15 薙刀(なぎなた)
(救わねばならぬ)
(でも、武器がない )
市は 兄の愛刀をテオフィデールに、取り上げられたままになっている。
しかも、見ることさえ出来ないように隠してある。
刀に変わる武器が欲しいと思ったが、武器を持たせてもらえない 。
(うーん。テオフィデールにバレぬよう、武器が欲しい 。そうじゃ、薙刀はどうじゃ?)
最近、市は街へ 赤毛のカツラにメイド姿のドイスで出かける事が多くなった。
鍛冶屋で草刈り鎌を作らせているらしい 。
そんな報告を受けて 、テオフィデールは、市に直接「なぜ、鍛冶屋に草刈り鎌を作らせているのか」と聞いた 。
「随分と熱心に、色々と鍛冶屋に注文して作らせているようだが ?」
(ここは慎重に答えないといけない )
市は身構える。
「草刈りをしたくて鎌を作ってもらっております 」
「ん?市が草刈りをするのか?」
「はい、村で見かけて、欲しゅうなりました。」
「草刈り鎌をか?」
「はい 」
にっこり笑う市の目が、どうも怪しい 。
「私、そろそろ歴史学の先生がいらっしゃるので、失礼致します」
市はそそくさとテオフィデールの執務室から出た。
(怪しい 。歴史学が終わった頃に 市の部屋で詳しく聞いてみよう)
講義が終わった頃を見計らい 、テオフィデールが市の部屋を覗くと 、もう誰もいない 。
侍女に聞くと、街へ出かけたらしい 。
(また護衛もつけずに)
「 ニコラ、町で一番腕の良い鍛冶屋に市がいるはずだ。 そこに誰か警護に向かわせろ」
テオフィデールの心配をよそに、呑気に市は鍛冶屋に向かっていた。
町の鍛冶屋の職人気質の親父ティムは、 市の作って欲しいという鎌に 頭を悩ませていた。
なぜなら、その鎌は刃の位置が逆なのだ。
山の放牧地で使われる鎌の様に長くて細いのだが、反り返った方に刃があるのだ。これを長い棒に付けて仕上げて欲しいと言われたのだが、
見たことのない形なので、なかなか難しい。
2回、試作品を作ったが、市の要望通りの出来にはならなかった。
以前にテオフィデールも細い刀を持ってきてそれと同じ様なのを作って欲しいと言われたが、あの刀の切れ味には、近付ける事すら出来なかった。
あの時は、1ヶ月の間、昼夜を問わず頑張ったが、納得の行く刀にはならなかった。
「こんにちは、ティム。今度の鎌の出来はどうじゃ?」
「市・・ドイスさん、上々の切れ味ですよ」
刃を見ると中々の輝きである。
「でも、本当にこっちに刃が付いてていいんですか?これじゃあ、草刈り出来ないけどなあ」
ティムは何度も同じ事を聞いてくる。
そこは聞こえないふりをする。
「ティム、いつ完成するかの?」
「昨日、道具屋に柄の部分が届いたんで、今日中ドイスさんの希望の形に仕上げます」
ティムの赤ら顔が満足そうだった。
(いい薙刀が出来そうじゃのう)
「楽しみじゃ。ではまた明日来ます」
市は朝早くから目が覚めた。
(朝食を頂いたら、すぐに鍛冶屋に取りに行こう)
・・そう思っていたのに。
朝食前にテオフィデールの執務室に呼ばれた。
「昨日の夜、鍛冶屋で市が作らせていた物をもらって来てやったぞ」
テオフィデールの顔は笑っているだが、 目は怒っていた 。
「草刈り鎌に似ているが、これは何だ 」
市は助けを求めて横を見るが、ニコラは首を振っている。
(これは正直に言った方が良いという合図か? 一度も完成品に触らずに、取り上げられるのは悔しい。 せめて一振でもしたい )
「テオ様、その道具の使い方を説明しとうございます。なので少々お時間を下され。すぐ後で参ります」
テオフィデールとニコラが待っていると、市はドレスからズボン姿に着替え現れた 。
「説明はここでは出来ませぬゆえ、庭園までお越し下され」
市は2人が鎌を持ってついてくるのを見て、やるだけはやってみようと思った。
ニコラから 鎌を渡された市は、両手を下に降ろした状態で柄を持ち、背筋を伸ばし立った。
(脇構え)
その立ち姿を見るとそれが何に使われる物かすぐに分かった。
「 市、それはやはり武器だな。どう使う?」
「はい。では、テオ様、ご覧くだされ」
(脇構えからの脛打ち)
刀の先を上に向けて
(八相の構えからの面打ち)
舞を踊るように素振りする。
(生き生きしているな)
市は刀を取り上げても また新しい武器を持つだろうと、テオフィデールは確信した。
「その武器はなんだ?」
「薙刀です。武家の女はこれを習う者が多いのです」
そう言いながら、市は素振りをし続ける 。
「この世界では女は武器を持たない 。もちろん、戦にも出ないんだ」
「ええ、私の元いたところでも薙刀を練習しますが、そうそう戦に出る女はあまりいません 」
「じゃあどうして武器に固執するんだ 」
市はようやく素振りを止めて、テオフィデールを見た。
「私はこちらの世界に来るまで、男の方や、誰かが始めた戦を城内で見たり聞いたりするだけでした。 軍評定(作戦会議)で良い意見があっても、口出しせず戦が終わるのをただ祈るだけ。そして、負ければ 炎に包まれ行く城を見ながら、死ぬのを待つのみ。思ったのじゃ、生まれ変わったら、我が人生を自分で決めたい。 そして死を待つなら戦って死にたいと思うたのです」
テオフィデールの方をまっすぐ見る 。
「だから武器がいるのです」
薙刀を構えた市は凛としている。
(なるほど召喚時は、敵に追い詰められて死ぬところだったのか)
テオフィデールは召喚時の鬼気迫る市を思い出していた。
「ここにいるなら、お前の人生の選択は市が決めればいい。 薙刀を返そう」
「 本当かの?」
「ああ。しかし、これ以上剣などはもう作るな。市の部屋が武器庫になりなりそうだ」
「練習用に模造刀をいくつか作ってしもうた。が、それは了承して下され」
「いつの間に・・」
(模造刀ならいいか。惚れた弱みだな)
嬉しそうに素振りをし始めた市を見て、テオフィデールは頭を掻いた。
そして、この薙刀を許した事が後悔する事になるとは、この時は思いも寄らなかった・・
短くてすみません。




