17 黒い塔(2)
市は朝から、これからしなければならない事や、必要な物を書き留めていた。
もし、このメモを見られても、誰も読めないように、平仮名と漢字で書いた。
『○武器 ・・使い慣れた物。薙刀
○魔法以外で 爆発する物・・?
○クッカ酒
○オリナ様に聞かねばならぬ事・・2件
○空間魔法が使える人 』
いろいろ作戦を考えても、 さすがに5分間の短い時間では、何も出来そうにない。
何日か経ったある日、 イースがすれ違いざまに 紙を手渡してきた 。
紙には図書室で会う時間が書かれている 。
書かれていた時間と場所に行くと、図書室の奥まったところに、イースがいた。
二人で会っているのは不自然なので、市は本を探しているふりで近づいた 。
イースが市に布袋を手渡す。中には拳大の石が幾つか入っていた。
「寝る前、お腹の上にこの石を置いて下さい。 この石には、魔力が入っていて、ゆっくり市様の中に流れ込むようになっています 。
紫色の石が 青くなれば、石の中の魔力が空っぽになっています。なので次の石に変えてください 。この石を5個ほど 渡しておきます。 気分が悪い時はやめてくださいね」
「ありがとう。所でイース、塔の中で魔法以外に爆発させたいんじゃが、そのような物を知っておるかの?」
「魔法以外で、爆破する道具はないですよ。対象物を爆破するには、攻撃魔法で爆発するしかないですよ。塔の中で使うと死んじゃいます」
「爆破出来る道具はないのか。困ったのう」
部屋に戻った市は、出来上がった薙刀を見ていた 。
(兄様ならどうする? そういえば兄様が大きい鉄の鎧のような船を作ったのは、爆発する球から守る為であったはず。あれは確か村上水軍の焙烙玉≪ほうろくだま≫と言うたのう。作ってみるかな ?)
硫黄は医薬品ですぐ手に入った。木炭もある。
無いのは、硝石と火打ち石だった。
この2つが見つからず、街をうろうろする日が続いた。
(この世界では、魔法で火はすぐにつけられるので、火打ち石などはいらぬのか? )
自分の指から火が出ないか、ぐぐっと人指し指を睨み付けたが煙すら出ない。
市の護衛の若い騎士のエタンが 、「市様は毎日、何を探しているんですか?」
「火打ち石なのじゃが」
「ひうちいし?」
エタンは聞いたこともない道具に、首を傾げる。
「ここの人達は火をつける時、魔法で指先に火をつけるであろう?でも、私の様に魔法が使えぬ者でもすぐ火を付ける事が出来る道具を探しています」
「市様は魔法が使えないから、火がつけられないんですね」
「そうじゃ。皆のように簡単に、指先に火など出せぬ」
丁寧に自分が出来ない事を言われて、市は何となく憮然とした。
「でも、魔法を使えない人もいますよ。そんな人は、マッチを使いますよ」
「マッチとはなんぞ ?」
「マッチを知らないんですか? 仕方ないなあ」と言いながらマッチを売ってるお店に連れて行ってくれた。
市が、じーっと小さな棒を見ているとエタンがマッチの先をシュッ靴底で擦る。
するとその先に、火がついた。
「ほう、火打ち石も要らぬし、炭火の火種を持ち運びせんでも良いのか?」
「魔法を使えない家も、結構いるんで必要なんですよ」
市はマッチを自分ですってみた。
ポッと棒の先に火がついた。
「うーん。これが魔法でないなんて。不思議じゃ。私にも魔法が使えたかと思うほどじゃのう」
「市様、マッチは小さな子供でも火がつくんですよ」
エタンの言い方にギロッと睨む。
しかし、簡単に火が付くマッチ箱を貰い、また嬉しそうにマッチをする。
エタンは市があまりにも不思議そうにマッチを見るので、マッチの工場にも連れて行ってくれた。
「ここでは、色の変わるマッチも作ってるんです」
「なんと、沢山のマッチを作っておるの」
工場の窓から身を乗り出して、中をのぞくと、 硝石が置いてあった。
( なんと! こんなところに )市は叫びたい気持ちを抑えた。
エタンに知られる事がないよう、硝石を工場の者にお願いして分けてもらった。
今日はエタンのお陰で、材料が全部揃った。
さて、焙烙玉を作ったまでは良かったが、試し打ちが出来ずに困っていた。
とりあえず、大・中・小の大きさの炮烙玉を作ったが、どれくらいの威力で爆発するのか、全くわからなかった。
流石に本番でいきなり使うのは、怖すぎる。
試すなら海が良い。草原は火が燃え移ると、山火事になる可能性がある。
しかし、海であっても、とても大きな音がしたら大騒ぎにになり、調査される。
考えた末、ニコラのいる執事執務室のドアを叩いた。
「どうされました ?」と ニコラが立ち上がって迎えてくれる。
「ニコラ、 少し相談したい事があります。実は、これなんじゃが・・」
テーブルの上に大・中・小の焙烙玉を置く。
「えーと、なんです? これは?」
