52 閑話・あさい りん
浅井凛は現在26歳。高校教師をしている。
以前異世界に召喚され、テオフィデールの母ミラに利用され、殺されそうになったところで、市に助けられ現代に帰れたのだ。
凛はシェルドナール王国から帰ってから人が変わったかのように、勉強をした。
服飾の仕事を目指していたが、市の生きた証を忘れない為にも、歴史の勉強をしたかった。
以前はどんな歴史上の人物も、教科書の中の生きていない人物だった。
市を知ってからはどんな人にも、青春があったり、悩みがあったり喜びがあったのだと思うと、身近に感じた。
しかし、授業で織田信長の安土桃山時代に入ると、いつも気持ちが沈んだ。
別れた後の市を思い出し、胸が苦しくなった。
凛の中で、どうしても行きたいが、行くのが怖かった場所。
それは福□県福□市の柴田神社である。
お市様縁の神社として有名なのだ。
今年漸くここに訪れようと決意できたのは、恋人の酒井のお陰である。
誰にも打ち明ける事なく、暮らしていたが、始めてこの酒井に召喚の出来事を話した。
元の世界に戻るとき本来なら、魔道士の元で、元の世界に帰った瞬間に記憶が消去される魔法をかけてもらうのだが、あの時は非常時で、傍には市しかいなかった。
凛はあの時の記憶が消されなくて、良かったと思っている。
自分のしてしまった事を、忘れるなんてしてはいけないと思っている。
決して許されない事は、どの世界にいても忘れてはいけないのだといつも自分を戒めている。
酒井は凛の話を、笑わずに真剣に聞いてくれた。
その酒井と福□駅に降り立った。
柴田神社の鳥居をくぐると、すぐにお市さまの銅像と柴田勝家の銅像があった。
凛はその銅像を見ながら、今の自分の成長を市に語った。
今の自分があるのは確かにこの人のお陰なのだ。
一心不乱に手を合わせて、市の 銅像に手を合わせている凛の後ろで、酒井はじっと見守っていた。
ここに来てから、凛が何かにとりつかれた感じがして、目が離せない。
凛が顔を上げた。何かに導かれるように、市様の右隣の3人の娘の銅像を通り過ぎ、その右の5段の石階段を上がり、勝家の銅像のすぐ後ろを一心に掘り出した。
酒井は慌てて凛を止めようと階段を上がる。
しかし、凛の手には今堀当てたとは思えない土も付いていない、綺麗な紙が握られていた。
凛が紙を広げると、日本語ではない文字が書かれていた。
凛にはその文字が読める。懐かしいシェルドナールの文字だった。
『りん、もとの世界には帰れましたか? 凛が去った後、私は無事にシェルドナールに戻る事が出来ました。りんはその後、服飾デザイナーになれたのであろうか? きっとそなたの事だから夢を掴んでいると信じている。どうか、しっかりと前を向いて、いかなる時も、話し合いを大事にの。異世界の母より』
はらはらと涙する凛。
「よかった・・よかったー・・市様生きてたー」
そのうち、大泣きでわんわん泣き出した。
酒井は他の参詣の人達の邪魔にならないように、凛の肩を抱いて移動させた。
しゃくりあげる凛から、手紙の内容を聞いた酒井は、その手紙を見つめた。
美しく真新しい紙からは、良い香りがする。
さっきまで土の中にあったとは考えられない事だ。
酒井は以前から凛の不思議な話を聞いていたが、凛が嘘をついているとは思わなかった。しかし、心から信じるには突飛すぎた。
今目の前で起こった事を鑑みて、酒井は心の底から凛が語った事を真実として受け止める事が出来た。
凛が落ち着きを取り戻し、あわ◎温泉まで足を伸ばして温泉旅館で一泊して帰る事になった。
次の日の朝、ここまで付き合ってくれた酒井の趣味の恐竜を見に、福□県立博物館に立ち寄ろうと話していた。
ここは恐竜の化石やレプリカが迫力のある展示で有名な博物館である。
その恐竜博物館に今回、若○歴史民族資料館から貸し出された、常光院に関する貴重な史料が展示されていた。
常光院とは、市の娘の初の事である。
酒井には、恐竜を堪能しててもらい、その間、凛はその展示を見に行った。
64歳まで生きた初の手元に残っていた貴重な物が、所狭しと展示されていた。
茶々からの書状、江からの書状、具足、その中に、初が母からの手紙だと大事にもっていた手紙と言うのが、飾られていた。
字は薄くなり、字も読めないほどにボロボロになっていたが、確かに解読されたところが訳されていた。
凛も古文書の字を解読したことがあるが、ここまでボロボロだと読めなかった。
しかし資料館の館長さんが復元技術で解読できた所を現代語訳されていた。
『大事な娘、初へ。私は・・世界で・・・気に暮・・・・す・・・・・・』
凛は何度も・・・を想像して読んだ。
『私は異世界で元気に暮らしています』
凛には市が自分の無事を知らせるために、そう書いて初に送ったのだとおもった。
きっと、この手紙は先ほど凛が受け取ったように、初にも、茶々にも江にも届いたに違いない。
市はきっと現代と文字が違うことを考えて、娘達には戦国時代の文字で送り、凛にはシェルドナールの文字なら読めるだろうと書いてくれたのだ。
凛は神社で受け取った手紙を広げて、ガラス越しの初の手紙の横においた。
同じ小さな花の模様がある便箋だと気が付いた。
初は何度も何度も読み返しては、懐に大切にしまったのだろう。
普通に箱に入れて置いたなら、ここまでボロボロにはならなかったはずだ。
(初様、私も市様からの手紙を今日受け取りました)
酒井が異変に気付いたのは、奥の常光院の史料が展示してあるブースから帰ってくる人の反応が、皆一応にヒソヒソと話しているのだ。胸騒ぎがした酒井は、大急ぎで、奥の展示室にむかった。
ある展示物の前で人の目も気にせず、ポロポロとなく凛がいた。
酒井は急いで駆け寄る。
「どうしたの? 何があったの?」
凛は、声を出さずに展示物の1つを指す。
「昨日の市様からの・・・ヒック・・同じ手紙なの」
酒井も初の手紙と、凛が持っている手紙が同じだと気が付いた。
2人は感慨無量で見つめ合う。
「良かったな~凛」
「うん。良かった。本当に嬉しい」
酒井と凛が抱き合って喜んでいるのを、来場者の皆さんは遠巻きで見ていた。
また、ヒソヒソと話す人が増えてしまった。
どうやら、今日の博物館の来場者の話題は、恐竜よりも例の2人だった。
どうしてもその後の、あさいりんを書きたくて入れました。
短い話ですみません。
59話で最終話予定です。最後まで宜しくお願いします。




