24 ミラ(4)
市は、煙に巻かれないように部屋を出ると、美しい剣が飾られていた。
「良い剣じゃ。拝借しましょう」
手に取るとしっくり来た。
それを持って、移動してると子供の泣き声が聞こえてくる。
(?まさか!?)
慌ててカガンの息子を探す。
「ジュリオがまだここにいるのか? 何処におる?」
泣き声は聞こえるが、姿が見えない。
(そうか。壁の後ろの通路に閉じ込められているのか)
「ジュリオ、聞こえるか?」
ドンドンと壁を叩くが返事がない。
(敵と思われたか?)
「私はそなたの母御、レオノールの友達じゃ」
「・・・」
「私の名は市と申します。怖がらんでも良いぞ」
「・・・ほんと?」
「ほんとじゃ! ジュリオはどこからその通路に入ったのじゃ? 教えてくれぬかの?」
「パパに教えてもらったけど、グスッ 出口がないの、グスッ」
怖がらせない様にもう一度優しく言葉を変えて問う。
「おぉ、そうか。一人でよう頑張ったのう。もう少し我慢しておくれ。それで、ジュリオはどこから入ったのじゃ?」
「3階のおばあ様の絵の下を押したら開くの。それで階段上がってここに来たの」
「おばあ様の絵って、どの部屋に飾っていたか、教えてくれんかの?」
「部屋の扉にお星さまの印があって、階段の前をずっと行って、それから僕の絵本を読んでる部屋の隣だよ」
(うん? 分からぬ。片っ端から見て行こう)
「よし! ジュリオ、もう少し我慢してておくれ」
市は窓を確認すると、かなり高い。階段を駆け降りる。
(急がんと、火の手が回る)
3階に着くとドアを見て、ジュリオが言っていた、お星さまのマークを探そうとした。
(?! 全部のドアに星の印が有るではないか?)
戦闘が近くなっている。
片っ端からドアを開けて見る。
「ここは、おじじ様の絵か」
「おい! お前ここで何している?」
市は振り向き様、急所に蹴りを入れる。
「ごぉっ」
りんのズボンは足が良く上がる。
蹴りあげるには、うってつけだった。
相手は股間を押さえたまま、倒れ込む。
「顔を確認せず蹴ってしもうた。味方ならすまないのぅ。うん、敵で良かった」
顔と衣装で敵と確認、床に顔を埋めて苦しんでいるので、放置して先に進んだ。
バンバンとドアを開けて行くと、一際星の印が大きいドアを見つけた。
開けて中に入ると、とても美しい女性の絵が掛けてあった。
テオフィデールの祖母様だとすぐに分かった。
「テオと同じ濃い灰色の髪に、緑金色の美しい瞳。なんて優しそうなお方なのだろう。テオはおばば様似だのう」
絵を見ながら、市は絵の下を押しまくる。
ズズー。壁が動いた。
急いで中に入る。
(いかん! 通路にも煙が入っている)
市は狭く薄暗い通路を走り出した。
ジュリオが震えて待っていると思うと、焦った。
そして、声が届けば安心して貰えるのでは、と思うと声が大きくなる。
「ジュリオー。 どこじゃ? ジュリオー」
呼び続けていると
「ここだよー」
「ジュリオ! やっと会えたのう」
ジュリオは、よほど心細かったのだろう、市に飛び付いてきた。
「偉かったのう。よう辛抱したのぅ」
市もギュット抱き締めた。
敵の動きも気になるが、煙も気になる。
先ずは、この通路から出る為に無闇に出口を探すより、通路に入った部屋まで戻る事にした。何より、テオのおばば様の部屋ならば、守ってくれそうな気がした。
もう戦いが激化している。あちこちで戦う怒号や音がする。
通路から部屋に出れた。
おばば様の部屋のドアをそっと開けて見ようとようとした時、ドアに誰かがぶち当たった。
ドン!
この階も戦いの場になっているのか?
