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06 雑賀衆・孫一(2)

06 雑賀衆・孫一(2)



人々が襲われているのを見たテオフィデールは、素早く指示を出す。

「騎士は2人1組になって渡ってきた馬を剣で切れ、弓隊は引き続き川の中の馬を攻撃しろ!」


テオフィデールは叫びながら自らも剣を抜き、馬で駆けていく。


市は川で倒れたり、進めないでいる人喰い馬に矢を射っていた。

それに集中し過ぎて、すぐ横から川を渡って来ていた人喰い馬に気が付かないでいた。


人喰い馬は市の頭を噛みつこうとした時、ギリギリそれに気付き逃れた。


市は慌てて刀を抜き、足を切った。この馬の足は固くて切れないと聞いていたが、驚く事に、『へし切長谷部』はスパッと人喰い馬の足を切った。


シモンが襲われ落馬する。剣を抜いて苦戦をしているシモンを見つけた市は、そこへ回り込みながら人喰い馬の足を切った。

横に倒れた所をシモンが、剣で胴を切る。


シモンを見ると、左肩を噛まれたらしく、右手だけで戦っていた。


「シモン、下がりなさい。その傷では戦えぬ」


「いいえ、私は大丈夫です。陛下が戦っているのに下がれません!」


引きそうにないシモンを見て、


「では、私が足を切る。倒れたところをそなたがトドメを刺して欲しい」


「了解しました」


領民が襲われているのを見た市は、シモンに合図し、駆け寄りざま馬を切る。そこをすかさずシモンがトドメを刺した。


その馬は絶命したにも関わらず、

領民の腕を咥えたままだった。


「今助ける!」

市とシモンは腕を抜くため、馬の口に棒をねじ込み、

テコの原理で口を開けた。

すると、なんとが腕が抜けた。


(良かった)と思ったその時、市の回りに大きな影が出来たと同時に、大きな馬が、市を踏み潰そうと前足を高く上げているのがわかった。

(蹴り殺される!)


次の瞬間、市はテオフィデールに抱き抱えられて、横に転がった。


「テオ!」

「市、大丈夫か?」

心配そうに市の体に怪我がないか確かめようとするテオフィデール。その目の前に、市は刀を差し出す。

「テオ! この刀で馬の足が切れます」


テオフィデールに刀を渡す。


すぐに立ち上がったテオフィデールは、受け取った刀ですぐ前まで来ていた馬を切った。


「ほー、やはり凄い切れ味だ」

感心しながら、振り返って


「市はその岩影に隠れていろ」

と言い残し、武神の如く恐ろしい勢いで、人喰い馬をなで斬りにしていった。


市は隠れている気はなく、さっき助けた領民の弓矢を拾い、弓を射る。


どのくらい時間がたったのかわからない。

市の弓を引く指の感覚がなくなった頃、ようやく全ての人喰い馬を打ち倒した。


誰かが喜びの雄叫びを上げると、

一斉に歓声が沸き起こった。


市は岩に腰を下ろし、勝てた事にホッとした。

(終わった。本当にようやく勝てた)


シモンが肩を押さえて近付いてきた。


「本来、あの数の人喰い馬が出現したら、町3つは全滅だったはずです。見事な作戦でした。罠を仕掛けた場所も流石でした」


少し、次の言葉を言いよどんでから、一気に言う。


「助けて頂きありがとうございました」


「テオフィデール王はほんに、良き家臣を持っておるの」

市は微笑んだ。


怪我人も多く、魔術士の医療も追い付かないので、軽傷の者は町に帰ってから、治療する事になった。


そこで市は、包帯や水を配っている娘達から両方をもらい、シモンに水を渡し、


「左肩を出しなさい。包帯でかっちりと固定すれば痛みはましになります。町に着くまでの応急処置じゃ」

言いながら、シモンの服を脱がそうとする。


「いいえ、町まで我慢します」

慌てて服を押さえながら、後退りするシモン。


「恥ずかしがらずとも良い。そなたの裸を見たところで何も思いはせぬ」と言い、バッと服を脱がし包帯をかっちり巻いていく。


赤面するシモンは、上を向いてるしかなかった。




しばらくすると、どこからともなく 大勢の人達が、せっせと人喰い馬を解体し始めた 。


いつの間にか子供らも 来て、嬉しそうに お手伝いをしている。


解体していた一人が、

「 王様と市様のおかげで、町は無事で誰一人死者も出なかった。そして大猟(たいりょう)です」


「大猟?  もしかして、そなたらは牛だけではなく 馬も食べるのか?」


青ざめた市に、シモンが、


「 馬も美味しいですよ。食されたことないんですか ?」とニヤニヤした。


「何を笑っておる?」

「いやー 、市様の震えおののいている姿は、なかなか見ものだなと思いまして」


「ふんっ」と()ねると、シモンが又笑った。





・・帰路にて・・・・


見晴らしの 良い所で休憩していた時、テオフィデールが来て市の横に座った。

「市の作戦は素晴らしかった 。あんなに大群の人喰い馬を掃滅(そうめつ)できたのは市のお陰だな」


「いえいえ、全ての者の働きが素晴らしかったのです。テオフィデール様も的確な指示で、」

「テオ!」

「えっ?」

いきなり言葉を(さえぎ)られて、市が驚く。


「戦っていた途中では、俺の事を、テオと呼んでいたではないか」


そう言われても、市は覚えがなかった。


「これからは、テオと呼べ」

「ですが、王たるもの、人前で女にそう呼ばせては、示しがつきませぬ。では、テオ様と呼ばせて頂きまする」


「では、二人きりの時は、テオと呼べ。よいか?」


市は少し、厄介な、と思ったが、

「はい。ではそのように」

とだけ答えた。


「それと、非常に気に入った。・・俺は・・手放す気はないから、覚悟しておけ」

と言うと、真剣な顔で市をじっと見た。


回りの騎士達の動きが止まった。

ルイスは、口が開きっぱなしになっている。


テオフィデールの顔を見ながらじっと考えていた市は、ハッとして、眉をひそめて立ち上がり、

「テオ様、どんなに望まれても、あの刀は私のものでございまする。お譲りすることは決してありませぬ」

と言うと、(きびす)を返し立ち去った。


その場の人々は市の後ろ姿を見送った。


テオフィデールは頭を抱えて動かなくなった。


そんな王を見ないように、騎士達はぎこちなく動き出す。


ルイスは王の肩を優しくポンポンと叩いた。



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