「焙烙玉という爆発する危険物なんじゃが」
「爆破?!」
ニコラは飛び上がって距離を取り、急いで3つの玉を魔法で囲った。
「 市様はいつも唐突すぎます」
ニコラはバクバクする胸を押さえながら、苦情を言う。
「確かに」と反省しながら、市はニコラに説明を始めた。
「これは魔法を使わずに爆発する球です」
首を傾げるニコラに、説明を続ける。
「つまり魔法が使えない者でも、マッチがあれば火がつくであろう。そのように、魔法が使えない者でも、爆発ができるという玉なのじゃ」
説明が終わると、ニコラはかなり興味を持ったようで、
「これはすごい。でもなぜ、このような物を市様が作ったのですか?」
(きた。 この質問をうまく言いくるめねば、計画が全て駄目になってしまう)
「この世界では、魔法に対抗する盾魔法は存在するが、そうではない大きな攻撃には、あまり対抗する魔法がまだ少ないと聞いて作ってみたのじゃ。しかし、作って見たものの、これを試し打ちをする場所がない。ゆえに海で試し撃ちをしたいと思うておるのだが、許可が欲しい 」
ドキドキしながら、焦りからか、一気に早口で話してしまった。
(不審に思われたかも知れぬ)
ニコラはあっけにとられた顔で、市を見ていたが、テーブルの上の焙烙玉がよほど気になったのか、
「陛下に相談して来ましょう。少しこちらでお待ち下さい」
と言い残し部屋を出て行った。
ニコラが出て行き、後ろでドアが閉まると市は一気に気が抜けた。
はあーーっと長い息を吐いた。
心臓がドキドキなっている。
(うまくごまかせたかの? もしかしたら、バレておるのではないか? 陛下の許可は取れたのか?)
そう思って待っていると、時間が長く感じられた。
ドアが開いた。
「市様! 許可が下りました。 明日早速、見に行こうと仰られています。新しい武器なら内密にしたい、という事なので少数で行くことになりました 。試し打ちの場所も王室の保養地内で行う事になります」
(テオも行くのか 。まずいことになった。しかし、ここまで来ては仕方がない)
作り笑顔で、
「陛下にも是非、見て頂きとうございます」と声を絞り出した。
潮風が吹いているが、中々良い天気になった。
試し打ち日和というか、観光日和だ。
テオフィデールが空間遮断箱に入った焙烙玉を見ている。
「火気厳禁、湿気は禁物とは、なかなか扱いが難しそうだ。しかし、せっかく市が作ったのだから見てみよう」
海をバックに爽やかに笑うテオを見て、何故か市は目を逸らしてしまった。どきっとした。
(やましい気持ちがあると、顔が見れんようになるやも知れぬ)
市は少し戸惑った。
市は、中玉と小玉を投げたいと頼んだので、ニコラがまず初めに、大玉を投げてくれることになった。
ニコラは、 指先に火を灯し大玉の導火線に火をつける 。
そして海に向かって投げる。
カッッと光る。
ドオォォォーーーン。
すぐに恐ろしい音が鳴り響いた。
予想以上の大爆発。
すごい威力に、皆しばらく呆然としていた。
(危なかった。あんなのを塔の中でやってしまっていたら、私、終わっておったの・・)
「市様、すごいです」ニコラは震えながら市の手を取り、
「これは何を標的として、考えられ作ったのですか ?」
(しまった。 考えていなかった)
「ふ、船?」
市は咄嗟に思い付いた単語を口にした。
「なるほど。最近、北に向かう船が襲われる事件が多く、西回りばかりになっているからですね。さすがです」
「そう、そうなのです。ところで、中玉と小玉は私が投げても良いかの ?」
ようやく中玉を投げる事ができる。練習なので、マッチで火をつけて投げた。
どーん。
音は大きいが! 幾分小さな爆発だった。
しかし、近くでは爆発が大きくて、危険である。少し火薬の量を加減して作り直さないといけなかった。最後は小玉を試した。
ポンッと弾けただけだった。
「あれはあれで、何かに使えるかもしれませんよ」
ニコラが慰めてくれた。
シェルドナール城よりずっと南に来ると、海に突き出した半島がある。
その半島に、広大な王家の保養地があり、そこにリンダーホーフ離宮があった。
焙烙玉の試し打ちも終わり、今日はここで宿泊する予定だ。
離宮でディナーも終わり、海の一望できるバルコニーで、市は二つの月明かりで光る海を何も考えず、ただぼーっと眺めていた。
テオフィデールが横に来た時、 ハッと意識が戻った。
「テオ、今日は私の実験に付き合って頂きありがとうござりました」
「俺も忙しかったから、ちょうど息抜きをしたいと思っていたところだったし、市と二人でゆっくり出来て良かった」
テオが近くで嬉しそうに笑う。
市は急に胸が苦しくなった。
(私はあの黒い塔の中から出てくる事が出来るのだろうか? テオの笑う顔をまた見れるのか ?)