しかし、まだこの階はシェルドナールの騎士は来ていない。
(ジュリオを連れて逃げるには、広い階段では守りにくい。
敵は大きい剣を振り回してる。なら、狭い階段では私の小振りの剣の方が有利だ。
中央階段を諦めて、奥の螺旋階段で一気に降りる事に決めた。
「ジュリオ、私と一緒に螺旋階段の場所まで、止まらずに走れますか?」
「うん」
顔は強ばっているが、目はしっかりしている。
「よし! 3つ数えたら、このドアから飛び出して走ります。私の手を放さないで下さい」
「うん、放さない」
しっかりした返事だ。
「良い子じゃ。では、1、2の3!」
2人で廊下を走る。
敵は追いかけてこない。
少し広くなったホールで、男が2人部屋から出てきて、見つかってしまった。どうやら、屋敷の金目の物を物色していたようだ。
市はジュリオを後ろにする。
この広い場所で1人を相手にしている隙に、もう1人が、ジュリオに危害を加えるかも知れない。
市は剣を持つ手が小刻みに震えた。
眉を少し下げて、目は涙目になる。
「ははは、このお嬢さん震えてるぜ。ほら、どうした?」
1人はなぶるように、震える市の剣を打つ。
「おい、遊んでないで、さっさとやれよ」
もう1人の男はニヤニヤしながら、それを見ている。
「そうだな、女が剣なんか持ってても役に立たないんだよ」
男は余裕で市に近付いてきて、大振りで剣を市に向けて振り下ろした。
しかし、男が侮っていた女は、にやっと笑い、その切先を軽く避けて、男を横に切った。
残った男から余裕の顔が消えた。
「お前、俺たちを騙したな?」
「この世の中に、か弱い女なんていないのよ。さて、女は最強って事を教えてあげましょう」
市は先ほどとは打って変わって、一部の隙もない構えで、相手を見据える。
男の顔は恐怖に歪んだ。
斬りかかってきた男は、その剣を振り下ろす事なく、倒れた。
市は、またジュリオの手を取って、螺旋階段まで急いだ。
螺旋階段を下る。(このまま誰も来るな)と願ったがそうはいかなかった。
リュッセンの鎧の男が階段の下から登って来た。
「まだ、城に女が残ってたのか? あれ? そのガキ、探してた奴だな。ついてるぜ!」
ヘラヘラ笑う男の目はギラギラしている。
市はこんな男の目を、よく知っている。
女でも子供でも、情けなどしない者の目だ。
男が剣を振り下ろす。市はその剣を受けて流しながら、男の腹に蹴りを入れて、そのまま蹴り落とす。
階段は上が有利である。これを使って一気に下る。
だが、ここで、蹴り落とした男が仲間を呼ぶ。
「ぐぅー。おい、ここに例のガキがいるぞ」
その声を聞き付け、ゾロゾロ集まって来る。
(これは、まずい事になった)
市が躊躇した時、ジュリオが市の手を放した。
「お姉ちゃん、僕を置いて逃げて!」
(幼いのにこんな状況で、他者を思いやれるとは・・・)
「そなたは、今、自分に出来る精一杯の判断をしました。私も今自分が出来る精一杯の事をします」
幼い無垢の瞳が、市を見上げる。
「私は、強い。必ずそなたを守ります。だから、案ずるな」
「はい!」
(おっ、良い返事じゃ)
市は元気の良い返事を聞いて、微笑んだ。
狭い階段を大男が大きな剣を振り回して登ってくる。
市は、階段を上手く使いながら、一歩一歩と下がっていく。
「この女強い」
この声を聞いた、下にいた男が市を見て、指を指す。
「あー! この黒髪! リュッセンを、敗戦に追いやった、魔の黒騎士だ」
(要らぬ事を思い出しおって、こうなれば、仕方ない)
「ホホホ、あの時は物足りなんだ。今日は思う存分暴れましょうぞ」
市は美しい顔を上げて、妖しげに嗤い、剣を高々と振る。しかも衣装は、りんが作ったこの世界にはない魔王的要素な服である。
相手は、あの時の恐怖からか、僅かに怯んだ。
その隙に、目の前の男の肩を切り、男がバランスを崩した。と、その瞬間、その男が市の目の前から消えた。
実際には消えたのではなく、後ろの男が、そいつを後ろに投げ飛ばしたのだ。
「うん? 黒騎士がおると聞いて来たが、こいつが本当にあの黒騎士か?」
大岩のような男が市の前に立ちはだかった。
(これは、抜けられぬの)
「そうじゃ。そう呼ばれたのう」
「ふん、ワシは女は切れん。さっさとその子供を渡せ」
「渡せと言われて、渡すわけなかろう?」
市は先手を打って出た。
ガッ!
相手は素早く剣で止める。
次に大男は市に剣を振り下ろす。
市も剣でその太刀を止めたが、力が強くて、ジリジリと剣が
下がっていく。
「くぅー」
(もう・・もたない)
剣が頭に近付いて来ている。
「ほら お嬢ちゃん諦めな」
大男は力をセーブしている。が、フッと剣が軽くなった。
「何が起こった?」
大男がシールドボックスに入っている。
「市様、間に合いましたぁー」
階段の上を見ると、見知らぬ男とジェパーソンが手を振っている。
「かたじけない、助かりました」
心底ほっとした市が剣を下ろす。
「パパァー」
「ジュリオー!」
市は階段の上にいる男を確認した。
(うん? あれがカガン伯爵かの?)
市は大男をジェパーソンに任せて、階段を掛け上がり、カガン伯爵にジュリオを渡す。
「市様ですね? 妻から聞いています。妻も娘も息子も守って頂きありがとうございます」
(何とも生気のない顔をしておるのぅ。ジュリオは間違いなく母親似じゃ。そうだ。そんな場合ではない)
市はカガンに詰め寄り尋ねた。
「カガン様、ここに陛下が来ておるのですか?」
「は、はい。き、き、来てます」
市の迫力に一歩下がりながら、どもる。
「市様、陛下は魔道士の講堂がある鐘楼方向に走っていたと聞いてます。市様は私達と一緒に城外へ行きましょう」
「私は鐘楼の塔へ行く。ジェパーソン、私をその近くまで飛ばせぬか?」
市の相変わらずの無茶振りにジェパーソンが慌てる。
「今、大男を空間魔法で囲んでいるので、同時発動は失敗する恐れがあり、そんなに近くまで、空間移動ゲートを発動できないかも知れません」
「近くまでで良い。ジュリオ、パパと離れぬよう気を付けての。ではジェパーソン、頼む」
「市様、ゲートが安定しないので、走り抜けるようにしてください」
「うむ、わかった。では参る」
「お姉ちゃん、ありがとう」
市は、ジュリオの声を聞きながら、ゲートの中に走っていった。




