにも関わらず、優勝者として扱わなかったのだぞ」
「カルルという者は、ゴーレムギルドをよくは思っていないであろうな」
「そこを何とかできないか。そのカルルという錬金術師をギルドに呼んで謝罪してはどうか。何なら闘技大会の優勝者を彼に変更するのも手だ」
「試作ゴーレムで闘技大会を優勝するような者が、それだけで我らに協力してくれるとは思えないが」
「とにかくだ、そのカルルという者の所在は分かっているのか?」
「それなんだが、仕事があるとかで飛空艇でベルラード大陸の中央部に向かったそうだ」
「何だと。中央部といったら魔獣が生息する危険地帯ではないか!」
「では、軍はどうやってその者と連絡を取るのだ」
「軍の調達部門の担当士官は、連絡を取る方法を知っているそうだ」
「ならば、その士官と連絡を取れないか」
「いっそのことその士官を買収してはどうか」
ゴーレムギルドの役員達の会議は、徐々に話が逸れていき深夜にまで及んだが結局のところ何も決まらず、議題は後日の会議に持ち越されることになった。
その頃、カルルの飛空艇はベルラード大陸の中央部の高度10000mの空を飛行していた。
周囲に飛行型の大型魔獣がいないか警戒をしながら大陸中央の最深部を進みながら間もなく夜を迎える。
徐々に高度を下げながら標高2000m級の山に広がる森を眼下に収めながら近くに魔獣がいないかを入念に探査していく。
「この辺りには魔獣の姿は無いみたいだね」
「でも何か変な感じじゃない。探査の魔石に魔獣が1体も映っていないなんて変じゃないかしら」
「確かに。前回の惑星防衛システムでは、飛竜の群れをあちこちで見かけたけど、ここでは全く見かけないね」
「だが警戒だけはしておいた方がいいだろう。あえて無防備になる必要もない」
「だったら、ここでは飛空艇の外には出ない方が得策ね」
カルル、アリス、ハンド、パトリシアは、ベルラード大陸の中央部がどれだけ危険なのかは、前回の惑星防衛システムの修理に行った時に理解しており、その時の経験が各人の言葉として表されていた。
カルル達は、収納の魔石内に収納した食材からスープを作り、市場で購入したパンをとスープで夕食を簡単に済ませると、飛空艇内で交代で見張りをしながら朝を迎えることになる。
だが、深夜にアリスが見張りをしていた時に異変を感じた。
「カルル、起きて。何か飛空艇の周りで変な音がするの。それに探査の魔石が使えないの」
飛空艇の1階で寝ていたカルルは、深夜にアリスよって起こされた。
「変な音?」
「何か飛空艇の周りを這いずり回る音がするの」
カルルは、飛空艇の1階にある扉に耳を押し当てると、物音がしないかを注意深く観察する。
すると確かに何かが這いずる音がする。しかも音はひとつではなく複数だと分る。
カルルは、飛空艇の扉を開けようとしたが起きてきたハンドに止められる。
「カルル殿、扉の外に何がいるか分からない。むやみに扉を開けない方がいい」
そして4人は飛空艇の2階へと移動して各々の席に座ると飛び立つ準備を始める。
カルルは、操作卓に埋め込まれた魔力の魔石に手を置き、魔力の魔石経由で探査の魔石を発動させようと魔力を送り込むもなぜか反応が無い。
「あれ、魔石に魔力を送り込んでいるに動かない?」
不思議に思ったカルルは、魔力の魔石に蓄えてあったはずの魔力残量を確認すると"12"をという数が示された。
「魔力の魔石には10000以上の魔力を蓄えておいたはずなのに"12"なんておかしい・・・」
その時、操作卓の正面にある縦に細長い魔石ガラスの窓の外に何かが張り付いているのが見えた。
カルルは、自身の腕輪に装備している探査と鑑定の魔石に魔力を送り、飛空艇の窓に張り付いた魔獣が何であるかを調べてみると、想像もしていなかった魔獣の名前とその説明が示された。
「"魔素蛭。人や魔獣から魔力を奪い死に至らしめる魔獣。群れで過ごすため1体を見かけたら周辺に数十体はいると考えるべき魔獣"だって」
「飛空艇の魔力の魔石に蓄えたあった魔力が殆ど底をついているということは、あの魔素蛭とやらに魔力を全て奪われたと考えたよさそうだな」
