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30 建国記念祭(2)

他国の外交官達は別棟に部屋が用意されている。


そして、警備上、夜は23時から朝5時まで外出禁止となっている。


トルベツの王、リベルは眠れなかった。

昼間に会った赤毛のメイドも、黒髪の騎士も手掛かり(ゼロ)


そして、ユーグもあれから会えなかった。


もう23時はとっくに過ぎていたが、もう時間がない。部屋でゆっくり過ごしている場合ではない。


窓から上手く抜け出せた。

建物の影に隠れながら、移動していると王宮警護の交代時間らしく、向こうから数人の兵士が来た。


「異常無し。王宮第3騎士隊所属8名、休憩には入ります」


「ご苦労。別棟の客人達も寝静まったとは言え、気を抜くな」


リベルは見張りの数が多くて、動き回れない。

(王宮の隅々に警備がいる。やけに人数が多いな。王宮に何を隠しているんだ?)


王宮の近くまで来た。

建物を見上げた時、ビューと強い風が吹いた。


その時、窓が開いていた部屋のカーテンが(まく)れ上がった。


そして、慌てて窓を閉めに来た女の姿を見た。

一瞬の出来事だったが、リベルははっきり見えた。


夜の闇より黒い髪の女! 

しかもあれは、昼間に見た赤髪の女に違いない。


リベルの頭の中で、点が全部、繋がった。

長く(から)まっていた知恵の輪が、一気に解けた時の様に気分がいい。


(そうか、あれが黒騎士か。一旦部屋に戻って作戦会議をするか)




   ◇  ◇  ◇


建国記念祭当日


城内のダンス会場では、他国の姫君がテオフィデールと踊るため、壮絶な順番争いをしていた。


昨年は更に、各地の領主のお嬢様や、各貴族のお嬢様達が加わって、熾烈(しれつ)を極めていたが、市の存在が公ではないが、テオフィデールがご執心の女性がいると言う事は、周知されていたので、これらのお嬢様は控え気味だった。


その為、昨年に比べると大人しい限りである。


テオフィデールは市の居ないダンスタイムを、作り笑顔で過ごしていた。


(リベルが、市に興味を持たなければ、今頃、着飾った市とダンスをしていたはずだ)