そう思うとテオフィデールの顔を見るのが辛くなってきた。
「今日はもう疲れました。もう部屋に戻ります」
市が距離を取ろうとした時、テオフィデールが市を抱きしめた。
いつもなら怒る市だが、大人しくそのまま抱かれていた。
「テオはあったかいのう」
ポツリと一言呟く。
いつもと違う市の様子に、テオフィデールが心配そうに顔を見る。
なぜか市が泣きそうな顔に見えたが、すぐにいつもの市に戻った。
「明日の朝御飯が楽しみじゃの」スルッとテオフィデールから離れた。
部屋へ戻って行く市を見送る時、一瞬月が隠れ暗くなったがすぐに元に戻った。
テオフィデールは胸がざわついた。漠然とした不安を抱え、そのまま寝室に戻った。
城に戻って数日穏やかな日が続いていた。
しかし、今日はとても強い風が朝から吹いていた。
これ以上イースには迷惑かけられない。だから、イースには知らせず決行しようと前々から決めていた。
そして、今日がその決行日だと決めた。
今日の塔の当番はおしゃべりなダリアらしい。
装備は万全。焙烙玉(威力の違う3玉)、マッチ、白ローブ、薙刀 、クッカ酒。
茂みに隠れて、儀式が始まる時を待っていた。
魔道士の一人が言った。
「よし、魔法をローブに移そう」
その時市が飛び出し、後ろからダリアを拘束し短剣をダリアの首に突きつけた。
「動くな 」
「市様?」
ダリア以外の3人が 驚いている。
ダリアは何が起こったか分からず、震えている。
そっとダリアに話す。
「動かないでおくれ。絶対に傷つけるような事はせぬから」
市は怖がらせないよう出来るだけ優しい声で頼んだ。
ダリアは少し震えながらコクコクと頷いた。
「市様、何をしようとしてるのですか?」
「この塔に入ろうとしておるのです」
「市様はこの塔を知らないから、入るなんて言うんです」
「そうです。入れば死にます」
魔道士達は必死で説得を始める。
「私は死ぬつもりはない」
「諦めてください」
魔道士が一歩近付く。
「動くでない。子の娘の首がなくなっても良いのか?」
市が刃物を動かすと、ダリアの首から赤い血が少し流れた。
「市様、お止め下さい!」
仕方なく3人は言う事を聞くと約束してくれた。
「では、さっさとこのローブとダリアのローブ 、そして私に魔法をかけなさい」
ここで押し問答が始まっては、堪らない。
市は、ダリアの血の正体がばれる前に、高圧的な態度にでた。
3人は市の言うまま、出来るだけ沢山の魔法かけた 。
「この中で魔道士が居るはずじゃ」
市は3人を見て聞く。
「私です」
名乗り出たのは、市を召喚したジェパーソンだった。
「そなたに頼みがある。この中で爆発が 聞こえ煙が見えたら、3秒後すぐに入り口付近に空間魔法で、そこに人が入れるくらいの箱型のバリアを作って欲しい」
「中からも外からも、魔法は効きません。市様お願いです。無謀な事はお止め下さい。私があなたをこの世界に呼んだんです。私はあなたに償いをしないといけないんです。こんな事に手を貸すわけにはいきません」
「ほう、そなたが私をこの世界に。じゃあ、先に申しておく。ここに呼んでくれて感謝しておる。では先の件、頼んだぞ」
そう言うとダリアを離し、市は塔の中に入った。 ジェパーソンは急いで市を掴もうと手を伸ばしたが届かなかった。
残された4人はしばらく呆然と市が入った入り口を見ていた。
ジェパーソンがハッと気付き、ダリアの首を見た。が傷一つなかった。
「やはりな。随分と前から計画していたらしい。誰か城へこのことを伝えてくれ」
隣の魔術師が頷くとすぐにきえた。
( この中で魔法が持つのは15分。 どうしたって無理だ。出てきてくれ)
祈るような気持ちでジェパーソンは入り口を見ていた。