カルルは鑑定の魔石が示した魔素蛭の説明を聞き、ハンドが飛空艇の魔力の魔石に蓄えた魔力が残っていない理由を考察した。
「だったら飛空艇の魔石に魔力を一気に送り込んで高度10000mまで上昇します。そうすれば外気温は氷点下40度以下になるので魔素蛭も凍るはず。一気に飛び立つので衝撃に備えてください」
「「「了解!」」」
カルルの言葉にアリス、ハンド、パトリシアが言葉を返す。
カルルは、魔力の魔石の上に右手を置き、魔石に大量の魔力を一気に送り込むと、飛空艇は衝撃と共に凄まじい速度で上空へと飛び出す。
飛空艇に乗る4人の体に何倍もの重力が加わると必死にそれを耐えながら夜空を駆けあがっていく飛空艇は、あっという間に高度5000mを超え、6000mを超え、さらに高度を上げていく。
「もうすぐ高度10000m。外気温は氷点下40度を超えているわよ」
アリスは飛空艇の探査と鑑定の魔石が復活したことを確認すると、魔石が示す飛空艇の状況を声に出して読み上げていく。
高度10000mに達した飛空艇は、先程とは打って変わり安定した状態になった。
そして4人の目の前には、飛空艇の映像が映し出されていて、そこには飛空艇の外壁に張り付いている10体以上の魔素蛭の姿があった。
「全て凍り付いて死んでるみたいね。蛭ってもっと小さいと思っていたけど、1体が人の腕くらいの大きさがあるのね。あの蛭に吸い付かれたら人の魔力なんてあっという間に吸い付くされそうね」
アリスは顔の前に映し出された飛空艇の状況を見てぞっとした表情を浮かべている。
魔素蛭は、氷付きながら徐々に飛空艇の外壁から剥がれていき、地上へと落下していく。
カルルの飛空艇は徐々に高度を落としながら陽が上り始めた明け方の空を飛んでいる。
すると飛空艇の横を1体の竜が飛んでいた。
その体を見ると先程までカルルの飛空艇に張り付いていた魔素蛭が何体も張り付いている。
「飛竜でも魔素蛭に張り付かれたら手に負えないみたいだね」
カルルの飛空艇と並んで飛んでいる飛竜は徐々に高度を下げて地上へと降りていく。
「多分、あの飛竜は魔力を吸いつくされて地上に落下していくんだろうけど、このベルラード大陸の中央部では、これが日常なんだろうね」
カルルの言葉に思わずゴクリと唾を飲み込むアリス、ハンド、パトリシアの3人であった。
今まで行ったどの場所にも、魔素蛭などというおぞましい魔獣を見たことのなかった4人は、この場所がいかに危険であるかを改めて思い知らされた。
そして数時間後、カルルの飛空艇は、修理を行う惑星防衛システムは着陸している地点へと到達したが、そこにもあの魔獣は姿を表すことになる。
◆飛空艇の外殻と躯体を作る魔法
・土魔法
◆飛空艇を創るために必要とされる魔法
・強化魔法
・固定魔法
◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など
・浮遊の魔石
・飛空の魔石
・魔力の魔石
・魔道回路
◆カルルが創った飛空艇
飛空艇:264
1000艇まで残り736
◆カルルが創った飛空艇の内訳
・飛空艇試作一号艇
・飛空艇試作二号艇 ※両親が使用
・飛空艇試作三号艇 ※カルルが使用
◆北ラルバード大陸
王国向け飛空艇
・アリーア王国向け飛空艇 53艇(通常型20艇、戦闘型30艇、早期警戒飛空艇3艇)
・アリーシュ王国向け飛空艇 30艇
・ハイリシュア王国軍向け飛空艇 80艇(通常型30艇、戦闘型50艇)
・フルーム王国軍向け飛空艇 22艇(通常型10艇、戦闘型10艇、早期警戒飛空艇2艇)
・マレーナ王国沿岸警備隊向け飛空艇 20艇(戦闘型20艇)
・カヌーナ王国沿岸警備隊向け飛空艇 20艇(戦闘型20艇)
錬金術ギルド用飛空艇
・グランドマスター用兼商談用戦闘型飛空艇
・薬草栽培兼治療用飛空艇
・トーデスインゼル(死の島)救助隊用飛空艇 8艇
・トーデスインゼル(死の島)物資補給用飛空艇 2艇
・遊覧用飛空艇 4艇
◆北コルラード大陸
王国向け飛空艇
・ユグドリア王国向け飛空艇 50艇(戦闘型50艇)