そう思うと、外交官としてしれっと他国の建国記念祭に参加しているリベルに腹が立った。


休憩していると、そのリベルが近付いて来た。


「このような華やかな場に、トルベツ国も招待頂き!誠にありがとうございます。陛下のパートナーは今日はご不在ですか?」


遠路遥々(えんろはるばる)、ご出席頂き感謝します。貴殿の国は海賊騒ぎで大変ではないのですか? わざわざ王自ら参加下さるとは、痛み入る」


「シェルドナールでは、面白い戦法を思い付く騎士が居られると聞いたので、是非その知恵をお貸し頂きたいですね。この機会にその騎士を紹介して頂きたい」


テオフィデールが射抜く様な目でリベルを見たが、すぐに口元だけ笑顔を作る。

「我が騎士は全て優秀な者ばかりです。騎士訓練場に行けば、探して居られる優秀な騎士は沢山いますよ」


化かし合いの挨拶が終わると、お互い作り笑顔を「胡散臭(うさんくさ)い笑顔」だと心で(ののし)る。


「食えない奴」

これもお互いの感想だ。


リベルは早く昨日の夜に見た女の正体を突き止めたい。


こんな上辺だけの挨拶やダンスより、情報を仕入れ易い場所に行きたかった。


丁度、リベルに厚化粧の女性が近寄ってきて、声をかけてきた。


「そのスカーフは、トルベツ国の模様ですわね。素敵ですわー」


「あぁ素敵なレディ、私とダンスを踊って下さい」

リベルは女性の香水に、軽く咳込みながら、踊る。

その後、彼女と一緒にバルコニーへ行きそこでお喋りをする。


その姿が磨りガラス越しに見えていた。


陛下に言われて、吟遊詩人で忍者のテーゼは、城内でのリベルの動向を探っていた。


しかし、リベルがバルコニーから一向に動かないので、それとなくバルコニーに行くと、磨りガラスに見えていたのは、リベルと全く同じ服の別の男だった。


慌ててリベルを探したが、どこにも居なかった。


その頃リベルは、商人の格好で町にいた。

そして、出店の店番をしている少女に話しかける。

「美味しそうな飴だね」


「はい。1袋に色んな味が入ってます」

少女は、良くお手伝いをしているのだろう。とても商売上手だ。


「1袋貰おうかな?」

「ありがとうございます」


「ところで、黒髪の女性は今日は来ないのかな?」


リベルがそう聞くと、あんなに笑顔だった少女が、不審者を見る目付きに変わる。


「誰の事を聞いてるのか知らないけど、他に用事がないなら帰ってください」


そう言うと、隣の店に言いに行った。すると一斉にその付近の店は警戒し始めた。


警戒心が広がると都合が悪いので、リベルはさっさとそこから逃げ出した。

「あの女は偉く町に浸透してるねぇー。危ない危ない、気を付けないと」


リベルは標的を変えた。


昼間から開いてる飲み屋を探した。祭りの最中という事もあって、何軒も昼間から営業していた。


既に酔っているのを探し回った。

何軒目かで漸く、ぐでんぐでんに酔っぱらっている男を見つけた。


その男に近付き、リベルは親しげに話しかけた。

「よぉ。昼間ッから随分飲んでるね~」


「そりゃー、祭りぐらいは朝から晩まで飲まねぇとな~・・ヒィック」

男は体を前後に揺らしながら、焦点の合わない目で話す。

リベルは回りを気にしながら、男に尋ねた。

「黒髪のお嬢さんは、今日は来ないのかな?」


「あぁ、市様かい? 食べ物大好きだから、その内来るんじゃない?」


(ほぅ。名前は『市』と言うのか)

リベルはにんまり笑う。

「市様は何処から来たんだろうねぇ?」


「よーくは、知らねぇけど、召喚されて来たって噂で聞いたけどなぁ・・ヒック」


「でも、強いよねぇ? 女の子なのに、戦場まで行って戦って」


「うんうん。物凄いよねぇ~100頭の人喰い馬も倒しちゃって、そりゃーつえー・ょ・zzzz」


(人喰い馬100頭? 本当か? しかし、これで黒騎士はあの女で確定だな)


リベルは、酔いつぶれて寝てしまった男を残して、店を出た。






建国記念祭の翌日、次々と招待客が帰っていく。


昼頃には、トルベツ国の使節団も帰国し、市はその後、自由に出入り出来る筈だった。


しかし、トルベツの使者が朝からバタバタしていると思っていたら、使者の1人である大臣が、急に具合が悪くなられた為、帰る事が出来ないというのだ。


それで、ニコラがわざわざ「昼以降も、部屋から出ないように」と釘を刺しに来た。


「これでは、監禁ではありませぬか。せめてこの4階だけでも、自由にさせてはくれぬか?」


泣くように訴えてみる。


「うっ・・」

一瞬怯んだが、ニコラはやっぱり堅かった。


「今日1日、2日の事ですから、我慢して下さい」


珍しくニコラが、申し訳なさそうな顔で言うので、市も諦めるしかなかった。





トルベツ国の使節団の部屋では、トルベツ王国の外務大臣がベッドで、困惑していた。


「陛下、私はいつまで病気の振りを続ければ、いいんですか?」


「いいから、(しばら)く横になって(うな)っててくれ」

リベルは起きようとする大臣の頭を押さえた。


「一刻も早くお帰りになって、溜まっている政務をこなして頂かないといけませんし、これ以上問題を放置出来ないでしょう?」


「待て待て、持って帰りたい物が2つ出来た。上手く行けば両方持って帰れるかもな。おっ、先ず1個目をチャレンジしてくるか」


そう言うとターゲットを発見したリベルはさっと身を翻し、部屋を出ていった。





「よぅ、ユーグ。こんな所で警戒中か?」


リベルに声を掛けられたユーグは、露骨(ろこつ)に迷惑そうな顔をした。


「トルベツ国の元第6王子が、外で護衛とは。国に帰れば思うままに生活出来るぞ」


「私は今のままがいいのです」

ユーグは警護の姿勢を崩さず、返事をする。


「欲しいものがあれば、何でも手に入るぞ。例えば、昨日の赤毛のメイドも連れて帰れば、自分の物に出来るぞ」


「あの人はそういうんじゃない!」

ユーグはリベルの顔を(にら)んだ。


「お前は小さい時から分かりやすいな。いいか、お前の祖国はトルベツだ。祖国の為に帰って来い。、時間をやるから考えとけよ」


リベルはユーグの肩をポンと叩くと、建物の中に入っていった。




部屋に入ろうとするリベルに、シェルドナールの王宮専属医師が声を掛けた。


「私は王宮専属医師のキリノ・ドミンゴ・ハシントと申します。大臣の具合が悪いので、医師を派遣して欲しいとトルベツ国の補佐官の方から要請があり、こちらに来たのですが、病人はこちらの部屋にいらっしゃいますか?」


「そうです。この部屋ですよ~」


リベルはニヤッと口の端で笑い、キリノ医師を部屋に招き入れた。




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